ゴールデンエイジの年代で、確かなスキルを身につける

公開:2021/08/13

更新:2021/08/20

特集「オールラウンダーの育成」。最初の記事としてお届けするのは、東海大学男子バスケットボール部の陸川章ヘッドコーチのお話です。プレーヤーの実例も挙げながら、オールラウンダーとして必要な能力、そして育成方針などについて語っていただきました。


オールラウンダーの基礎はゴールデンエイジ期につくる

スリーポイントも打てる、ボールプッシュもできる、ディフェンスもできるというオールラウンドプレーヤーの育成は、日本のバスケットボール全体にとっても、ここ東海大学にとっても大きな課題であると認識しています。

今回のオールラウンダーというテーマをお聞きした時に思い出したのは、私自身の経験です。私は高校生になってからバスケットボールを始めました。中学時代は陸上競技をやっていたので、走る能力をはじめとする基礎体力面ではある程度通用すると感じましたが、ドリブルなどボールを扱うスキルは当然、周りの選手よりも劣っていました。ゴールデンエイジと呼ばれる9~12歳ぐらいの年代で、ドリブル、パス、シュート等の基礎を正確に身につけることの重要性を、身をもって経験したと言えます。

背が高いからインサイドで待ち構えていてシュートだけすればよい、ではなく、すべての選手がオールラウンダーとなるべく基礎スキルを十分に身につけるべきである、と強く思います。基礎的なスキル練習は単調にもなりがちなので、指導者は、そこに楽しさの要素も付加することも重要です。

2009年3月にリトアニア遠征した時、試合が行われる体育館で日本で言うミニバス年代の子どもたちが練習している様子を見る機会がありました。そこで印象的だったのはシュートのフォームが皆きれいだったこと。ドリブルなしのパスゲームを楽しそうにやっていたことも印象に残っています。リトアニアはヨーロッパで唯一と言っていい、サッカーよりもバスケットボールの人気が高い国です。代表選手クラスは皆身長が高いのですが、シュートもうまいのが特徴です。身長205cm以上ある選手が皆、スリーポイントをどんどん決める。リトアニアこそ、オールラウンダーの国だと感じました。子どもたちの練習風景を見て、神経系の発達が最も盛んなゴールデンエイジの年代で確かなスキルを身につけることの重要性を、その時強く感じたことを覚えています。

他競技の経験から得られること

ゴールデンエイジの時期は、バスケットボールに限定せず他の競技も経験させること。これも長期的視点でオールラウンダーを育成するために必要だと思います。スロベニア代表のルカ・ドンチッチ選手(NBAダラス・マーベリックス)はサッカーが上手いそうですし、レブロン・ジェームズはアメフトもやっていた。NBAの歴史上、バスケットもアメフトも一流で、どちらもドラフトで指名されるレベルであったという選手は、多数存在します。アメリカのオリンピック選手を調査したデータによると、10歳未満で平均3.1競技、10~14歳では2.99競技、15~18歳で2.2競技を経験しています。大学生年代になってはじめて、1.27競技、つまり専門化しています。

他競技を経験することのメリットは多数ありますが、わかりやすい例では、サッカーをやれば走力が高まり心肺機能が鍛えられるし、アメフトはフィジカルコンタクトが激しいので当たりが強くなります。バスケットのスキルとは別に、他競技を経験することで総合的な身体能力を高めていくことができます。

状況判断力を培うドリル

オールラウンダーになっていくためには、状況判断力も必要です。これを身につけるにはどうすればよいか。一つは、知識と、それに裏打ちされたスキルを磨くことです。私の現役時代、日本代表チームのアドバイザーでピート・ニューウェルさんという方がいました。ミシガン大、カリフォルニア大などでコーチを務め、1960年のローマ・オリンピックではアメリカ代表監督として金メダルを獲得した有名な指導者で、ビッグマンをフォワード化するためのドリルを作られた方です。「ピートドリル」と呼ばれています。

リングに背中を向けていた選手がボールをもらった後、リングに正対し、いかに状況判断を行い、適切なステップワークをして最終的にシュートまでもっていくか。センタープレーヤーだった私は、ピートさんからこれを徹底的に教わりました。毎回の練習前の30分、練習後の30分を使ってドリルをやりました。状況に応じて最適なプレーを選択するための能力は、こうしたドリルを繰り返すことによって獲得できる、そのことを現在でも強く思います。晩年フォワードとしてプレーした時にこの時にやったドリルはとても役立ちましたし、ピートさんには感謝しています。

東海大学では、現在センターをやっていてもBリーグに入ったらフォワードをやらなきゃいけない、ということも当然あるので、ピートドリルを取り入れています。

↑学生を指導する陸川監督(撮影:2019年6月)

すべてのポジションに有効なマイカンドリル

フィニッシュの局面に注目すると、基本中の基本であるマイカンドリルはすごく重要だと改めて思います。センタープレーヤーのフィニッシュ能力だけでなく、フォワードやガードにとっても、これは有用です。ドリブルでアタックして相手にコンタクトした際、状況に応じてフック、フローター、あるいはバックシュートになったりと、フィニッシュの形を適切に選択しなければなりません。この能力の向上にマイカンドリルは利用価値が高いです。NBAブルックリン・ネッツのカイリー・アービング選手は、幼少の頃、お父さんと一緒にこのマイカンドリルを1日に500本やっていたという話を聞いたことがあります。彼は身長が188cmしかありませんが、ペイントエリア内でのシュート成功率はNBAの中でもトップレベルです。幼少期から繰り返しドリルを行うことで、彼が状況判断に基づくフィニッシュ能力を突出的に高めていったことは、想像に難くありません。

ここでもう一人思い浮かぶのは、マイケル・ジョーダンですね。彼はアウトサイドからのドライブ、ダンク、あるいは3ポイントシュートで全世界を魅了した選手ですが、ここぞという場面で得点がほしいときは、”I’m in Post!”と叫んでポストに入り、背中を使ったフェイク&ターンアラウンドなどのテクニックを使って、ポストプレーで得点をとる場面がありました。彼こそオールダウンダーという称号にふさわしい選手だと思います。

年代に応じて体力要素の強化を

オールラウンダーを育成するための体力要素に目を向けると、各要素の開発に適した年代を考慮して、ということになります。ゴールデンエイジで十分に基礎スキルを身につけた上で、次の中学生年代では心配機能(持久力)、高校生年代では筋力を鍛え、フィジカルコンタクトを嫌がらないようになるといいですね。

同じ高校生でも、ラグビー選手はすごい体をしていますね。今後世界で戦っていくことを考えた時、バスケットボールでも、高校生年代から、もっとやっていくべきではないかと。もちろん、すでに取り組んでいるチームも少なからずありますが、指導者間の共通理解として、このあたりの認識を一層高めていくべきだと思います。

(2021年7月20日、オンラインにて取材)


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陸川 章 Akira Rikukawa

東海大学男子バスケットボール部ヘッドコーチ 新潟県出身
高校からバスケットボールをはじめて、日本体育大学へ進学しセンタープレーヤーとして活躍。卒業後、NKK(日本鋼管)でプレーを続け、日本代表のキャプテンとしても活躍。チームの廃部とともに現役を引退し、アメリカへのコーチ留学を経て2000年に東海大学男子バスケットボール部ヘッドコーチに就任。短期間でチームを強化し、2005年にインカレ初優勝、翌2006年には連覇を果たす。2020年は6度目のインカレ優勝を達成した。竹内譲次選手、田中大貴選手、ベンドラメ礼生選手など、日本代表やBリーグで活躍する選手を多数輩出している。

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