シュートの飛距離を伸ばしたい、ボールに力が伝わらないと悩む選手たちへ─元プロ選手・小野元氏に聞く  

公開:2023/02/10

更新:2023/02/13

元プロバスケットボールプレーヤーであり、現在はスクール経営やクラブチームの責任者として小中学生をコーチしている小野元氏に、シューティング上達のコツと具体的な練習法についてインタビューしました。ボールに力を伝え、遠くに飛ばすには何が必要なのか?

小野 元

自走できる選手を育てるために

一つの指導方法がすべての選手に合っているかどうかはわからないし、シュートがうまくいかない場合の選手個別の原因も、簡単にはわからないというのが正直なところです。それを前提とした上で、シュートの上達、あるいはシューターの育成について私が根底に持っている理念からお話ししますと、自走できる選手を育てるということです。自走とは、自分自身でセルフコーチングできること。自分自身の状態を常に把握して、適宜修正を加えることができる選手を育てる。ここに重きを置いて、シュート技術の指導をしています。

シューティングフローを構成する6つの要素

私は、シュート技術を一連のフロー(流れ)として捉えています。フロー(流れ)とは、パスをキャッチする前段階、あるいはドリブルでシュートスポットに入る足運びから、ボールがリングを通過するまでの、トータルの過程を指します。そして、この「シューティングフロー」において重要な要素を以下の6つ
に分解し、提示しています(図1)。なお、理解度を考慮すると、これらを細かく指導をしていくのは中学生以上の年代が適切だと思っています。

図1

①ボールコア、②ライン、③カラダの軸、④リズム、⑤ボールキャッチ、⑥シュートステップ。全体は一連の流れの中にあるわけですが、選手の「気づき」を促すキーワードとして、要素分解しました。それぞれについて、説明していきましょう。

1.ボールコア

ボールの中心を手の平が捉えているか。ツーハンドからワンハンドに切り替えた選手によく見られるのは、ガイドハンド(利き手でないほうの手)の位置が、ボールの手前になっていることです。この状態だとボールを乗せている利き手の手首が十分に返らない(手前に曲がらない)ために、ボールリフトした時にボールが体から離れてしまって、弾道が低くなります。正確な軌道を描くために、ボールリフトの段階で、利き手がボールの中心を捉えているか。

手の中からこぼれそうなボールをガイドハンド(利き手でないほうの手)でサポートした状態でシュートを打っているとしたら、それは非効率であり、遠くに飛ばない原因にもなっている可能性があります。利き手でしっかりボールコアを捉えることを意識してほしいです。

2.ライン

リングの中心線に対してまっすぐにボールが飛んでいるか。これは単純に左右のブレをチェックする視点です。リリースポイントから垂直に伸びる線がリングの中心線に重なっているか、を確認します。シュートが外れた時に、それが飛距離の問題なのか、あるいは左右のブレの問題なのかを整理しておく必要があります。トレーニングでは、「左右のブレをなくす」 「前後のブレをなくす」という2段階の課題設定を設けています。

3.カラダの軸

地面に対して垂直になるべき軸が体の真ん中に来ているか。真ん中というのは、各自がとるシュートスタンスでの、両足の真ん中です。試合中に激しい動きの中でシュートを打つ場合に、この軸がブレてしまう。あるいは子どもたちの場合は、シュートの予備動作で大きな反動を使って、軸が崩れた状態でボールリリースするケースがよく見られます。軸がブレてしまうと、うまく力を伝達することができません。特に、股関節と膝を曲げた時にこの軸がピタッと垂直に収まっていることが大切です。子どもたちに指導する時は、「力の通り道」という言い方をしています。力の通り道が一直線になっていますか? くねくね蛇行していませんか?

軸が真ん中に収まっているかを確認し、調整する方法としては、片足立ちで膝を曲げて、2秒ほど静止してからボールリフトしてシュートを打つ練習がおすすめです(下記動画)。

4.リズム

シューティング動作において、力を抜くタイミングと、力を入れるタイミングのメリハリを意味しています。例としてシュートの予備動作でボールディップする時は、胸を起こした状態で肩甲骨をストンと落とします。ここは力を抜く局面。別の例として、ドリブルからボールを止めてシュートに入る時には、背中が収縮します。ここは力を入れる局面。脱力・出力のタイミングが適切であること。そのようなメリハリのある体の使い方を「リズム」と表現して選手の理解を促しています。

5.ボールキャッチ

ボールの勢いをうまく吸収しながらキャッチできない、またドリブルを止めるタイミングが早すぎてボールを保持する時間が長くなり、その間に背中が固まってしまうといった例をよく見かけます。

ボールキャッチは、シューティングフロー(流れ)を邪魔しないように、ボールを体に吸収する作業です。前項のリズムをつくる上でも、無駄のない滑らかなシュート動作をつくるためにも、柔らかく手を準備する習慣が大切です。

6.シュートステップ

習熟レベルが一定以上になった時、かなり重要になると考えられるのがこの要素です。状況に応じて、適切なシュートステップを使い分けられるかどうかで、シュートパフォーマンスが大きく変わってきます。自分の得意なステップだけを使っていたら、どこかで頭打ちになりやすいため、年代に応じた基本的なステップのバリエーションを身につけることをおすすめします。


ワンツーステップ、ドロップワンツーステップ、ホップステップ、ワンフットなど基本的なものは、小学生の段階から教えても差し支えないと思います。私たちのスクール生では、ウォーミングアップに、ボールを持たない状態で様々なステップワークを取り入れた結果、シュートの上達が早かったという例があります。

シュートスタンスをチェックしよう

図2は、選手それぞれが持っている課題に対して、おすすめの要素トレーニングの導線を描いたものです。今回の取材の主テーマは「飛距離」と「ボールに力を伝える」こととお聞きしましたので、「カラダの軸」と「リズム」にフォーカスをしてトレーニングをしていただくとよいのではないかと思います。あくまでも目安ですが。

図2

カラダの軸づくりで大切にしたいのは、シュートスタンスです。両足の位置が、リングに対してフラット(平行)になっている選手が多いです。特にミニバス時代からツーハンドで練習してきた選手は、体をリングに正対させようとする意識が強いため、この傾向がよく見られます。この状態だと、シューティングショルダー(利き肩)がリングから遠くなるため、シュートの過程で、ひねり動作が
発生しやすく、手のひらにボールを乗せることも難しくなります。ワンハンドシュートは、シューティングショルダー(利き肩)が少し前になるように、シューティングフット(利き手側の足)を半歩前に置くスタンスがおすすめです。

シュート指導では、ワンハンドを導入する段階で、「両手でボールを挟む」ツーハンドシュートと、「手のひらにボールを乗せる」ワンハンドシュートの根本的なカラダの使い方の違いについて、気づいてもらう必要があります。シュートスタンスの習得は、効率的にチカラを伝えるためのファーストステップです。


ボールを無理に遠くに飛ばそうとすると、おへそが前に突っ込んでしまったり、上体が前に倒れてしまったりするのが典型パターンです。これを防ぐための基礎練習としては、膝と股関節をやや曲げた状態(パワーポジションより浅い姿勢)で、その場で軽くホッピングを繰り返し、最後に前方に小さくスライドしながらシュートします。「ポンポンポンポーン」といったリズムを取り入れたシュート
練習です(下記動画)。

特に「シュート飛距離を伸ばす」という課題ターゲットに対しては、チカラの流れを止めないように、このような導入動作をつくってアプローチします。トレーニングでは、課題に応じて「静から動」「動から動」の2パターンを使い分けることを大切にしています

リズムをつくるトレーニング

「リズム」については、先ほど、力を入れるタイミングと抜くタイミングの話をしました。これを頭で理解するのは、子どもたちにとってハードルが高いかもしれません。前項で紹介したポッピング動作をする時、ボールを持っている腕からは力を抜き、「吊り下げた状態で」と指示します。すると自然に肩甲骨が下がって背中から力が抜けた状態をつくることができます。

この時、表裏一体的に重要になるが「胸を起こしている状態」です。胸を起こした(胸を張った)状態を維持できれば、肩甲骨の動きでうまくリズムをつくることができます。反対に猫背の状態で肩甲骨を脱力しようとすると、できないのが体で実感できると思います。バスケットボールでよく行われるサイドステップをしながら腕を回すウォーミングアップ動作の時も、胸を起こすことをぜひ意識してほしいです(下記動画)。

胸を起こして背中をしっかり使える選手と、猫背の状態で腕だけ回しているような選手とでは、シュートパフォーマンスで大きな差が生じます。コービー・ブライアントも著書の中で同じようなことを言っていて、彼は背中をピンと張って肩甲骨を動かすトレーニングを、現役ラストシーズンに行っていたと記しています。この、「胸を起こした状態で背中を使える」能力は、バスケットボールのスキルアップにおいてはかなり重要な要素で、ドリブル等にも関係してきます。

富樫勇樹選手、河村勇輝選手、並里成選手。いずれも身長が高くないにもかかわらず、Bリーグ屈指のガードとして活躍している選手たちですが、彼らに共通するのは、姿勢が良いことです。胸が起きている状態で、体の遠くでボールを自由に扱う能力に長けています。彼らは早い時期からそれができていたから上達が早かったのだろうと思います。

脱力・出力のタイミングを覚えるトレーニング

脱力・出力のタイミングを体が覚えないと、ボールの飛距離は伸びません。これを身につけるためにおすすめなのが、リングに向かってランニングをしてきて、パスを受けてワンツーステップで踏み込む練習です。右利きの選手なら、左・右で踏み込んで、脱力・出力の切り替えを意識しながら右足に思い切り体重をシフトさせてシュートを打ちます。少々前のめりになるぐらいのスピードでこれを行います。この動きは、理にかなった体の使い方が自然と求められるので、飛距離を伸ばすためのよいトレーニングになります。ただし、これはある程度シュートフォームが固まってきている選手が対象です(下記動画)。

イチロー選手のストレッチもおすすめ

肩甲骨の本来の動きを引き出し、背中の筋肉を使えるようにするトレーニングとしては、イチロー選手がよくやっていた動的ストレッチがおすすめです。仰向けに寝て、片脚を反対側にひねった状態で、ひねった脚を同じ側の腕を床に這わせるように大きく動かします。こうすると、胸が起きた状態で肩甲骨が広い範囲で滑らかに動くようになります(下記動画)。

もう一つ、私が現役時代にやっていたトレーニングを紹介しますと、1~2kg程度の軽いダンベル(または500mlのペットボトル)を両手に持って肩に構え、脇を締めた状態から、重りを肩甲骨で跳ね返すようにジャンプを繰り返します。肩甲骨の反応を呼び起こし、下半身と上半身の連動性を高めるトレーニングです。背中のリズミカルな収縮・弛緩を感じることができるはずです(下記動画)。


小野 元 (おの・はじめ) トップリーグで13年間、シューティングガードとしてプレーした元プロバスケット選手。 中央大学を卒業後、東芝ブレイブサンダース(現 川崎ブレイブサンダース)に入団。その後、熊本ヴォルターズ、ライジング福岡でプレー。ユニバーシアード日本代表にも2度選出されている。現役引退後は自身が代表を務めるONE Basketball Academyを立ち上げ、「シューターがシューターを育てる」をテーマに育成コーチとして活動中。

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