社会に出て通用する人間を輩出する~ライジングゼファーフクオカユースチームの取り組み~

公開:2021/07/02

今回取材したのは、Bリーグ2部に所属するライジングゼファーフクオカのユースチーム。2021年4月よりチームの育成強化部長に就任し、5月からU15チームのHCを務める鶴我隆博コーチは、公立中学校の教員として長年バスケットボールの指導に携わり、全中、Jrオールスター、国体等、合わせて10回もの全国制覇を果たした名将。現在Bリーグや日本代表で活躍する選手も育て、バスケ王国福岡を代表する指導者の一人だ。今回は、ライジングゼファーフクオカに関わるようになった経緯や、部活動とユースチームでの指導の違いについて、鶴我コーチに直接お話を伺った。

―本日はよろしくお願いします。早速ですが、チームの現状について教えてください。現在何名の選手が所属されているのでしょうか?

鶴我コーチ(以下:鶴):よろしくお願いします。現在、U15チームのメンバーは、昨年まで所属していた9名に、トライアウトで選考した15名の計24名です。今年度から中体連との二重登録が禁止になりましたが、2年生、3年生には夏の全国大会までは中体連登録をしている選手も数名いますね。1年生は全員がユースの登録ですし、夏以降は2,3年生もこちらの登録に切り替えて、全員がユースの登録になる予定です。
コーチは私のほかにアシスタントコーチが1名。私は、U18のアシスタントコーチも兼任しております。

練習中に指示を出す鶴我隆博コーチ

―ありがとうございます。普段の練習時間はどのくらいでしょうか?

鶴:緊急事態宣言発令前は、大体18:30~21:30の約3時間。緊急事態宣言中は体育館を20:00までに出なければいけませんでしたので、実質1時間ほどしか練習ができませんでした。今週から(取材した時期に緊急事態宣言が解除された)は21:00まで体育館が使えるので、少し時間が増えました。こうした状況でも体育館を貸していただけることが本当にありがたいですね。

―選手は、福岡県内の生徒が多いのでしょうか?

鶴:福岡県の選手が多いですが、県外から通っている選手もいます。学校が終わってからの活動で、夜も遅くなりますので保護者の方のご協力が必要になりますし、選手のために毎回送り迎えをされている保護者の方々には本当に頭が下がる思いです。

地元福岡にトップチームを定着させたい

―鶴我コーチは昨年まで公立中学校(西福岡中学校)の教員としてバスケットボール部の顧問を務めておられました。今回、ライジングゼファーフクオカでの指導に携わる決断をされたのはなぜでしょうか?

鶴:長年公立中学校で勤務をしてきて、昨年定年を迎えました。再任用で公立中学校に残って部活動を指導するという選択肢ももちろんありましたし、ありがたいことにお声をかけていただいたチームもありました。そんな中で、やはり地元福岡のトップチームであるライジングゼファーフクオカを、もっと地元に根付かせたい、福岡ソフトバンクホークスのような愛されるチームにしたいという思いがありました。その中で、会社としても、地元に定着するために育成年代から力を入れて選手を育てるという思いを持っているというお話を伺って、ぜひここでチャレンジしたいと思いました。

―やはり福岡と言えばバスケ王国というイメージがあります。特に高校生年代には、福岡大附属大濠高校と福岡第一高校という、全国トップクラスのチームがありますね。先ほどU18のアシスタントコーチも兼任されているとお話しをいただきましたが、高体連との住み分けはどのようにお考えでしょうか?

鶴:U18の方は、高校生年代はやはり、インターハイ・ウィンターカップという大きな大会がありますし、福岡には大濠、第一という強豪校がありますので、まだまだユースでプレーしたいという選手は少ないかなと感じます。
現状は、第一の井手口先生や大濠の片峯先生とも連絡を取らせていただきながら、高校でなかなか活躍のチャンスがない選手に、ユース登録をしてもらってプレーしてもらうなど、お互いに協力しながらU18年代のレベルアップを図っていければと考えています。
ユースの方も、地域リーグや夏のチャンピオンシップ、強化リーグや海外のクラブも含めたインターナショナル大会が実施されるなど、実戦の場も徐々にではありますが整備されていますので、今後はユースを希望する選手も増えてくるかもしれませんが。

「人間性」を高める指導は変わらない

―ユースの指導と部活動での指導で何か変化はありました?

鶴:指導者としては大きく変わるものはありません。私自身は、ユースチームといえども「プロ選手の養成機関ではない」と思っていますので。もちろん、選手達はプロを目指して練習に励み、指導者もそこを目指して指導をしますが、それがすべてではありません。まずは、「社会に出て通用する人間になること」。最低限の礼儀であったり、あいさつであったり、いい意味での上下関係。先輩を敬い、後輩を思いやる。そうした「人間」として必要な部分を一番大切にしています。これは、中学校で指導してきたことと何ら変わりはありません。プロのユースだからバスケだけをしておけば良いということはないですし、練習に取り組む姿勢や態度、返事の仕方、話の聞き方。そうしたバスケットボール以外の指導も大切にしています。

―ユースチームでは、学校での指導と比べて選手と関わる時間が少なくなるかと思います。そうした中で、今伺った人間性の部分を指導することは難しいのではないでしょうか?

鶴:中学校ですと部活動以外にも、授業中や休み時間、朝練の時など、選手に接する機会も多いですし、日々の生活態度も見えやすいです。ユースでは、練習の時間以外関わることがありませんので、学校での姿が見えない。練習時間も限られ、集合時間に全員が揃うわけでもありませんので、部活動の時ほどミーティングに時間を割くことも難しい。そうした中でも、バスケットボールだけ、コートだけの付き合いにならないように、日々何とか時間を作って、コミュニケーションを取りながら、生活態度の部分も伝えていかなければいけないと思っています。
また、緊急事態宣言が解除されましたので、これからは選手が通っている学校へ訪問して、選手の日々の様子を聞いて回る予定です。普段どんな生活をしているのか、学校での生活態度はどうか。ユースでは見えない部分は、学校の先生方と連携を取らせていただきながら情報を集めて、ユースでの活動と日々の生活を繋げていきたいと考えています。自分自身が教員時代には、野球やサッカーのクラブチームに所属している生徒の試合を観に行く機会もありましたし、クラブの指導者の方とお話をしていただくこともありました。学校の先生とも連携を取らせていただく中で、お互いに協力をしあいながら良い関係ができればと考えています。

まずは「個」の強化

―技術面の指導では何か変化はありましたか?

鶴:技術面でも指導を大きく変えたということはありません。まずはとにかく「個」を強化すること。特に今は、走りのメニューと、1on1の技術を磨くことに注力をしています。初めにもお伝えしたように、中学校の部活に所属している選手もいますので、毎回全員が練習に参加できるわけではありません。その中で、まずは個々のレベルを高めることを重視しています。10月に全国大会の予選が控えていますので、夏以降から徐々にチーム練習の割合を増やして、チームとして高めていければと思っています。

ランメニューを行う選手

リバウンド練習で激しく体をぶつけ合う

ディフェンスフットワークの練習

お話しの通り、この日の練習は、ラン系のメニューとオフェンス・ディフェンスの1on1の練習が中心。練習メニュー自体はオーソドックスなものが中心ですが、その中でも、パスの強さ・足さばき・ディフェンスの際の腕の使い方・フィニッシュの精度といった、細かい部分にこだわり抜いた指導が展開されていました。また、練習中、選手とともにコートに立ち、時には自分自身で見本を見せながら、常に声を掛けながら選手を鼓舞する鶴我コーチの姿がとても印象的でした。

―最後に今後の目標をお聞かせください

鶴:先ほどからもお伝えしているように、まずは「社会に出て通用する、人のためになる人間を育成する」これが一番です。それから、ゆくゆくはライジングゼファーフクオカのトップチームで活躍選手を輩出することです。ライジングゼファーフクオカが地元にもっと根付いて愛されるチームになる。そのために育成からしっかりとした環境を作っていきたいと考えています。ユースが頑張ることで、トップチームの刺激にもなると思いますし、トップチームのレベルが上がればユース選手のあこがれにもなります。トップチームとユースチームがお互いに刺激し合いながら、チーム全体でレベルを高めて行きたいと考えています。


取材を終えて
今回の取材で最も印象的だったのは、「プロ選手の養成機関ではない」というお言葉でした。ユースと言えども、トップレベルでプレーできるのは一握り。厳しい競争に敗れ、たとえバスケットボールの道をあきらめなければならないとしても、社会で活躍できる人間を育成する。中学校教員時代から鶴我コーチが貫いてきた「人としての教育へのこだわり」は、ユースに指導の場を移しても変わりません。バスケットボール王国福岡の育成年代を牽引し続ける鶴我コーチの挑戦と、今後のライジングゼファーフクオカの活躍に注目していきたいと思います。


ライジングゼファーフクオカ

ライジングゼファーフクオカHP:https://r-zephyr.com/

あなたの悩みや疑問に、経験豊富な指導者が答えます。
回答は、当サイト内で順次公開。 皆様からのご質問をお待ちしております。
(質問者が中高生の場合は、指導者または保護者のアカウントからご質問を送信してください)