【特集】スキルコーチインタビュー 山下恵次氏(琉球ゴールデンキングス) 

公開:2022/09/06

更新:2022/11/15

スキルコーチへのインタビューシリーズ3回目。B1琉球ゴールデンキングスの山下恵次氏へのインタビューです。コーチ業を始める当初はスキルコーチという役割を全くイメージしていなかったという山下氏は、どのようなプロセスを経て現在のポジションを確立していったのか?


山下氏には、新シーズン開幕直前の8月31日にお話をうかがいました。

当初はストレングスコーチを目指していたが…

──先シーズンまで大阪エヴェッサ、今シーズンから琉球ゴールデンキングスに移籍されました。大阪エヴェッサの入る以前は2015年から大阪のHOSという実業団チームでコーチをされていたとのことですが、スキルコーチ的な活動はその当時からなさっていたのですか?

山下:HOSでは実業団チームのヘッドコーチをやりながら、プロを目指す選手や育成年代の選手たちに対して、個別にスキル指導をしていました。HOSに入ったきっかけは、現在B1三遠ネオフェニックスでスキルコーチをしている大村将基さんに声をかけていただいたことです。大村さんは2015年当時HOSのヘッドコーチをされていて、その大村さんの下でアシスタントとしてコーチ業を始めました。その後、2017年に大村さんが大阪エヴェッサのスキルコーチに就任されましたので、その後を引き継いだ形です。

──コーチ業を始めた当初からスキルコーチを志向していたのですか?

山下:いいえ、最初は全く違いました。私はプロ選手を目指して新潟アルビレックスBBに練習生として所属していましたが、トップチームとは契約できず、そこで出身地の大阪に帰る決断をしました。ストレングス&コンディショニングの分野に興味があり、資格も取得していたので、大阪ではストレングスコーチ的な仕事をしたいと思っていたんです。そんな折、大村さんに今後について相談したところ、「俺のアシスタントをやりながらストレングスコーチ目指したらどうか」と言っていただいたのが、そもそものきっかけです。

選手の要望に応える形でスキルコーチに

山下:大村さんがエヴェッサへ抜けた当初は、彼がやっていたスキルコーチの仕事を引き継ぐ流れではなく、あくまでもヘッドコーチとして全国大会に出場できるようなチームを作りたい、との思いが強かったです。しかし、当時大阪エヴェッサに所属していた相馬卓弥選手(現在はファイティングイーグルス名古屋)や西 裕太郎選手(現在は佐賀バルーナーズ)がHOSに来て、大村さんのようなスキルワークをやってほしいと依頼されたんです。それをきっかけに私自身も海外に勉強に行ったりして、スキルコーチ業を深めていった、そういう流れです。その後、口コミでいろんな選手が来てくれるようになりました。

──選手の要望に応える形でスキルコーチ業が確立していった。面白いですね。

山下:自分がプロのスキルコーチになるなんて、全く想像していなかったです。選手が毎年オフシーズンに来てくれて、彼らからも励ましをいただいている中で、大阪エヴェッサさんからオファーをいただきました。

──大阪エヴェッサに入る前、選手たちと個人契約でスキルコーチをしていた頃は、どんな指導をされていましたか?

山下:ドリブルが上手くないとか、フィニッシュまでもっていくことができないとか、選手個々が持つ課題に対して、本人とよく話し合った上で解決手段を提案し、具体的なドリルに落とし込んで練習していきます。こちら側が一方的にドリルを提供するのではなく、選手と十分にディスカッションをするという部分を大切にしていました。

プロチームでのスキルワーク

――プロチーム所属のスキルコーチになると、少し役割が変わるのではないでしょうか?

山下:大阪エヴェッサに入ってからは、当時のヘッドコーチ、天日謙作さんのバスケットボールスタイルに合ったプレーを各選手がコートでしっかり表現できることを第一に考えてスキルワークをしていました。

──前提としてチームの方針・戦術があって、それに必要なスキルを磨いていくということですね。現在所属している琉球ゴールデンキングスでも同じ形でしょうか?

山下:はい。桶谷ヘッドコーチのチームコンセプトが大前提です。ただしその中でも、選手個々の課題に対するアプローチにも、比較的時間を取っています。プレシーズンのチーム練習が始まった7月以降は、外国人以外のほぼすべての選手に対して、毎日20分間のワークアウトをしている状況です。

スキルコーチはあくまでもチームのサポート役なので、他のコーチ陣が望むもの、選手たちが望むものを十分にくみ取った上で日々のワークアウトに落とし込んでいく。つまりコミュニケーションを何よりも大切にして活動しています。

──選手とのディスカッションには多くの時間を割いていますか?

山下:最初に十分話し合うようにしています。最初のミーティングで課題が明確になっていれば、それ以降、達成度の確認やワークアウト内容の改善について無駄のないやり取りができます。

──お互いに同じ絵を見ているということ。

山下:はい、そうです。

スキルワークで選手が変わる

──山下さんが感じていらっしゃる、スキルコーチの面白味、醍醐味って何ですか?

山下:プロ、アマチュアを問わず日本のバスケットボール選手は皆、スキルが発展途上であり、改善の余地も多いと感じています。改善へのアプローチを少し施すだけで、その選手のプレースタイルが変わる、あるいは単純に得点できたりとかパスが出せたりといった事例はよくあります。そんな時に選手がうれしそうな顔をすると、こちらもとてもうれしいです。

もちろん選手だけでなく、ヘッドコーチが喜んでくれるのもとても励みになります。

──よろしければ、個別の事例をお話ししていただけますか。

山下:昨シーズン所属していた大阪エヴェッサのガード、中村浩陸選手(2022シーズンよりファイティングイーグルス名古屋)とは、1年間通してじっくりワークアウトを行いました。メインはピックアンドロールです。彼は大学時代、ピックアンドロールから自身のシュート、というほぼワンパターンの使い方でした。しかしプロになると、相手チームには外国人のビッグマンがいますので、シュートブロックされたり、シュート以前にミスが起きる状況に追い込まれたりします。

1年間のワークアウトの中でやってきたのは、簡単に言うと目線を上げて視野を広く保つこと。フロアの状況を把握してからピックアンドロールを使うスキルを身につけることです。これを磨いていくことで、味方にパスを散らすことができるようになりました。結果、相手がパスを警戒するようになり自分でシュートを打てる場面も増えていきました。中村選手自身から「ピックアンドロールって面白い」という言葉も出て、伸び伸びとプレーできた、そんな例があります。

──チーム練習もあり、個人に対して毎日スキルワークの時間を取るのは難しいのではないでしょうか?

山下:もちろんチーム練習が優先ですが、チーム練習は午後です。ヘッドコーチとも相談して、中村選手の場合は毎朝20分間ワークアウトを行うルーティンを続けました。選手から要望があれば、できるだけ時間を確保してワークアウトを行うようにしています。朝でなく、チーム練習後に行う場合もあります。ですから私は一日中、体育館にいる生活です。拘束時間は長いですが、選手とのワークアウトはとても楽しいです。現在所属している琉球ゴールデンキングスでも、タイムスケジュールはだいたい同じ。先ほど言いましたように、プレシーズンの間はほとんどすべての選手がスキルワークアウトの対象になりますが、リーグ戦が始まれば、選手の要望を優先しつつ、その時の体調も考慮しながら必要な選手を中心にやっていくことになると思います。

バスケットボールに対する理解を

──先ほど、日本の選手は全体的にスキル開発の余地が大きい、というお話がありました。課題は人それぞれだとは思いますが、あえて共通項を見出すとしたら、どんな点ですか?

山下:バスケットボールに対する理解が足りないと感じています。バスケットボールがどんなスポーツか、その基本的な構造を理解していないと、いくら個人スキルを高めても試合でそれを有効に使うことができません。大学時代にポイントゲッターであった選手が、プロチームに入ると別の役割を求められたりします。そうした時に、バスケットボールに対する理解が不足しているために適応できない、といったケースがよくあります。

大前提としてバスケットボールとは何かを十分に理解させ、適応力のある選手の育成が必要だと思いますし、将来、自分が育成年代の指導を行うことがあるとしたら、その部分を重視していきたいと考え、私自身、勉強している最中です。

もう一つ考えているのは、その選手の身長に見合ったプレーをもっと追求すべきではないかと。身長の低い選手がビッグマンと同じプレーをとしても、相手のレベルが上がればうまくいかない。これ当然なのですが、安易に同じようなプレーをやろうとする傾向がありますので。

バスケットボール界の大谷翔平を生み出すために

──スキル向上を目指す選手と指導者の方々に、何かメッセージはありますか?

山下:バスケットボールの試合をたくさん見てほしいです。YouTubeや各種SNS上に、細切れのスキル紹介動画が数限りなくありますが、それらよりも優先して、試合を開始から終了までしっかり見てほしいです。試合を見ることで、先ほど言ったバスケットボールへの理解がより進むと思います。好きな選手がシュートを決めたら、なぜそれが決まったんだろうか? なぜ、ここでパスをしたんだろうか? そういう目で見てほしいです。スキルの練習は、そのスキルが活きるシチュエーションを十分に理解してから取り組んでいただきたいと思います。そのような習慣をつけることで、バスケットボール界にも、大谷翔平選手のようなプレーヤーが出現しくるのではないでしょうか。

──最後に、スキルコーチを目指したいと思っている人に向けてメッセージがありましたら。

山下:スキルコーチは専門的な役割ではありますが、ヘッドコーチをはじめコーチ陣と同じ絵を見ることが必要ですし、課題解決に至る引出しを数多く持つためにも、バスケットボールに対する深い理解が何よりも大切だと思っています。それを踏まえて、いろんな経験をしていただきたいです。相談したいという方がいればウエルカムですので、いつでも連絡をください。


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