育成年代だからこそシンプルで基礎的な練習が重要

公開:2021/12/17

更新:2021/12/16

【他競技から学ぶ】シリーズ第1弾

競技や種目を問わず、チームとして結果を残す、トップ選手を輩出するチームの指導者から学ぶことは多くあります。今回は、中学校バドミントン界を席巻し、桃田賢斗選手、渡辺勇大選手、東野有紗選手など、数多くのトッププレーヤーを育成してきた齋藤亘先生の指導者としての考え方に迫ります。

シンプルな練習に取り組ませることが大切

―本日はよろしくお願いします。以前、バドミントン指導者向けDVDを制作いただいたときにも感じたことですが、ふたば未来学園の選手の皆さんは基本的な練習に取り組まれている印象が強いです。やはり、基礎・基本というものを大切にされているのでしょうか?

↑ふたば未来学園中学校バドミントン部顧問の齋藤先生

齋藤先生(以下:齋藤):そうですね。今は、映像であったり文献であったり、多く情報が出ていて、どこのチームもやっている練習はそう変わらないのではないかと思います。練習のバリエーションや、奇をてらった練習というものはそうそうありません。その中で、基礎的な技術を積み重ねていくこと。このチームの練習はシンプルな練習や基礎的な練習が大半を占めますが、それをしっかり確実に取り組むことが次のステップに繋がると考えています。少しずつの積み重ねがゆくゆくは大きな差になるのかなと思います。

―中学生だと、基礎的な練習は飽きてしまったりモチベーションが保てなかったりということもあるのではないでしょうか?

齋藤:もちろんそういうこともあります。このチームにはある程度目的意識を持った選手が入ってきますが、それでもやはり気持ちに波があります。良いときもあれば悪いときもある。中学生年代は心も体も発育の途中ですので、そこをどうフォローできるかが大事だと思います。この年代の指導者の役割として、もちろん良い練習を提示するということも重要ですが、それ以上にたとえ単調な練習であっても「どう練習に取り組ませるか」という部分も非常に大切だと感じています。

―地味な練習をどれだけやらせ込めるかということですね。練習への取り組み方の部分で工夫されていることはありますか?

齋藤:一番は生活面を大切にするということです。生活が安定すれば、練習の集中度や質も上がってきます。逆に生活面が安定していないと練習に集中できないということがあります。生活というのは、学校生活もそうですし日常生活もそうです。そうしたすべてをバドミントンに繋げていく。バドミントンを通して人づくり、人間育成をするという思いで選手と接するようにしています。

齋藤:それから、チームのスローガンとして「明るく、楽しく、全力で」というものを掲げています。その対比として「無理矢理、厳しく、全力で」があるという話もしています。全力で取り組むことは変わらないけれど、「明るく・楽しく自分からやるのと、無理矢理・厳しくやらされるのとどっちがいいのか?」、そんなことを選手に問いながら、選手自身が自発的に明るく、楽しく取り組めるように導くことを意識しています。中学生はどうしても気が抜けてしまったり、適当になってしまったりすることがあるので、その時は厳しく指導をしますが、バトミントンに対しては「明るく、楽しく、全力で」この3点を常に意識させるようにしています。

魅力ある選手を育てていきたい

↑選手を指導する齋藤先生

齋藤:このチームで強化をはじめて16年になります。初期の頃は生徒に負けじと練習に交じって、とにかくバドミントンを強くしたいという思いで指導をしていました。そこから指導者として様々な経験をする中で、今改めて思うのは、魅力ある選手を育てたいということです。プレーはもちろんですが、周りに応援される選手、バドミントンに取り組む姿勢や人間性、そうした部分を磨いていきたいと思っています。もちろん選手としての魅力はバドミントンが強いということがあるので、バドミントンの強化を通して人間育成もしながら、魅力ある選手を育てていけるよう心がけています。

成功している人には何かしら共通点がある

―先生ご自身が影響を受けた指導者の方はいらっしゃいますか?

齋藤:指導者というわけではないですが、違う分野で一流とされている方々の本から影響を受けることが非常に多いですね。野村克也さんや稲盛和夫さん、松下幸之助さんなどの書籍を読んで、成功したり何かを成し遂げたりする人には、何か共通する普遍的なこと、核となる部分があるなということを感じます。

―具体的にその核という部分はどのようなところでしょうか?

齋藤:そうですね。私なりに思うのは、「人間性を高める」「徳を積む」ということですかね。生徒に徳を積むと言ってもなかなかわからないので、運やチャンスを掴むという言い方をしていますが。成功している人はいつチャンスが来てもそれを掴めるような視野の広さや柔軟性、掴み取る感覚というものを持っているなと思います。運やチャンスは自分で掴み取るものだという感覚は、スポーツ選手にとっても非常に重要だと感じています。積み重ねて積み重ねて、我慢して我慢しても視野が狭いとチャンスは通り過ぎてしまいます。チャンスを自ら掴み取れる選手になって欲しいという話は選手たちにもしています。
最近はボランティア活動として地域の清掃活動を行っていますが、ごみは気付かないと拾えないですし、ごみを拾うためには周りをよく見ることが重要になります。そうした活動を通して、自分で何かを掴み取る、見つけるという視野を養って欲しいと考えています。

↑普遍なもの=人間性であり徳を積むこと

経験に勝る学習はない

―これまで数多くのトップ選手を育ててこられましたが、その中で大切にされてきた考え方はありますか?

齋藤:「経験に勝る学習はない」ということです。オリンピックでメダルを取った渡辺勇大選手は、中学生2年生の時に初めて海外遠征に連れて行きましたが、その時は世界相手に全く歯が立ちませんでした。でも、その経験をしてぐっと伸びた。何かを経験して、感動すること、感情を揺さぶられること。感動する経験や痛い思いをする経験、そういう経験が後々の成長に繋がるなと感じています。指導者としては、そうした経験ができる環境をできるだけ整備してあげるということも重要な役割になるなと思います。

―コロナ禍においては、なかなかそうした環境を整えることも難しいですね

齋藤:確かにおっしゃる通りです。バドミントンも2020年は軒並み大会が中止になりました。そんな中で、2年連続で中止となった全日本ジュニア選手権の代替大会として、今年の11月に『富岡・ふたばオープン2021 全日本ジュニアバドミントンフェスティバル』を、ふたば未来学園の体育館と富岡町総合体育館の2会場で開催しました。コロナ禍で実戦の機会を奪われた選手たちに、何とか試合の場を提供したいと考えて、全国の多くの指導者の方々に賛同、ご協力をいただきながら2日間大会を運営しました。ジュニア年代の1年は、大人の1年とは違います。その時にする経験や体験は、その選手の将来に大きな影響があると考えていますし、先ほどもお話しした通り育成年代においては何より経験をするということが重要だと思いますので、このような機会をつくれて本当に良かったと思っています。

また、東日本大震災の被災地であるこの地で大会ができたということも大きな財産になりました。まだまだ復興半ばのこの地に、ジュニアの選手たちが全国から集まる。さらに、指導者や保護者の方々も来ていただく。そうすることで、少しでもこの町に活気が生まれてくれればと思います。来年以降も継続して大会は実施したいと考えています。

震災を経験して感じた日常のありがたみ

―震災のお話が出ましたが、2011年の東日本大震災以降、活動が休止になったり拠点が変わったりと多大な影響、多くのご苦労があったかと思います。震災を経験してご自身の指導に影響はありましたか?

齋藤:それは大きく影響がありました。震災前までは、バドミントンができるのが当たり前で練習できるのが当たりまえ。専用の体育館もあって、選手も全国から精鋭が集まってきていて、「自分たちはエリート集団」だと高をくくっていた部分が指導者にも選手にもあったと思います。それが、震災で日常が奪われた。2か月間チームの活動が停止して、次の場所に行っても練習場所がなかった。そうした状況で、改めてバドミントンができることの有難さを感じました。練習に行きたくない、トレーニングしたくない、なんてことはとてもじゃないけど言えない、という感覚が選手にも私自身にも芽生えましたね。今回のオリンピックに出た3選手も震災を経験していますし、そうした経験を通してバドミントンができる有難さを感じて練習に励んできたからこそ、今の結果にも繋がっているのかなと感じます。私自身も、バドミントンを指導できる有難さ、当たり前ではないからこそ真剣に真摯に取り組まなければいけないという思いを常に持つようになりました。

バドミントン、スポーツを通して人が集う町に

―最後に今後の目標を聞かせてください

齋藤:先ほどお話しした通り、学校のあるこの双葉郡や以前拠点を置いていた富岡町は、震災の影響を大きく受けてまだ復興半ばの地域です。この地で活動をさせていただくからには、やはり地域に貢献したいと考えています。我々が取り組んでいるバドミントン、スポーツを通して、町に活気をもたらす。地域に貢献する。そういう活動を続けていくことが今後の目標です。そのためにも、バドミントンの強化はもちろんですが、地域でのボランティア活動や先ほどお伝えした大会は今後も継続して行っていきたいと考えています。

―本日は貴重なお話しありがとうございました。

<取材を終えて>
世界レベルの選手を数多く輩出してきたふたば未来学園中学校バトミントン部で16年に渡り指導をされてきた齋藤先生。今回お話をさせていただく中で、「スポーツの力、魅力は何か」ということを改めて考えるきっかけをいただいたように思います。スポーツに取り組む姿勢、思いは、競技・種目を超えて多くの指導者や選手の皆さんに参考になるのではないでしょうか。(取材担当 大野)

【ふたば未来学園中学校・高等学校】
福島県立富岡第一中学校として富岡高校と一貫でバドミントンの強化をはじめ、全国からトップレベルの選手が集う強豪校として名を馳せる。2011年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の影響により、当時の校舎や活動拠点が利用不可に。2か月後に、福島県猪苗代町にある猪苗代高校に富岡高校サテライト校が設置され、富岡第一中学校の選手は猪苗代中学校に活動拠点を移す。猪苗代中学校で活動していた時期には、2011年全中で6種目中5種目で優勝。2018年には6種目完全制覇を達成した。2019年より、双葉郡広野町に開校したふたば未来学園中学校拠点を移し活動している。
卒業生には、世界ランク1位にもなった桃田賢斗選手、オリンピックメダリストの渡辺勇大選手、東野有紗選手など、世界レベルで活躍する選手が多数。

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