楽しむこと、チャレンジをすること、自分の強味を出すこと、に集中する

公開:2021/07/23

更新:2021/08/26

新潟アルビレックスBBラビッツ・溝部稚菜選手が取り組んだメンタルトレーニング

Wリーグの新潟アルビレックスBBラビッツでプレーする溝部稚菜(みぞべ・ちな)選手は大学時代、あることをきっかけにしてメンタルトレーニングに取り組むようになりました。その経緯、トレーニングの成果、また日々実践していることなどをうかがいました。


溝部稚菜選手。咋シーズンからWリーグでプレーしている。

精神的に追い詰められる中で、メンタルトレーナーに相談

──メンタルトレーナーの大儀見浩介氏の指導を受けながらメンタルトレーニングを行っているとお聞きしました。専門家に相談してみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

「大学3年生の時に、バスケットボール部の監督との関係がうまくいかずに悩むようになりました。小学生の頃からバスケットを続けてきて、初めてプレーすることが怖くなってしまい、もう限界だ、という状態まで追いつめられました。バスケットもやめ、大学もやめてしまおうかと考えていた時に、知人の紹介で大儀見さんと出会いました。自分のメンタルの弱さに向き合うことに対して抵抗感もありましたが、どうしても今の状況を変えたい、との思いで、指導を受けることにしました」

──第一印象はどのようなものでしたか?

「個人トレーニングを受けた初日から、大儀見さんの言葉が一つ一つ私の中に入ってきたのを覚えています。今まで聞いたことがなかったようなポジティブな表現で語りかけていただき、自分が変われるという期待感が大きくなっていきました」

──その時にかけられた言葉で、特に印象に残っているキーワードはありますか?

「自分自身の頑張りが足りない、あるいは気持ちの弱さが現在の状況をつくってしまったという思考がすごく強かったのですが、あなたは少し頑張りすぎているから、少しリラックスを覚えよう、ポジティブに物事を考えるようにしていこう、と言っていただきました。自分が頑張りすぎているなんて、全く思っていませんでしたから、これを聞いて、とても楽になりました」

──個人トレーニングはどの程度のペースで行ったのですか。

「月1~2回のペースです。私の近況報告をしながら、種々アドバイスをいただく形です」

──どん底の状態から、どのようなプロセスで立ち直っていったのですか。

バスケットボールが楽しめる気持ちを少しずつ戻していこう、とアドバイスいただき、最初はその部分から取り組みました。監督との関係については、ある程度割り切って考えることとし、周囲の方々の助けもあって徐々に修復することができました」

──周りの方々は、溝部さんが変わろうとしていることに気づいてくれた。

「たぶん、そうだと思います」

目標があればモチベーションが上がり、モチベーションが高ければパフォーマンスも上がる

──その後、大儀見さんとともにメンタル強化を図っていく中で、ご自身の中で重視して取り組んできたことは何ですか?

「目標設定することです。日々の練習、そして生活の中でも目標をつくって生きていくこと。今日、明日、1週間、1ヶ月と、スパンで区切って、それぞれの目標を立てていく。目標があればモチベーションにつながるし、モチベーションが高ければ高いほどパフォーマンスも上がっていくことを学びました。

自分が最終的にどうなりたいのか。バスケットボール選手として、どのレベルを目指すのか。その目標を達成するために、中期、短期的にやらなければならないことを組み立てていく考え方。これが私の中でとても役立ちました。当時は大学3年生でしたので、Wリーグの選手になるという大きな目標を立て、試合でアピールをすること、また練習や体づくりのトレーニングで自分にとって必要なことを一つ一つ精査して積み上げていくことができたと思います。最大の目標である“Wに行く”をブレないで持ち続けたことで、小さなプロセスを積み重ねることができました」

↑練習に励む溝部選手

──Wに入るという目標を達成した現在は、新たな目標設定をしているわけですね。

「昨シーズンが1年目で未知の世界でしたが、絶対にビビらないでチャレンジしていくことを目標に掲げました。より具体的には、プレータイムを少しでも多くもらう、そして出してもらったら必ず得点をとる。これを目標にしました。達成するために、練習でも必ずチャレンジの要素を入れることを意識しました」

──日々の目標を立てたとしても、うまくいかない場合もたくさんあると思います。

「結果にこだわったり、うまくやろうと思うと、空回りしてしまいます。私の場合は、楽しむこと、チャレンジをすること、自分の強味を出すこと。これらを実行面での優先課題としています。このやり方が一番自分に合っていると、メンタルトレーニングをしていく中で気がつきました」

──確かに、それらは外部からの影響を受けずに、自分の中だけでほぼ完結する要素と言えますね。自分がやれたかどうか。やれたら一定の満足感を得られる。

毎回毎回ベストを尽くす、という考え方は私にとってやりやすかったです。一方で1試合で何点取る、といった数値的な目標も掲げてはいて、それも見据えてはいます」

何がやりたいのか、を見極めて新たな思考と行動を生み出す

──プレーヤーとして本格的にメンタルトレーニングに取り組んできて、その意義はどんなところに感じていますか。

「メンタルな要素がパフォーマンスに大きく影響することを身に染みて感じました。NBAでも選手個人個人でメンタルコーチと契約しているという話を聞きます。試合中でも、“ここはいったん落ち着こう”とか“ここは1本チャレンジしよう”とか気持ちの持ち方一つでプレーの選択も変わってくるのではないかなと。メンタルをどうつくっていくか、はプレーヤーにとってとても重要だと思います」

──バスケットボールは小学生からプレー経験があるとのことですが、メンタルトレーニングをもっと早い時期から知っていればよかったと思いますか?

「自分の性格や思考パターンを分析し、“何がやりたいのか”を見極めて新たな思考と行動を生み出していくプロセス。これはバスケットボールだけでなく、人生に対する考え方を変えることにもつながります。もっと早く知っていれば、私自身の今の状況は、違うものになっていたのではないかな。私のやってきたことが小学生にそのまま活かせるのかどうかはわかりませんが、目標設定の大切さなどを噛み砕いて教えてあげることは、意義あるのではないかと思います」

──試合でいつもうまくいかないと感じているプレーヤーに対して、ご自身の経験を踏まえて何かアドバイスできることがあれば。

「もともとアガり症で、試合になると心拍数がどんどん上がってしまって、足が震えるといったこともありました。そこで、試合前に敢えてリラックスする時間を設け、脱力を心がけるようにしました。すると自分のルーティンが固まってくるにつれて、次第に改善していきました。

あと、よく言われることですが、十分やり切ったと思うところまで練習して自信をつけること。いつも調子が良いわけでなく、日によっては気持ちが上がらない、身体が動かない時もあります。その状況の中でベストを尽くすことを心がけていれば、プレーがうまくいかなくて気持ちが大きく落ち込むこともないし、あの時もっとやっておけばよかった、と後で後悔することもないです」

──ありがとうございます。本日は、溝部さんの今後の活躍を期待させるインタビューになったと思います。最後に、今後のプレーヤーとして目標をお聞かせください。

「自分の持っている最大限の力を発揮して、自分自身で満足して競技生活を終えたいと思っています。今よりレベルの高いチームでプレーし、無名の私でもここまでやれる、ということを証明したいし、若い選手たちの目標となるようなプレーヤーになりたいです」

(2021年7月10日、オンラインにて取材)


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