恩塚 亨 これからのコーチングで大切にしたいこと その1 

公開:2022/12/13

更新:2023/01/13

JLCオンデマンド新作紹介

JLCオンデマンド・バスケットボールコースの最新コンテンツを紹介します。今回は、12月1日から配信開始されている「恩塚 亨 これからのコーチングで大切にしたいこと」の前半。恩塚コーチが講義形式で展開しているお話の内容をテキストに起こしました。

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このコンテンツが目指すもの

ミニバス、中学・高校、大学、そして日本代表と、これまでいろいろなカテゴリーのチームにコーチとして関わり、素晴らしい経験をさせてただきました。この経験の中で学んだことを、皆様と共有することを目的に、このコンテンツを作成しました。

2022年春に会社を立ち上げました。社名をBeyond Basketballと言います。この社名に込めた想いは、「バスケットボールを通じて人生を豊かに」。まずはコーチの人生を豊かに、そしてコーチの人生が豊かになるからこそ、選手たちの人生も豊かにしていける、というものです。このコンセプトをもとに、クリニック、講演、コンサルタント等の活動を今後していきたいと思っています。今回の動画コンテンツは、その一環としてジャパンライムさんとコラボして制作したものです。

自己啓発書に共通するメッセージとは

10年前の私は、何者でもありませんでした。大学チームを率い、いつか代々木体育館で試合がしたいと考え、日々指導をしておりました。その後、日本代表チームのスタッフとして活動できたり、インカレ優勝といった経験をすることができたのは、「ビデオと読書」が大きな役割を果たしたと思っています。ここではまず、読書についてお話ししてまいります。

コロナ下で私は、900冊ほどの本を読みました。脳科学、心理学、社会学、ビジネス書等々、あらゆるジャンルにわたります。中でも最も多かったのは自己啓発書です。私自身が成長して、その学びを選手たちにアウトプットすることができれば、最も効率が良いのではないか、と考えたのが、その読書傾向の理由です。自己啓発書をたくさん読んでいく中で、「結局、この本は何を言っているのか?」と考えるようになりました。それらの共通項として浮かび上がってきたのが、「行動しよう」というメッセージです。人それぞれ、いろいろな境遇・立場で成功するために歩み続けるわけですが、何を志向するにしても、行動を起こさなければ何も始まりません。その行動の仕方について、具体的に示す、背中を押すといったサポートをしてくるのが自己啓発書です。

「思わず行動したくなる」ように促すのがコーチの仕事

コーチの仕事も、これと同じではないかと思うようになりました。成功するためには行動することが大切。行動によって人生が輝いていく。成長していける。コーチは選手に行動を促す存在でなければならない。では、コーチ自身がどんな想いで選手と向き合ったらよいか?この問いに対して私が出した答えは、「選手とチームの命を輝かせること」。もう少し具体的に言うと、「目の前の選手の、心のエネルギーをいっぱいにすること」です。心のエネルギーがいっぱいになって、居ても立っても居られない状態で思わず行動したくなる、そんな状態に導くこと。もっと簡単に言うと「その気にさせる」ことです(図1)。

図1 コーチのミッション

選手をその気にさせ、「よし、やってみよう」という気持ちで行動させることができれば、最高のパフォーマンスを引き出すことができるし、コーチが逐一指示を出す必要もなく、選手自身が自分でハンドルを握りながらプレーしたり、練習したりできるようになるのではないか、と考えています。

何を×どんな心で 後者が8割

選手自身の行動力を上げれば、選手のパフォーマンスが上がる。では、そのパフォーマンスのレベルを決めるのはどんな要素か? 「何を?」×「どんな心で?」この2要素の掛け合わせによってパフォーマンスの良し悪しが決まると考えています。

「何を?」を分解すると、体力、スキル、戦術、論理などの要素があります。これらについて、具体的な目標値を定める。「どんな心で?」は、熱い気持ち、ご機嫌で、ワクワク、といった要素が重要になります(図2)。

図2 パフォーマンスの公式

以前の私は、「何を?」に関心が偏り、ビデオを細かく分析して技術・戦術を追求していく傾向にありましたが、いろいろな経験を積む間に、「どんな心で?」のほうが、はるかに重要であると考えるようになりました。比率としては「何を?」が2割、「どんな心で?」が8割。そのぐらいでもよいのではないか、と今は思っています。

なぜか。それは、選手も人間であるからです。一人の人間が、どんな時に最高のパフォーマンスを出せるか、どんな時に熱い気持ちになれるか。ここと向き合うことで、答えが見えてきます。わかりやすい譬えで言うと、体にいいこと、健康のためになること、を思い浮かべてください。野菜をたくさん食べる、運動をする、睡眠を十分にとる、等々。これらは、わかっていても実行することが非常に難しいですね。なぜできないか。一つの大きな要素は、「やらなきゃいけない」という心情です。この心の下では、ついつい言い訳をして、良いと思われる行動を避けてしまう。人は誰でもこうした傾向があります。

以前の私は、やりたくない選手に対して「勝ちたかったら、それでもやれよ!」という言い方をしていました。しかし、これは非効率です。選手を責めることになるし、責めている側も心が傷ついていく。お互いにとって良くない時間が流れていきます。だからこそ、「どんな心で?」の部分を重視して選手を導いていくことが大切であると考えています。

情報のインストールだけでは勝てない時代

私自身、以前は、ゲキを飛ばしまくる、問題を指摘しまくる、技術戦術を叩きこむ、といった振る舞いで満たされ、選手たちがお腹いっぱいだったとしても、勝つためには当然やるべきでしょ、という態度でした。選手に対して厳しく言える人が良いコーチである、とお考えの方は多いと思います。私も以前はそうでした。けれども、結果として良いパフォーマンスに導けるのが良いコーチである、と現在は考えています。

そのように考える根拠として、「レシピの勝負は終わる」時代に突入しているとの実感があります(図3)。

図3 レシピの勝負は終わる

かつてないほど、情報に溢れた時代です。手に入れようと思えば、世界中から、いくらでも情報を集めることができます。情報が不足している時代は、情報に価値がありました。しかし情報に溢れている今は、それらの情報をうまく使える人が、成果を出せる人になっていくのではないかと思います。情報をたくさん集めて、それを選手にインストールしまくる、というやり方はこれから通用しなくなるでしょう。情報を選び取ることが大切である。この考え方を皆様と共有したいと思います。

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