世界と戦うために欠かせない「脳力」を高める~宇都宮ブレックスビッグマンキャンプ取材から見えたこと~

公開:2021/11/12

2021年11月3日 Bリーグ初代チャンピオンであり、日本代表選手も輩出する宇都宮ブレックス。
そのブレックスのユースチーム主催の「ビッグマンキャンプ」が実施された。参加条件は、【小学生】170cm以上・【中学生】180cm以上・【高校生】185cm以上。この基準を満たせば、競技成績や競技歴に関係なく参加が可能で、参加費は無料だ。ここでは、クリニック当日の様子をレポートする。

当日は、宇都宮ブレックスユースチームの選手も含めて7名の選手が参加。バスケットボール歴僅か5か月の小学6年生も県外から参加していた。

まずは、U18ヘッドコーチの荒井コーチから今回のキャンプの狙いと「ビックマン」に必要な考え方の説明が行われた。

能力を補う「脳力」

能力と脳力について説明する荒井尚光コーチ

まず最初に、田臥勇太選手や比江島慎選手など世界で戦うプレーヤーを間近で見てきた荒井コーチが語ったのは「ハンドリング」と「脳力」の重要性だ。

運動能力、身体能力は生まれ持った資質によるところが大きい。もちろん、努力をすることで能力を高めることはできる。しかし、「脳力」つまり考える力、判断する力を身に付け、伸ばすことは、だれにでもできる。特に日本人選手が世界で戦うためには、この「脳力」を高めて、能力をカバーすることが必要になる。

さらにその脳力を生かすために必要なとなるのがハンドリングだ。ハンドリング技術は、自分が考えて判断したことを実現するために欠かせない。そのため、サイズに関係なく育成年代に身に付けておきたい重要な要素の一つである。

「遊びと競争」の要素を取り入れたW.UP

手と足で違う動きを行う

ストレッチを行った後に取り組まれたのが、いわゆるコーディネーショントレーニングだ。左右の手で違う動作を行う、手と足を違うリズムで動かしながら動くなど、体と頭を使うメニューが行われた。

次のメニューはボールハンドリングと判断力を養うゲーム。

2チームに分けれて、3×3のマスに自チームの印を置いていき、先に縦・横・斜めのいずれか1列を埋めたチームが勝利となる。選手は移動する際に常にドリブルをつかなければいけない。

まずはサイドラインからペイントエリアの距離、その後ハーフラインから、逆サイドのエンドラインから、と距離を伸ばすことで徐々にレベルを上げながら、ドリブルの技術と状況を素早く判断する「脳力」を鍛えていくメニューだ。遊び要素もあっており、ウォーミングアップには最適。育成年代の指導ではぜひ取り入れたい練習だ。

頭をに刺激を入れながら判断力を養うメニュー

続いては簡単なハンドリングドリル。メニュー自体はオーソドックスなものであったが、ここでコーチ陣が強調して何度も繰り返していたのが、「失敗を恐れないこと」と「なぜこの練習をするのかを考えること」の2点。例えば自分の体の前にドリブルを突く練習で、パワーポジションを崩さずにどこまで手を前に伸ばせてドリブルが付けるか。自分ができる範囲でやれば失敗はしないが成長もしない。ドリブルを突ける範囲を広げることが、実際の試合のどのような場面に活きるのか?コーチがその重要性を説明しながら、出来るだけ遠くにドリブルができるよう挑戦することを促す。ハンドリング練習だけに限らず、「選手が挑戦できる環境をつくる」ことも指導者として求められる役割であることを強く感じた。

2人組で競争する要素も入れることで練習の密度を高めることもできる

リングを使わずにできるリバウンド練習

今回の取材で一番興味深かった練習がこのメニューだ。

センターサークルに円形で並び、全員が同じ方向に回る。コーチの上の合図でボールを上に投げて、前の人や後ろの人が投げたボールをキャッチする。回るスピードを変えたり、キャッチする前に1回転するなど、難易度を変えながら行われたこの練習の狙いは2つある。

チームの一体感も醸成できる

1つは「チームの結束力を高めること」。全員がボールをキャッチするには、投げてと受けての連携が欠かせない。さらに、うまく行かなかったときにどう調整するのか。選手同士で会話するように指導者が促すと、全員がボールをキャッチするために、順番を入れ替えたり周りの選手に声を掛けたり、自然とハドル組んで作戦を考えたりと選手同士でのコミュニケーションが増えていく。荒井コーチはまさにこのコミュニケーションが、試合でのコート上のコミュニケーションに繋がると語ってくれた。

また、もう一つの狙いは「リバウンドの練習」だ。自分が投げたボールから目を切って違うボールを取る。一回転してボールから目を切った状況をつくって、自分の取るべきボールを見つけて素早くキャッチする。ボールウォッチャーなることを防ぐ、一度ボールから目を切って相手の位置を確認してから再度ボールを取りに行く。リングを使わなくても、実戦で必要となるリバウンドの要素を自然と身に付けることができるメニューは、カテゴリーに関係なくすぐに取り組むことができる練習ではないだろうか。

「考えさせる」工夫が選手の判断力を養う

最後に行われたのは、4on4の練習。1チームの4人を2人組に分けて、それぞれに別の色のビブスを付ける。同じ色のビブスを付けた選手へのパスは禁止。つまり、ボールをつなぐためには自チームの違うビブスを来た2名のどちらかにパスをしなければいけない。

ポイントを解説する荒井コーチ

そのことにより、パスの出し手は常に周りを見てパスの出し先を見つける必要があり、レシーバーになりうる選手も、ボールハンドラーとの距離やディフェンスとの位置を見ながらボールを受ける動きをする必要が生まれる。

ドリブルの回数を制限したり、ショットクロックを短く設定したりすることで難易度の調整も可能。状況判断能力、オフボールの動き、ディフェンスのスティールを狙う判断やカバーリングなど、様々な要素が含まれた実戦練習だ。

今回は、「ビックマンキャンプ」という名称であったものの、その内容は「サイズに関係なく必要なもの」であった。本記事の内容も参考にしながら、自チームの指導にもそのエッセンスを加えてみてはいかがだろうか。

-取材を終えて
ひと昔前までは、ビックマンといえばポストプレーやリバウンドなど、ゴール下でのプレーが中心であり、各カテゴリーにおいて高身長の選手がその役割を担うことがほとんどであった。しかし、現代のバスケットボールにおいては、サイズやポジションに関係なくオールラウンドなプレーが求められる。(その点に関してはBasketballJUMPでも「オールラウンダー特集」で詳しく紹介している)
しかし、育成年代においては、目の前の勝利を得るために「大きい選手がインサイドでプレーする」というチームが多くあることも事実である。それ自体が悪いわけではないが、バスケットボール選手の育成という観点からみれば、育成年代だからこそサイズのある選手もハンドリングやロングレンジのシュートに取り組むことが、選手の可能性を広げることに繋がるのは間違いない。そうした意味でも、今回の企画は非常に興味深い内容であった。このビックマンキャンプに参加した選手が、将来大きな舞台で輝くことが今から楽しみでならない。(取材:大野)

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