育成年代からオールラウンドプレーヤーの養成を

公開:2021/04/16

更新:2021/04/15

日立ハイテク クーガーズ  内海知秀ヘッドコーチ 

かつて女子日本代表チームを率いた内海知秀氏は、世界のレベルを目の当たりにする中で、日本のバスケットボール界が進化向上していくための方向性を常に意識し、現場に落とし込んできました。指導者としてのキャリア、個人史から始まり、アンダーカテゴリーの育成論まで、幅広くお話をうかがいました。


強豪チームで培われた帝王学

──指導者を目指したきっかけは?

父親が教員でバスケットボールの指導をしていました。その影響もあって、幼少の頃からバスケットに親しむ環境はありました。中学・高校とバスケット部に入って活動する中で、将来は教員を目指してバスケットの指導をしたいと考えるようになりました。その流れで体育系の大学に進み本格的に指導者への道を歩み始めました。

──能代工業高校から日本体育大学に進まれますが、当時から国内有数の強豪だったチームでプレーする中で、のちに指導者として役立つ経験をたくさんされたと思います。

能代工業は私が入学する段階で、すでに常勝チームでした。勝つためにはどれだけの練習をしなければならないか、ということを学びましたし、学校の看板を背負っているバスケット部の一員として、日頃からの素行も気をつけるといった意識を持って生活していました。

──実業団チーム(日本鉱業)でのプレーを経て、最初に指導されたのが札幌大学の男子チーム。関東・関西の有名大学に比べると、優秀な選手が集まりにくい環境だったと思います。

その通りです。リクルート面では大きなハンディキャップがありました。選手たちを育てながら、チームとしてもレベルアップしていかなければならない、そうした課題に直面しましたが、当時、私が教えることができたのは、自分自身が選手時代に経験したこと。しかし、レベルの違いもあって、私がやってきたことをそのままやらせるわけにはいかない。選手たちのレベルに合わせて、時間をかけて技術を高めていく努力をかなりしました。札幌大学へは、バスケットの指導者であると同時に教員として赴任しましたので、しっかり人間教育をしなければならない、という思いで学生たちとは接していました。その時、選手たちをレベルアップさせるために一つ一つ積み上げていったアプローチが、私の指導者としての基盤をつくったと思います。

「勝てるチーム」と「いいチーム」の両立

──その後、2001年からジャパンエナジー女子(現ENEOSサンフラワーズ)のヘッドコーチを務められます。大きく環境が変わったと思います。

個人技術の面では、ジャパンエナジーの選手たちのほうが数段高いレベルにありました。ただし基礎を疎かにしてよいかというと決してそうではなく、常勝チームをつくり上げていく上でも人間教育を含めて基礎を重視していく視点は、札幌大学での経験をかなり活かすことができました。その上で、勝つための戦術を高いレベルで追及していく。大学生の場合は、「いいチーム」を作り上げることが重要で、たとえ負けたとしても「あのチームはいいチームだ」と評価されれば、ある程度目的を達成したことになります。日本一を目指す実業団チームは、勝つことが伴わないといけませんから、当初から、その違いは十分認識して指導に当たりました。「勝てるチーム」と「いいチーム」を両立させ、かつ選手個々の成長を促すこと。

──両立させるのは大変だと思います。

大変です。でもそれが指導者の役割です。

オールラウンドプレーヤーの必要性

──日本代表チームの監督も兼務されている時期がありました。

世界を見ることができ、日本のバスケットボールの現在位置を知ることができ、将来に向けての長期ビジョンを描く上で、私自身とてもよい経験をさせていただきました。最初に感じたのは、やはり身体の大きさ、高さ、強さといったフィジカル面の大きな差です。スピードやシュート力では日本のほうが上回っているという見方はそれ以前からありました。それは確かに感じましたが、相手も進化する中で、そうした日本のアドバンテージが次第に薄れていくのも実感しました。

そういう現実に直面して日本の選手たちに共通する課題は、一つは身体の強さ、当たりの強さです。身長で言うと180cmぐらいあって、身体も強い、走れる、シュート力もある、オールラウンドな選手を数多く育てていかないといけない、という思いが強く、代表に招集した選手たちにもそのような意識を持ってプレーすることを求めてきました。代表選手だからと言って普段やっていることをやればよいわけでなく、さらに成長してほしいですから。

シュート力、1対1の強さ、パス能力

──ここからは、バスケットボールの具体的なプレー面に少し踏み込んでお聞きします。一番重要視しているスキルは何ですか?

点を取るスポーツですから、やはりシュートが重要です。現在の所属チーム(Wリーグの日立ハイテククーガーズ)でも、選手たちが簡単にシュートを外してしまうのが目につきます。いくら良いプレーでつないでも、最後のシュートが決まらなければ意味がないです。個人としてシュートを決める能力を徹底して磨くこと、これが大事。特に女子の場合は、イージーショットをどれだけ確実に決められるか。

次は、1対1の局面での強さ。これは日本のバスケットボール全体に言えることで、相手を崩していく起点になります。それからもう1つは、パスです。パスの強さ、種類。シチュエーションに応じて、適切なパスを選択する能力が大事です。最近の試合を見ていると、男子はBリーグで外国人選手にも揉まれて相手をうまくかわすためパス能力は高まってきたと感じますが、女子はまだまだです。

いくら良い戦術を持っていても、個人スキルの確実性がないと最後に得点を決めきることができません。ここの重要性は、いくら強調してもし過ぎることはないと思っています。

──それらの課題は年代問わず、共通するものですね。戦術面では?

私が一貫して大事だと思ってきたのはトランジションです。素材が十分に揃ったチームであればハーフコートだけで横綱相撲で勝てるかもしれないけれど、仮に日本でそれが通用しても、世界に出た時には勝てないです。だから日本のバスケットボール全体が目指す方向として、トランジションは常に追求していかねばならないテーマだと思います。格下のチームが格上の相手と戦う時は、すべてこれが当てはまります。リズムを自チーム側に引き寄せるためにキーとなるプレーでもある。このトランジションでしっかり得点を決めるためにも、先ほど言ったシュートとパスの精度を上げる、そして1対1で強くなることが重要です。

アンダーカテゴリーに望むこと

──育成年代の指導者の方々に対して、強調しておきたいことは何かありますか?

女子で言えば、最近アンダーカテゴリーの選手たちを見ると、ドリブルワーク等はかなり上手になってきているのかな、と思います。また、私が代表監督をやっている当時から、ワンハンドシュートを低い年代の選手たちにも推奨してほしいと言ってきましたが、これも、目にする機会が増えてきたような気がします。若い選手のプレーの幅を広げるのは重要なことです。戦術的に少し難しいと思われるようなプレー、例えば2対2、ピック、オフボールスクリーンなども、指導者側がまだ無理かなと思っていても、やらせてみればできるかもしれない、そのような視点も持っていただきたいです。これはもちろん、先ほど言ったシュート、パス、1対1といった基礎を抑えた上で、のことですが。

──アンダーカテゴリーから、こういう選手が出てきてほしい、といった希望は?

先ほどお話ししたように、ある程度身長があって、身体も強い、走れる、シュート力もあるオールラウンドプレーヤーですね。あとはポイントガード。日本でポイントガードといえば身長の低い選手がやるイメージが強いと思いますが、適性があれば身長が高くても若いうちからポイントガードとして育ててほしいです。

(2021年4月5日、オンラインにて取材)


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内海 知秀 Tomohide Utsumi

能代工業、日本体育大学を経て日本鉱業でプレー。1981年~1988年まで日本代表でも活躍。引退後は指導者に転身し、ジャパンエナジー女子(現ENEOSサンフラワーズ)を強豪チームへと引き上げる。女子日本代表HCも務め、2013年、2015年のアジア選手権を連覇。リオデジャネイロオリンピックにも出場を果たした。2020年シーズンより、日立ハイテク クーガーズのHCに就任。

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