恩塚 亨 これからのコーチングで大切にしたいこと その2 

公開:2022/12/16

更新:2023/01/16

JLCオンデマンド新作紹介

JLCオンデマンド・バスケットボールコースの最新コンテンツから「恩塚 亨 これからのコーチングで大切にしたいこと」の後半を紹介します。恩塚コーチが講義形式で展開しているお話の内容をテキストに起こしました。

>>>これからのコーチングで大切にしたいこと その1 を読む

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問題に集中するのでなく、機会に集中する

コーチの仕事とは、と考えた時に何をイメージするか。数年前までの私は、「教える」「鍛える」「問題を解決する」。これらが中心でした。しかし、現在は違います。企業経営に関する本を読んでいく中で、印象に残ったフレーズがあります。皆さんご存知のピーター・ドラッカーさんによるものです。

「大きな成果を出す人は、問題に集中しているのではなく、機会に集中している」

抽象的な表現なので、少し具体的にお話しします。成果を出すために、たくさんの機会が存在しています。そして機会の中に問題が存在している。しかし、その問題を解決したからと言って、必ずしも成果が得られるわけではない。このことを知っておくべきです。問題を解決するよりも、もっと良い機会(絶好の機会)を捉えることに集中したほうが、効率よく成果を出せるのではないか。スポーツの場面に落とし込むと、選手の規律のなさ(だらしない部分)を指摘して尻を叩いてやらせるのか、あるいは、その選手に自信を持たせて、やる気を出させ、結果的に規律のなさも解決していくのか。後者を選択できる人が、コーチとして成功していくのではないかと思います。私も以前は前者の方法を選択していましたが、経営の考え方を知るに至り、絶好の機会を活かしたほうが明らかに成果が出やすい、と確信しています(図1)。

図1

エレベーターの待ち時間を解消する

ここで、面白いテストを一つ紹介します。課題設定力テストです。あなたがビルのオーナーになったと仮定します。そのオーナーに対して、「エレベーターの待ち時間が長い」というクレームが多数寄せられます。皆さんだったらどうされるでしょうか? この問いに対して、素晴らしい課題を設定して解決した経営者のお話をします。

その方は、エレベーターを増設するわけでもなく、エレベーターの昇降スピードを速くするわけでもなく、全く別の選択をしました。エレベーターを増設すると莫大なコストがかかるし、速度を速くすると安全性のリスクを負うことになります。コストやリスクを回避して、その人が取った選択は、鏡を設置することでした。鏡を設置することで、身だしなみをチェックする時間をつくった(図2)。

図2

エレベーターが早く来る方法を探したのではなく、待ち時間を無駄にしない方法を探したわけです。課題設定の視点を変えることで、直面している問題を解決した好例です。このような発想が、スポーツのコーチングにおいても求められていくのではないかと思っています。

どの指導者とお話ししていても「時間がない…」という言葉が漏れてきます。だからこそ、今お話しした課題設定力が問われてくるのではないか。問題解決を直視するのか、それとも、機会の中に埋もれている絶好の機会を掴みにいくのか。リスクやコストを最小限に抑えながら、最適な課題設定をして成果に結びつけていく。これがコーチにとっても、仕事の醍醐味と言えるのではないか、そう考えています。

どのような環境に置けば「頑張りたくなる」か

選手にベストを尽くしてほしい。どのコーチでもそう考えます。具体的な目標を設定して、そこに向けて頑張らせる。場合によっては目標達成できなかった時のペナルティを設定して、選手を鞭打つ、というやり方もあります。しかし現在の私は、別の方法を考えています。それは、「がんばりたくなるようにさせる」です(図3)。結果的に選手がベストを尽くせば良いので、選手がどのような環境に身を置けば頑張りたくなるか。この視点を課題として設定して、解決策を見出していくことで、選手のベストパフォーマンスを導き出そうとする考え方です。

図3

なぜ足が止まってしまうのか

バスケットボールでは何を競っているのか? これについて最近よく考えます。私自身、過去においては、素晴らしい技術や戦術をできるだけインストールしてコート上で発揮できるか。あるいは、苦しい状況でも我慢して、耐えるプレーをどれだけ続けられるか。これを実現するためには、たくさんのインストールと、だくさんの苦しい練習が必要。このような課題設定で、バスケットに向き合っていました。

けれども、現在は違います。現在は、セットプレーをインストールするよりも、プレーのダイナミックさを大切にしています。なぜならば、試合に負けた時、あのセットプレーがどうだった、という話題はあまり出ませんね。それより「足が止まった」という振り返りが多いと思います。ならば、足が止まらないようにするにはどうすればよいか。プレーのダイナミックさを失ってしまう原因を分析して、それを解決していけばよい。

ダイナミックにプレーする、という概念をさらに分解すると、「連続して攻める」ということになります。攻めると表現していますが、これはディフェンス局面も含みます。つまり、相手に対する対応の原理原則をあらかじめ定めておき、プレーに落とし込む。これができれば、個々の選手の判断も早くなるし、周囲との連携もうまくいきます。

ベストパフォーマンスにつながる心理状態

もう1つは、「ワクワクする」マインドセットです。我慢ではなくて、常にワクワクしてポジティブな心理状態を維持する。「連続して攻める」と「ワクワクする」。この2つを常にコート上で発揮することができれば、最高のパフォーマンスが出せる。つまりバスケットボールにおいて私たちは、この2つの要素を競い合っている、と考えれば良いのではよいのではないでしょうか。

「ワクワク」の要素を分解してみましょう。試合をしていると、プレーがうまくいかないことも多々あります。それに対する悔しさ、また疲れ、あるいは恐れといった感情で、心理状態が大きくブレてしまうことがあります。このブレが大きいことでパフォーマンスが低下していないでしょうか。これを「我慢」や「耐える」といった心持ちで乗り越えようとしても、それはとても難しい。それよりも、「やるぞ」「やってやろう」という気持ちが大きい場合のほうが、総合的に見てパフォーマンスが高くなると思います。

しかし、常にポジティブなイメージを持って戦い続けることは簡単なことではありません。これはとても難しい。ですから、「ワクワクしながら軽やかに足も頭も動かし続ける」こと、それ自体がトレーニングによって成し遂げられるべきもの、と捉えています。つまりこの点が、バスケットを指導する上での最重要強化ポイントにしていけるとよい、と考えています(図4)。

図4

「自ら頑張れる」状態をつくる3つの条件

コーチングにおいて解くべき問いとは、「その気にさせるための方法」をつかみ、磨きをかけていく。その方法は、褒める、叱る、技術や戦術を教える…何でもよいと思います。しかし選手がその気にならなければ、コーチは仕事をしたことになりません。

選手の幸せとコーチの幸せ。この二者は両立できると思っています。この2つが両立できた時に、最高のパフォーマンスが発揮できるし、選手とコーチの人生を同時に豊かにできる。私自身も過去は、「ベストを尽くす」というミッションに対して、ネガティブ感情である義務感や自己否定感がその拠りどころとなっていました。最近思っているのは、「良い状態で」ベストを尽くすことこそが、選手もコーチも心豊かにバスケットをできるのではないか、と考えています。

最後に。人はどんな時に力を発揮するのか? という問いに対して、次の考え方を皆さんと共有したいと思います。「ワクワクする夢を心に抱いた時」「効果的な方法を理解している時」「自分ならできると信じている時」。この3つを揃えることができれば、怒られるからやる、のではなく、選手は自ら熱い気持ちで、最高のエネルギーを発揮できるのではないか。私はコート上で選手を見る時、この3つが揃っているかどうかを常に気にしています。この3つのうちのどれかが欠けていると、選手は頑張ることができません。コーチにとっても、この3つを高めるための情報を集めていくことができれば、ロスなく、生産的に良いコーチになっていけるのではないか、と思っています(図5)。

図5

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