【特集】スキルコーチインタビュー 大村将基氏(三遠ネオフェニックス) 

公開:2022/07/08

更新:2022/08/12

10年ほど前からアメリカで存在感が増し、現在は各国のバスケットボール界で活躍が目立ってきているのがスキルコーチです。日本のスキルコーチとしてパイオニア的存在であるB1三遠ネオフェニックスの大村将基氏に、スキルコーチの仕事内容やご専門職としての自身のポリシーなどについてうかがいました。


大村氏には、チーム移籍で慌ただしい中、オンライン取材に応じていただいた。

アメリカのスキルコーチ事情

──スキルコーチという専門職が目立ってきたのは、アメリカでもここ最近だと聞いています。そのような状況になったのは、何かきっかけがあるのでしょうか?

大村:NBA選手を目指して滞米していたのが2008-2012年の4年間で、日本に戻って来る2012年ごろから、アメリカでもスキルコーチ、あるいはスキルトレーナーと呼ばれる人たちが目立ってきました。一般のバスケットボールコーチとの違いは、選手と個人契約をして、マンツーマンでスキル指導をするという部分です。その2011-2012年は、NBAで労使交渉が暗礁に乗り上げてロックアウトがあったシーズンで、大幅に試合数が減少するだけでなく、経営者側が選手を練習施設から締め出すという事態が起こりました。行き場を失った選手たちが個人的に体育館を借りて練習を行うこととなり、私が練習拠点にしていた体育館も、NBA選手たちが大勢集まっていました。その場で、彼らをマンツーマンで指導しているスキルコーチを見て、「こんな仕事があるんだ」と認識したのが、私自身のスキルコーチとの出会いです。

個人契約スタイルで指導するコーチは以前から存在していたのかもしれませんが、このロックアウト期間がきっかけとなり、アメリカでも急速にスキルコーチが存在感を増したのではないかと思います。ですから、スキルコーチの活躍の場が広がったのは本当にここ最近、10年間ぐらいの現象ではないでしょうか。

それまでは、チーム練習以外の個人的なスキル改善は、いわゆる個人練習の範囲で行い、そこにコーチが関与する場合もあったとは思いますが、つきっきりということはありません。2011-2012年のロックアウト期間を機に、選手たちはスキルコーチとともに、自分に必要な練習をマンツーマンで取り組む、そうした傾向が一気に広まったようです。

──渡米中は、あくまでもプレーヤーとして活動していたわけですね。

大村:はい。ABAという独立リーグのチームに所属してプレーしながら、当時Dリーグ(現在のGリーグに相当)と呼ばれていたNBAの下部組織のトライアウトを受けまくっていました。個人的に練習を行っていた体育館で、先ほどのスキルコーチたちに出会いました。

スキルコーチとスキルトレーナー

──アメリカ以外の国々でもスキルコーチが活躍するようになったのでしょうか。

大村:現在、スキルコーチには大きく分けて2つの形態があって、1つは私のようにチームに所属してヘッドコーチやアシスタントコーチ、トレーナーらと連携しながら、選手の個別課題に取り組むタイプと、チームの外で選手と個人契約をしてパーソナルな形で練習を行うタイプがあります。両者は立場が異なるので、私は自分の中で整理する意味で、前者を「スキルコーチ」、後者を「スキルトレーナー」と解釈しています。

スキルトレーナーは、オフシーズンに集中して選手とともに個別課題に取り組むケースが多く、世界的に見ると、こちらがメインストリームであり、ヨーロッパや日本を含むアジア各国にも広がりを見せています。スキルトレーナーは、個人あるいは会社として選手個々と契約して、仕事をしています。スポーツアパレルメーカーのナイキやアンダーアーマーに所属するスキルトレーナーもいて、各メーカーと契約している選手は、その傘下のスキルトレーナーに指導してもらう例もあります。

反対に前者のスキルコーチは、日本特有のスタイルと言えるのではないでしょうか。現在、B1には私を含めて5名います。

──オフシーズンに集中して、というお話がありました。プロ選手はオフシーズンにスキルトレーナーと一緒にどんな取り組みをするのでしょうか。

大村:自分にとって新しいスキルにチャレンジし、プレーの幅を広げる取り組みをするケースが多いようです。

B1スキルコーチの業務内容

──大村さんの、スキルコーチとしての仕事の概要を教えて下さい。

大村:チーム所属ですので、今お話ししたスキルトレーナーとはかなり違います。シーズン終了の段階で、各選手が前シーズンにできたこと、できなかったことを徹底的に洗い出し、まずはストロングポイントを強化。そしてウィークポイントは1つか2つに絞って改善を図ります。そしてもう1点重要なのが、ヘッドコーチがその選手に何を求めているか。チームとしての戦術を個々のスキルデベロップメントに落とし込んで、ヘッドコーチの要求を満たせるように、選手とともに取り組んでいきます。

──スキルデベロップメントの練習は毎日やるのですか?

大村:年間を通して、可能な限り毎日やります。シーズン中は時間は短くなりますが。戦術練習のほかに筋トレ等もやらないといけないので、スキルデベロップメントのワークアウトは、1日あたり、一人だいたい20分。長くても30分です。

──短時間集中ですね。20~30分は、先ほどの個人の課題克服の部分と、戦術がらみの部分、両方合わせてということですか。

大村:そうです。5対5などの試合形式の練習の中で、個々の課題をできるだけ意識させるようにし、短時間のワークアウトに落とし込んでいきます。短時間集中でやらなければならないのは、ロースター12名に対してスキルコーチは私1人しかいないという物理的な事情もあります。若手やプレータイムの少ない選手をメインに、といった調整もしますので、毎日確実にワークアウトするのは5~6名。そんなスタイルでやっています。

──20~30分だとしても、自分の課題に対して正面から向き合って指導してくれるコーチがいるのは、選手にとってはありがたいことですね。

大村:そのように思ってくれれば。プレータイムの少ない選手に対しては、短時間のワークアウトの中で練習したことを少ない出場機会の中でしっかりと表現できるよう、意識付けしながら練習の質を高めています。

──ヘッドコーチ、アシスタントコーチらとの連携は?

大村:できるだけコミュニケーションを密にして、個々の選手の課題をあぶり出すようにしています。一人の眼では気が付かない部分もたくさんありますので、複数の見方を大切にしています。怪我人の場合は、トレーナーから情報をいただきながら、その時の回復状況で可能な動きを確認しつつ、練習内容に落とし込みます。ビデオコーディネーターからは、シュートエリア別の決定率などの情報をいただいた上で、課題を明確にして練習内容に落とし込みます。

手探りから始まったチーム専属スキルコーチ

──ここで、大村さんご自身がスキルコーチになった経緯について、改めておうかがいしたいと思います。先ほど、アメリカでNBAを目指してトライアウトを受けていたところまではお聞きしました。

大村:滞米4年目になって日本に帰ろうと思った時に、選手としては引退してコーチをやりたいと思いました。ヘッドコーチは自分に向いていない気がして、別の形でコーチ業をできる道はないものかと考えていた時期に、たまたま自分が練習していた体育館にNBA選手とスキルトレーナーがやって来たんです。選手は、ケンバ・ウォーカー(Kemba Walker)でした。2011年当時シャーロット・ホーネッツ、その後ボストン・セルティックスを経て2021-2022シーズンはニューヨーク・ニックスでプレーしたポイントガードです。一緒にいたスキルトレーナーの名前はわからないのですが、その人が、めちゃめちゃ上手かったんです。NBA選手よりも上手かった(笑)。「おおっ!こんなコーチもいるんだな」って。自分の身体で表現して選手に伝えていく、こういうコーチングスタイルが自分に合っているのではないかな、とその時思いました。

それをきっかけに、残りの滞在期間でいろいろなスキルトレーナーのところをまわり、自分でも指導を受けてみて指導方法を勉強した上で、「これを日本にも広めよう」という意思を持って帰国しました。

帰国後は自分が以前所属していた大阪エヴェッサ育成スクールのアシスタントコーチに就職させていただき、チームの仕事と並行して、スキルトレーナーとしての活動を始めました。個人あるいは学校に対して自分自身で売り込みをかけて、実際にマンツーマン的な指導をやっていきました。そうした活動をしている中で、当時大阪エヴェッサトップチームのヘッドコーチをされていた桶谷 大さん(現・琉球ゴールデンキングスヘッドコーチ)に声をかけていただき、B1のスキルコーチをさせていただくことになりました。

その後、千葉ジェッツを経て今年7月から三遠ネオフェニックス所属となりました。日本のバスケットボールチームでスキルコーチとしてどのように仕事をすればよいのか、すべてが手探りでしたが、8年ぐらいかけてようやく自分なりの形が確立してきたところです。

その都度、オリジナルを作り上げていく

──スキルコーチの仕事の面白味は?

大村:先ほども言いましたように、自分だけの考え方で選手の練習内容が決まるわけでなく、ヘッドコーチの考え方も重要ですし、選手自身がどうしたいのか、どんなプレーヤーになりたいかを十分に考慮した上で練習メニューを構成していきます。選手とコミュニケーションをとりながら練習に臨み、成果が出て、選手から「できましたね!」という声を聞く時が一番やり甲斐を感じます。できなかったことができるようになる。これは大人であってもうれしいものです。それを目の当たりにできるポジションにいるのは幸せです。取り組みがすべてうまくいくわけではありませんが、このような細かい成功体験をたくさん経験できるところは、この仕事を続けてきて感じる大きなやり甲斐です。

──スキルコーチとして、プレー技術や指導方法を常にアップグレードする必要があると思います。それはどのようにやっていますか?

大村:私の場合は、あまり他人のやり方を参考にすることはしません。選手の特性を見ながら戦術との関係も考慮し、その都度、オリジナルを作り上げていくイメージです。そこでは選手の意見をできる限り尊重して、一緒に作り上げていきます。選手と話していて、その場で思いついたアイデアを取り入れてみることもよくあります。

──現場主義。

大村:そうですね。常に現場で新しいものをクリエイトしていくスタイルです。

日本のファンダメンタルを作り直す

──スキルコーチの立場で、日本のバスケットボール界が今後レベルアップしていくためのお考えをお聞かせください。

大村:ベース(基礎技術、ファンダメンタル)を徹底的に作り直していく必要があるのではないか、と思います。日本人プレーヤーが世界と戦うためのベースです。わかりやすい例で言うと、レイアップシュートはツーステップして撃つのが従来の基礎技術でしたが、世界に出ていくと、ツーステップしている間に、ほぼ確実に止められてしまいます。日本でもトッププレーヤーはワンステップで撃つようになり、その技術は上がってきていますが、それを新たなベースとしてアンダーカテゴリーから指導に取り入れていくべきじゃないかと。大人になってからでは間に合いません。

現在ファンダメンタルと言われているものは、その大半がアメリカから入ってきたものです。しかし、彼らと同じことをしていても、100%勝てません。難しい技でなく、日本人のための、シンプルなファンダメンタルを作り上げる必要がある。これを強く感じています。同じご意見のコーチは多いと思います。

かつて、ヨーロッパがそうしたアプローチで成果を挙げました。ユーロステップがその代表例であり、「ジャパニーズステップ」と呼ばれるような技術を生み出したいと、本気で思っます。私の人生の目標でもあります。そのような新しいファンダメンタルが全員できるようになれば、戦術の発想も変わってきます。

独自のスタイルを追求してほしい

──スキル指導に日々悩んでいる指導者は多いと思います。そういう方々に対して、何かアドバイスできるとすれば。

大村:スキルは無限大にあり、あれもこれも、となるととてもやり切れません。自分たちが目指すバスケットボールのスタイルを明確にして、それに必要なスキルを絞って指導していく方法が、やはり良いのではないでしょうか。コーチ自身が自信を持って教えることができるプレーを推していくのもよいと思います。育成年代のチームはどこも同じようなバスケットをしている、との声をよく耳にします。独自のスタイルを追求すれば、そうならないと思います。

スキルコーチを目指す高校生・大学生へ

──大村さんたちに憧れ、将来スキルコーチになりたい、と考える高校生や大学生も出てきていると思います。そうした学生たちにアドバイスをお願いします。

大村:可能な限りプレーヤーとして頑張ること。これが一番大事だと思います。私自身、27歳までプレーヤーとしてチャレンジし続けた経験が役立っています。選手として十分に頭を使って技術を追求することは必ず役立ちますし、目に見える技術以外の部分、例えば選手側の気持ちの変化を想像しながらコミュニケーションを図る上でも役立ちます。

あとは、自分の得意分野を確立すること。全体的に平均点、ではなくて、他人に負けない部分を持つ。私の場合は、ドリブルやスクリーンでチャンスをクリエイトするプレーが得意で自信を持っていますが、選手側も、そのような得意分野に対しては信頼をしてくれると思います。

──ありがとうございました。


大村 将基(オオムラ ショウキ) 1985年生まれ。佐賀県出身。2012-13 大阪エヴェッサ アシスタントコーチ、2013-16 総合学園ヒューマンアカデミーバスケットボールカレッジ ヘッドコーチ、2015 大阪エヴェッサ スキルディベロップメントコーチ、2019-22 千葉ジェッツ スキルディベロップメントコーチ、2022~三遠ネオフェニックス スキルディベロップメントコーチ。

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