愛読書深掘りインタビュー・その2

公開:2021/05/07

更新:2021/06/19

堀 里也新潟市立白新中学校男子バスケットボール部監督) 

堀先生には、「手紙屋」という書籍についてお話をうかがいました。主人公の若者が、正体不明の「手紙屋」と名乗る人物と10通の手紙のやり取りを通して成長していく物語。就職活動中の大学生を主人公とした「手紙屋」と、進路に悩む高校生が主人公の「手紙屋 蛍雪編」のシリーズ2作があります。どちらも、バスケットボール指導者として、また教員として生徒たちに接する上で、とても役立ったとおっしゃっています。


──まず、この本との出会いについてお聞かせください。

大学(筑波大学)の2つ上の先輩に、現在東京医療保健大学女子バスケットボール部の監督をされている恩塚亨さんがいます。恩塚さんに「おすすめの本はないですか?」とお聞きした時、「教員だったらこれを読まなきゃダメだね」とさらっと言われて(笑)。さっそく読んでみました。読み終わってみて、恩塚さんがどうしてこの本をすすめたのか、すごく腑に落ちたのを覚えています。この本で語られているテーマは、「何のために勉強するのか」「何のために働くのか」という、生き方に関わる根底の部分です。その「何のために」という問いを改めて自分自身に投げかけ、深く考えるきっかけを与えてくれました。

──本に書かれている内容で、指導現場で実際に活用している部分はありますか?

シリーズ2作目の蛍雪編の中で、「何のために学ぶのか」というテーマについて、主人公と手紙屋との間で紐解いていく場面があります。「自分を磨くため」そして「人の役に立つため」。このあたりが強調されていたと記憶しています。勉強をバスケットに置き換えた場合もこれは当てはまり、自分を磨くための道具としてバスケットを捉える。教えるほうも教えられるほうも、好きでやっているわけだけれども、お互いが共有している時間を大切にするため、相手(仲間)のことを考えながらコートに立つことが重要だよ、という話をして、チーム作りの基礎に役立てています。

物語の中で、主人公の指南役である手紙屋は、勉強して学力が進歩する様子を、二次関数で説明しています。y=ax2(二乗)。yが実力を示し、xは時間を示しています。初めのうちは時間をかけてもなかなか実力が上がらないが、ある時期を越えれば、少しの時間で大きく成長できるようになる。そして、その成長曲線を描く上で重要なのが係数aである。aに大きく関係してくるのが興味・関心の度合い。それが大きければ大きいほど、得られる成果も大きくなり、自分も大きく成長できる。興味を持ってワクワクした気持ちで取り組めば、二次関数的な急激な成長カーブを描くことができるということを、手紙屋が言っています。これは中学生にも理解できるので、よく話しています。バスケットがうまくなりたいという衝動や探求心が強ければ強いほど、うまくなれる、と。

「努力をした先に成果がある」という単純な考え方はあまり良くない、と私自身、最近強く思うようになりました。与えられた目標に対して闇雲に努力するのではなく、衝動や探求心、好奇心(ワクワク感)の要素がとても重要ではないかと思っています。

──この小説のすごいところは、社会人としてある程度の経験を持つ大人であれば、多くの人が漠然と考えているであろう生き方の原理原則のような概念、わかっているけどうまく表現できないような概念を、誰もが理解できる表現で言語化し、わかりやすく伝えているところだと思います。

その通りだと思います。漠然とした原理原則をわかりやすく説明しているところですね。それが、この本を他の方々にもおすすめしたい理由です。私自身、教員としての原点を改めて深く思考するきっかけを与えてくれた本でありました。「わかっているつもり」で指導現場に立つことの危うさは常に感じていて、読書をすることで自分を見つめ直す機会を持つようにしていますが、その中でも強烈な印象があった二冊と言えます。

──生徒さんにも薦めていますか?

赴任先の学校では、図書館にこの本を入れてくれるよう、必ずお願いしています。学校図書に入れてもらっているのですが、実際の貸し出し回数は少ないようです(笑)。中学生には少々難しいのかもしれません。

──ある程度、社会経験を経た人が読むと、すごく響く内容だと思います。むしろ、保護者に読んでもらったほうがよいのでは。

前任校では、毎年、保護者の方々に薦めていました。とても良かったです、という感想を多くいただき、私としてはヒットした感触がありました。

──アンケートのコメント欄で、「学ぶことの意義を生徒に伝えるために、何度も読み返した」とご回答いただきました。この本に書かれている内容を踏まえ、具体的に、どのような内容を生徒さんに伝えていますか。

「蛍雪編」の中で、「生きていくための道具を身に着ける」ことが勉強の大きな目的であることが語られます。誰にとっても道具は必要であるし、その時代その時代で、必要となる道具は変わります。自らをバージョンアップするために、学び続けることが重要である、こうした内容は、常日頃から生徒たちに話しています。私たち教員も、古い価値観で教壇に立ち続けることが生徒とのズレを生み出してしまいます。教員の側も常にアップデートを意識して学び続けていることも、生徒たちに伝えています。

──ありがとうございました。

2021年4月26日、オンラインにて取材

堀 里也 Satoya Hori

新潟県出身 鳥屋野中学校卒業後に能代工業高校に進みキャプテンを務める。筑波大学へ進学した後、教員として地元新潟へ戻り、2017年には母校鳥屋野中学校を率いて全中準優勝を果たす。U16男子日本代表のアシスタントコーチを務めるなど、育成年代の指導者として精力的に活動を続けている。


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