【取材記事】プレーの選択肢を理解すれば、左手のスキルは自然に向上する── ミニバス指導者・原田久志氏に聞く  

公開:2022/10/21

更新:2023/03/10

Basketball JUMPで9月に行ったアンケート「利き手ではない側のスキル向上」にお答えいただいた指導者の中から、佐賀県佐賀市のクラブチームで指導する原田久志氏を取材しました。原田氏はミニバス指導者として全国大会の経験もあり、最近では、福岡第一高校現キャプテンの轟琉維選手らを輩出しています。

原田氏(左端)とSteelo(U15男子チーム)のメンバー

左手も使えれば、バスケットがより楽しくなる

原田氏は現在、U12男子のSwaggers(スワッガーズ、HC)、U12女子のHappiness(ハピネス、AC)、U15男子のSteelo(スティーロ、HC)で指導者・運営者として活動している。長年ミニバスの指導に携わるコーチだ。今回のテーマ「利き手ではない側のスキル向上」に関してお話を聞くと、具体的なスキルやドリルよりも、バスケットボールの楽しさに気付き、それを究めていく姿勢の大切さを語り始めた。

「ファンダメンタルやスキルは個人で完結しているわけではなく、人と人の意思疎通や相手との駆け引きがベースになっています。右手しか使えない子が左手も使えるようになると、できることが2倍になりますから、それだけバスケットボールが楽しくなります。それに気付くと、子どもたちは自発的に練習するようになる。これが原点です。

お笑い番組を見ているとき、自分が想像しなかったことが起きるから楽しい。バスケットにも共通点があって、相手が予測していないプレーを瞬時の判断で繰り出すことができれば、より楽しくなります。同じような場面でも、これまでとは違うプレーを選択することができれば、さらに楽しくなります。相手のイメージにないことを表現できたりとか、自分の身体が無意識に反応したとか、このような経験が増えると楽しさがどんどん大きくなり、自然と上達していきます」

没頭できる楽しさとは

楽しさを追求することは、考えること、頭を使うことにつながる。原田氏の育成に対する一つの考え方は、「結果の伴わない育成は育成ではない」。つまり勝ちにつながるファンダメンタル、スキルを教えていきたいとの考え方が根底にある。

「結果の伴わない育成は育成ではない。この言葉だけを聞くと誤解が生じるかもしれません。ミニバス年代だと”うちのチームは育成にこだわってるから、勝ち負けはどうでもいい”という声をよく聞きます。もちろん勝ち負けより大事なことがあると大人が言うのは分かります。でも子どもたちが”今は負けてもしょうがない”となってしまうのはおかしい。正しいことを積み重ねているのであれば自然と結果に結びつくはずです。

最近はブラック部活と言われるように、長時間の練習は悪とされています。しかし子どもの頃から、効率よく、負担なく、短時間でみたいな教育が本当に正しいのかなと疑問を感じます。

本当に楽しいことって、時間を忘れて没頭しますよね。もっと好奇心を持たせたいし、無茶だろってたしなめられるところまでチャレンジをさせてみたいです。その中から、子どもたちが自分なりの正しさや表現を見つけていくのかなと思います」

Swaggers(U12男子チーム)の試合で指示を出す原田氏(中央)。

重要なのは、プレーの選択肢を理解させること

「すると、必然的に頭を使ったバスケットという選択になります。スペースはどこにあるのか、スペースをどうやってつくっていくのか。小学生の場合、自分がトップに位置していて、右サイドからボールをもらった局面では、ディフェンスが右サイドに寄っていますから、左側にスペースがあります。ここで左手が使えると、そのスペースを使えます。左側にプレーの選択肢が広がっていることを理解すれば、自然と左手を使おうという意識が生まれてきます。ですから、左手のスキル向上をそこまで強調しなくても、日頃の練習の中で子どもたちのスキルが自然に上達していく実感はあります。

目の付けどころ、プレーの選択肢というものをしっかり理解させることが重要なのかなと思います。年少の子どもたちに対して理屈で説明することの難しさはありますが、何となくイメージで理解してもらうだけで、少しずつ行動は変わってくる、と感じています。

プレーの選択肢を教えられてない子は、右でボールをもらったら右へ突っ込んでいくことを繰り返してしまう。高校生の試合を見ていても、県内1~2回戦のレベルではそのような光景をよく見ます。技術の習熟度というよりは、プレーの選択肢を知らないだけなのかな、と思います。

小学生であっても、大人と同じようなバスケットをプレーできたほうがいいと考えています。プレーの選択肢を増やし、そのための技術を磨き始める時期は、早ければ早いほどいい。仮に中学生、高校生年代であっても、素直な心を持ちバスケットボールが上手くなりたいと思う子であれば、いくらでもスキル向上の余地はある、そう思います」

福岡第一高校でポインドガードを務める轟琉維選手は、ここで原田氏が語っているプレーの選択肢を追求する姿勢が小学生時代からピカイチで、相手を騙す楽しさ、シュートを決める楽しさ、味方を上手に使う楽しさなど、バスケットの楽しさをよく知る選手であったという。いつもニコニコしてバスケットをやっている姿が原田氏の目に焼き付いている。楽しいことを追求しているので、彼は努力を努力と思っていなかったんじゃないか、と。

左手を使うドリルについて、原田氏のチームでもよく行うというおすすめの実例を、後日、動画とともに後日紹介する予定です。ご期待ください。


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