【特集】スキルコーチインタビュー 丸田健司氏(福岡大学附属大濠高校) 

公開:2022/08/12

更新:2022/08/18

スキルコーチへのインタビューシリーズ2回目は、福岡大学附属大濠高校バスケットボール部のスキルコーチとして3シーズン目を迎えた丸田健司氏。普段、大阪を拠点にスクールやクラブチームの運営を行っている丸田氏は、週1回福岡に出張して同チームを指導しています。高校トップチームのスキルコーチというポジションで何を教え、何を感じているのか、うかがいました。


丸田氏は、普段は中学生以下の年代を対象としてスクールやクラブチームを運営・指導している。

個人スキルに限らずチームオフェンス等も指導

丸田氏は、2019年(男子)、2021年(女子)の全国ジュニアバスケットボールゲームズ(通称:全クラ)優勝、また2021年(男子)のジュニアウィンター カップ準優勝といった輝かしい成績を収めているKAGOクラブの指導者として知られる。渡米経験も豊富で最先端の技術・戦術にも詳しいことから、大濠高校の片峯聡太ヘッドコーチよりコーチ就任のオファーを受けた。片峯コーチ自身が手薄に感じているスキル指導の部分を補うのが、その主要な役割。初年度の2020年度はコロナの影響で十分な活動ができなかったが、翌2021年度からは基本的に週1回のペースで練習に参加している。まずは、大濠での活動内容についてうかがった。

丸田:大濠では原則、毎週火曜日をスキルトレーニング日として設定し、私が指導に当たっています。チームが勝っていくために必要な技術・戦術について片峯コーチと綿密に話し合った上で、練習を行います。与えられた役割はスキルコーチですが、個人スキルに限らず、チームオフェンス等についても、オフボールの動き方を含めてコーチングしています。

全体で1時間半から2時間の練習時間の中で、前半の30~40分はドリブルやシューティングに関して新しいスキルを身につける時間、残りの時間をチームオフェンスにあて、合わせのパターンなどを練習する。これが基本的なパターンです。後半の練習内容については、直近の試合でうまくいかなかったプレーについて片峯コーチから課題の提示があり、それを改善するためのドリルを私から提案して実施する、そこからディスカッションしてまた掘り下げる、という形が多いです。

スキルコーチというと、焦点が個人スキルの向上であり、チーム戦術にはあまり関わらないイメージがあるかもしれません。私が大濠で行っているのは、それとは少し異なるコーチングスタイルです。ただ、大濠の場合はプロを目指している選手も多いので、将来を見据えて、彼らが現在担当しているのとは異なるポジションのスキルを練習してもらうケースも多々あります。

全体練習の後は自主練の時間になりますが、その時間に、選手個別の相談があった場合は、別途指導することもあります。

スキルに関しては、教え過ぎの弊害にも気をつけなければなりません。今すぐに改善したほうが良いところ、卒業までに身につけるべき技術、などを整理した上で、選手側が混乱を来さないように注意して指導に当たっています。

育成と強化の難しいバランスと、手応え

──現在3年目ですが、ここまでで感じている手応えは?

丸田:1年目の2020年度は、コロナの影響で指導がかなり中途半端になってしまい、成果が見えにくい状況でした。シュートが入らない場合のマインドセットだったり、我慢しながらペイントアタックを続けるプレースタイルを教えたかったのですが、十分に時間が取れませんでした。2年目の2021年度は通期で指導できたこともあり、そうした「シュートが入らなくても勝てるゲームスキル」について選手たちの理解も進み、ある程度の手応えを感じることができました。福岡第一戦でも、シュートが入らないケースでもファウルをもらってフリースローを決めることができた。チーム全体としてシュートが決まらない試合でも、勝ち切るゲームができるようになりました。もともとタレントの揃ったハイレベルのチームがそうした試合運びをすると、相手は嫌なんじゃないか、そんな実感を持てました。

私自身、高校のカテゴリーは指導経験がありませんでしたので、年間の大会スケジュールの中でどのように個人とチームの向上を図っていくか。長期的に個を伸ばす“育成”と、チームが短期的勝利を目指す“強化”のバランスについては、日々悩みながら指導にあたっています。

スキル向上──高校生年代の課題

──大濠と言えば、全国でもトップクラスの人材が入学してくる強豪校です。選手たちを見ていて、率直に感じたことは?

丸田:強豪校であっても、意外にスキルのレベルは高くないんだな、と思いました。部活のバスケットは、伝統的に人間力の修練の場であり、教育者としての能力と情熱に優れた指導者が実績を挙げる傾向が強いのではないか、と。片峯コーチもそのタイプだと思います。クラブチームの指導者としてU15以下の子どもたちをずっと見てきて、小中学校はその傾向が強いことはわかっていましたが、高校も同じなんだ、というのが初期の実感でした。人間力の指導と、スキルの指導が融合すればもっと強くなれる、片峯コーチにはその思いがあったのではないでしょうか。

もう一つは、中学時代に“勝てるバスケット”を教えられている選手が多く、自分より身長が低い相手に勝つためのスキルが中心になってしまい、逆に相手のほうが身長が高い場合のスキルが不十分であるケースが多々あります。自分のプレースタイルが固定化してしまっていて、新しいスキルがなかなか身につかない。下からのシュートを身につけなければならないのに、いつも上からになってしまう。これだと、相手チームに留学生がいれば簡単にブロックされてしまいます。練習では上手くなっても、試合になると、また以前のパターンに戻ってしまう、そんな例がよくあります。高校生は、固定化したプレースタイルでやってきた時間が長いですから、修正するのは小中学生よりも難しい。これを強く感じています。

──身体的に有利な状況でプレーしてきた期間が長いので、癖が抜けにくい。

丸田:そうです。勝てるスタイルが固定化しているが故に、新しいプレーにチャレンジする機会がなかったのかもしれません。簡単な例で言うと、身長の高い選手であれば、利き手だけのシュートでだいたいの相手に勝ててしまいますが、低い選手は反対の手も駆使しないと大きな相手に通用しません。スキルの幅を広げ、プレーヤーとしてのレベルを向上させようと思った時、高校生になってからでは時間がかかる、という実感を持っています。ただ大濠の子たちは真面目なので、課題を与えると翌週までに自主努力してくれ、進歩を感じることができます。大濠のすごいところだと思います。

ボールスキル以外の部分が重要

──ここから先は、大濠から離れてバスケットボールにおけるスキル一般論に移りたいと思います。丸田さんがお考えになる、育成年代スキルの最も重要な部分とは何でしょうか?

丸田:ボールスキル以外の部分だと思います。周りを見る、人の話を聞くといった態度、能力。これらは、子どもたちは日々言われていて、表面的にはわかっているつもりでも不十分であることが多いです。だから私は、制約条件をつけたドリルをあえて設定し、細部にまで気を配ることを要求したりします(例:ドリブルの数を1回に制限するなど)。日本代表として活躍している山本麻衣選手(Wリーグ・トヨタ自動車所属)を指導する機会があったのですが、山本選手は一つ一つのプレーに対して、本当に細かいところまで質問してきます。スキルを身につけるためにこうした姿勢はとても重要であり、そのスキルを自分のものとして自在に使いこなすには、細部の確認事項がたくさん出てくるはずです。山本選手のような態度(ヒューマンスキル)を、多くの子どもたちに身につけてほしいし、指導者として、その部分を開発できるような働きかけを常にしていきたいと思っています。

──言葉を変えて言うと、技術の正確さ。選手自身が、そのスキルをどれだけ正確に表現できるか、ということにもなるでしょうか?

丸田:はい。正確さが疎かになると、実践で使えるレベルのスキルにはなりません。練習の質と精度にはこだわってほしいです。見た目の形はできているんだけど、実は使えるスキルにはなっていない。そういう事例が、すごく多いです。

練習で失敗を恐れる子がとても多いですが、バスケットはもともと、失敗の確率のほうが高いスポーツです。練習ではどれだけ多く失敗できるか、という考え方で取り組んでほしい、子どもたちには普段から、そう伝えています。

丸田:先日の男子ワールドカップを見ていて感じたのは、日本はバスケットボールIQと、フィニッシュ精度がまだまだ劣っているということです。試合で起こり得る様々なシチュエーションに対応したプレーの選択、それができるための練習のあり方。プレーの中で”考える負荷”を与えるような練習メニューが、日本の場合はまだ足りてないんだろうな、と思います。私たち指導者が学び続けて日々アップデートしていかなければなりません。

──最後に、スキルコーチという仕事をどのように捉えていますか。

丸田:サポート役。私は大濠のチームをサポートする立場でスキルを教えています。スキルコーチは日本ではごく最近成立した仕事です。このポジションを確立し、もっともっと掘り下げていかねばならないと思って日々やっています。今後スキルコーチという役職が増えて、バスケットボールで生活を成り立たせる人が増えてほしいとも思います。

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