愛読書深掘りインタビュー・その1

公開:2021/04/30

更新:2021/05/07

東海大学付属諏訪高校男子バスケットボール部 入野貴幸ヘッドコーチ 

入野先生には2冊の本を挙げていただきましたが、そのうち、シンクロナイズドスイミングで数々の実績を残した名コーチ、井村雅代さんの「あなたが変わるまで、わたしはあきらめない」についてうかがいました。この本から、どんな影響を受けたのか?


──この本を読まれたきっかけから、お聞かせください。

2010年にインターハイ3位という成績を残すことができたのですが、その前年、2009年頃に読みました。私自身、指導者として過渡期を迎えていた時期で、指導の基軸をどこに置いていくか、とても悩んでいた頃に手に取ったのが、この本でした。その基軸をつくる上で、大きな影響を与えてくれました。翌年に、先ほど言った全国3位という結果がついてきたことで、私にとってのターニングポイントを後押ししてくれた一冊として、心に残っています。

それまでやってきたことが間違っていなかったんだ、と肯定してくれる後押しをいただいた、そういう思いがあります。指導者は皆、日々悩み、迷いながらコートに立っています。悩んでいた自分に自信を与えてくれたのが、この本の中で語られる、井村さんの数々の言葉でした。

──井村さんと言えば、厳しく指導する姿が報じられることが多い人物です。どのような面に惹かれましたか。

あれだけの実績を残している方です。ただ厳しいだけでなく、指導哲学は確固たるものを持っていらっしゃるんだろうな、と。井村さんが指導する選手たちからは、真摯さが伝わってきます。真面目に努力することの大切さを再認識したいとの思いもありました。

その当時、東海大諏訪高校には全国から優秀な選手が集まってくるような状況ではなく、入部してきた生徒たちを鍛え上げる形。そんな環境下で、井村さんがおっしゃる「心の才能を伸ばす」「努力する心を育てる」というフレーズが響きました。心の才能は、身長や身体能力とは違い、誰もが等しく持っているものです。その部分に働きかけるコーチングを学びたかった。

心の才能を育てることの重要性については、その後2013年にチェコで行われたFIBA(国際バスケットボール連盟)のコーチクリニックに参加した折に、自分の中で納得できる経験がありました。同時にU-19ワールドカップが行われていて、近くにいたNBAダラス・マーベリックスのスカウトに、選手のどこを見ているのか聞いてみたんです。身体的特徴から運動能力、いろいろな項目をチェックするが、最後に決め手となるのはインテリジェンスとハートだ、と彼は言いました。

──それが、すなわち心の才能だと。

はい。学校の部活動でバスケットボールを指導している以上、教育者としての軸も重要です。井村さんはこの本の中で、教育者としてあるべき姿についても、随所で語っています。それらを読んで、迷いが吹っ切れたのを覚えています。

──その他、共感した部分、刺激を受けた部分は?

中国代表チームを指導されていた時期、文化や生活スタイルが異なる中で、井村さんはダメなものはダメ、良いものは良い、と選手たちにはっきりとものを言っています。自分がやっていることが良いのか悪いのか、それが曖昧なコーチだと選手は不安だと思います。○か×を明確に示してやることの重要性。そのあたりにも学びがありました。

──井村さんは、この本を読む前から気になるコーチの一人でしたか?

私自身、熱いタイプなので、井村さん、あるいは故・星野仙一さんといった、昭和の闘将的な雰囲気を持つ方は気になっていました。当時は20代でしたので、余計にその志向が強かったと思います。

けれども、ただ熱いだけでなくサイエンスとフィロソフィーの明確な裏付けがある指導者であることが、本を読んでいてよくわかりました。

──井村さん以外にも、他競技の指導者を参考にされたことはありますか?

数多くあります。いろいろなコーチの本を読んでいます。ラグビーのエディ・ジョーンズさん(元日本代表ヘッドコーチ)、岩出雅之さん(帝京大学ラグビー部監督)、サッカーではスペインでユースチームの指導をされていた村松尚登さん…。本棚には、ラグビーとサッカー関係が多いですね。井村さんもおっしゃっていますが、選手はロボットではないし、指導は常に応用問題。コーチが一つのチャンネルしか持っていないと、選手の多様性にも対応できません。自分がもともと持つ嗜好を越えて、あらゆる分野に目を向けて勉強しなければいけないな、と常々思っています。

──ありがとうございました。

(2021年4月22日、オンラインにて取材)

入野 貴幸 Takayuki Irino

神奈川県出身 東海大学付属第三高校(現東海大学付属諏訪高校)を卒業後、東海大学へ進学。陸川章監督の指導のもと、4年次にはキャプテンを務めチームを関東大学リーグ一部昇格へ導く。その後、母校の男子バスケットボール部で指導者としてキャリアをスタート。就任5年目の2010年沖縄インターハイでは長野県史上初の3位入賞、2018年には東海インターハイ3位入賞など、全国の舞台で活躍するチームを作り上げるとともに、次のカテゴリーで活躍する選手を多く輩出している。


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