実戦重視とプレータイム均一化で選手の意識が変わった

公開:2021/06/18

更新:2021/07/30

長野県 松本市立菅野中学校男子バスケットボール部 篠田悠里絵監督

コロナ禍の練習実態を調査したアンケートにご回答をいただいた指導者への追加取材、2例目は長野県松本市の公立中学、市立菅野中学校で指導されている篠田悠里絵先生です。練習時間が短く制限されるなかで効率性を追求し、練習も試合も全選手が均等にプレーできるよう配慮したことで、選手たちの意識が変わるとともに、ご自身の指導観にも大きな変化があったそうです。


篠田悠里絵監督。取材はオンラインで行いました。

練習をいかにゲームライクに行うか

──まずチームの概要について。現在部員数は何名ですか?

篠田:新1年生が入部して24名です。今年は1年生が5名で少なかったのですが、例年、各学年10名前後ぐらいの規模で活動しているチームです。私は昨年からこの学校に赴任しました。初任校から数えて指導歴は8年目です。

──現在(取材日の6月5日)、長野県はそれほど感染状況が深刻ではないと思います。普通に練習できている状況ですか?

篠田:練習はできていますが、対外試合はかなり制限されています。その時その時に県が設定する警戒レベルによって、市内のみの練習試合か、あるいは地区まで範囲を広げてよいか、といった形での制限を受ける中で活動しています。

──今回のアンケートでは、対外的な活動が制限されて思うように練習試合ができない、それが大きな問題である、という回答がとても多かったです。篠田先生には、アンケート自由記述欄で、「短い練習時間で走るだけのランメニューは全くやらず、ゲームのなかで状況に適した判断ができる練習、シュート練習を増やした」とご回答いただきました。これは、練習時間が短く制限される中での効率性を重視し、できるだけ実戦的な練習内容を増やした、ということですか?

篠田:昨年は1日の練習時間が1時間に制限された時期もありました。そうした状況下で、全員にいろんな経験を積ませて、バスケットの技術戦術を磨いてもらいたい、との思いがありました。

──コロナ感染拡大前とは、指導の考え方が大きく変わったのでしょうか?

篠田:練習をいかにゲームライクに行うか、により焦点を当てるようになりました。練習試合ができないなか、チーム内で競争意識を高めることがチームの成長につながると思いましたので。昨年、4~5月の練習中断期間が空けて6月に再集合した時には、試合も固定メンバーで戦うことはせず、全員均等にチャンスを与えることを明言し、以来、練習も試合もその基本方針を貫いています。対外試合が行えない分、2~3分の短い時間で5対5の練習を多くし、頻繁に選手交代するルーティンを多用しています。

自主練をする子が増えた

──アンケートでは、文章の結びとして「より多くの選手にチャンスを与えた取り組みは選手の意識が向上し、練習の質も高まり、よかったと思う」とお書きいただきました。

篠田:プレー中の状況判断が良くなっているように感じます。その日のコート上で完結せず、あえて中途半端で終わらせることも重要なのかな、と今は思っていて、少し物足りないぐらいの状態で練習を終わらせることで、翌日以降の練習に対するモチベーションにつながるのではないかと。

初任校で長時間練習していた時代は、自主練する子がほとんどいませんでした。「この子たちは、なぜ自主練をしてくれないんだろう? どうして、もっとうまくなろうと思わないんだろう?」という心境で見ていたのですが、選手自身がうまくなりたい、と思うきっかけを与えるのが練習であって、練習の中で完璧を求めすぎず、明日につながるやり方をしていかなければいけない。コロナ下での環境変化により、私自身、指導者としての考え方が大きく変わりつつあります。帰宅後、近くのリングで練習しましたとか、自宅でドリブル練習しました、と部活ノートに書いてくる子もいて、全体練習以外の時間で自分をどう高めるか、自ら考えてくれる子が増えてきたように感じます。

Googleドライブを活用して動画共有

──アンケートでは、動画の利用についても触れていただきました。Googleドライブを活用しているそうですね。

篠田:私のGoogleドライブアカウントの中に、菅野中学男子バスケットボール部専用のフォルダを作りました。自チームの試合動画や、チームで練習しているプレーをNBA選手がどう行っているか、などの切り抜き動画も入れて、選手や保護者の方々が閲覧できるようにしています。新しい動画をアップロードした時には、保護者全員が入っているグループLINEで告知をしています。

篠田監督のGoogleドライブと、試合動画例

──コロナ以前から、それはやっていたのでしょうか?

篠田:いいえ。コロナで多くの保護者が練習試合を観に来れなくなってしまったので、それを補完するのが目的でした。試合会場に入れる1~2名の保護者の方に撮影をお願いして、私が編集したものをアップロードしています。保護者に観ていただくことが第一ですが、選手たちも観てくれています。試合ではプレータイムが全員均等になるよう起用していますので、「自分は出ていないから見たくない」という選手はいないはずで、閲覧頻度は比較的高いと思います。私がその場で指摘したことを後で動画で確認し、たとえば「ディフェンス時に足が動いていなかったから明日の練習では意識してやってみよう」といったモチベーションにもつながっているようです。

バスケットの楽しさ、素晴らしさを伝えるために

──最後に、コロナ下でご自身が経験されたことで、全国の指導者の方々と共有したいことなどありましたら、付け加えてください。

篠田:これまでは勝つことを優先して、試合では特定の選手だけを出場させ、練習でもその子たちへの負荷が大きくなるような指導スタイルでした。その結果、主力選手の怪我が増えてしまった。控え選手を出した場合も、大きく戦力ダウンしてしまうため試合で良い経験ができない。初任校では高校でバスケットを続けてくれる子が少数しかいませんでした。2校目では、高校で続ける子は多かったけれども、主力に怪我が多かったのは同じです。バスケットの楽しさ、素晴らしさを子どもたちにどうすれば伝えることができるか、どうすれば高校で、また大人になってからもバスケットを続けてくれるかを再度考え、何度も選手交代ができるスポーツであることに注目して、先ほど言ったプレータイムを均一化する方法を採用しました。

昨年来、子どもたちがバスケットを楽しんでくれている様子を見て、このアプローチをもっと高めて、各人が短いプレータイムの中でハードにプレーできるチームを作っていきたいと考えています。育成年代の指導のあり方について、この子たちから学ばせていただきました。

(2021年6月5日、オンラインにて取材)

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