バッシュの正しい知識と間違った知識  

公開:2023/03/17

更新:2024/01/10

工学や物理学系の専門知識を駆使し、バッシュについて様々な情報を発信し、多くのフォロワーを持つ人がいる。“ぱらと”さんがその人だ。ぱらとさんに、バッシュの選び方や使い方に関する基礎的なレクチャーをしていただいた。

育成年代に多いバッシュの悩み

ぱらとさんのもとにはバッシュに関するさまざまな相談が寄せられる。その中でも成長期のプレーヤーやその親御さんからの質問で多いものを挙げていただき、それらについて回答・見解を述べていただいた。

ぱらとさん(本名:関口修平さん)。400足を超えるバッシュを履いてきた自身の経験と、ものづくりメーカー研究開発職として培った知識を活かしてバッシュに関する情報発信を続けている。

「昨年一年間で200件ほどのバッシュ相談を受け付けました。そのうち3割ぐらいが、育成世代のプレーヤー、および親御さんからの相談でした。それを改めて整理してみて、多いものからベスト3を並べたのが図1です。

一番多かったのが、成長期で足が大きくなっている最中なので、大きめのサイズを買うべきか?

二番目は、日本人にはアシックスが一番合っていると言われることが多いが、本当にそうか?

三番目は、アッパー(足の甲を覆う部分)に穴が開いたとか、シューレース(靴ひも)が伸びきってしまったとか、履き口が少し破けているとか。そのように一部破損した状態で、まだ使えるかどうか?

という質問です」

ジャストフィットが基本だがソックスやインソールで調節もOK

「最初の、成長を見越して大きめを買うべきか? について。基本的にはジャストフィット、つまり現状の足に合うシューズを買うのが身体に対して優しいのは間違いありません。けれども成長期は足がすぐに大きくなって買い替えが必要になります。親御さんの立場になれば、多少大きめを買いたくなる気持ちは非常によくわかります。

そこでお勧めしているのが、インソールやソックスを使って調整する方法です。インソールは元々シューズに入っているものを外して、市販のインソールで接地面を少しカサ上げするイメージです。ソックスは厚めのものを履くか、2枚重ねという方法もありです。ハーフサイズ程度大きめを購入し、こうした方法でジャストフィットに近い状態にもっていく。足の成長に合わせて、ソックスの枚数を減らしたり、インソールを元々入っていたものに戻したりすれば、長い期間履くことができます。

オーバーサイズのシューズを履いていると足の形が崩れてしまい、生涯悩むことになる外反母趾や偏平足の原因になったりもするので、基本的にはジャストサイズを選択すべきことは、再度強調したいです。あと、着用感は本人でないとわかりませんので、親御さんは日頃からできるだけ状態を確認してあげることが大切だと思います」

大きすぎるシューズは足を壊す

──先ほど、大きめを買う場合はハーフサイズアップで、とのお話がありました。インソールやソックスで対応できるのはハーフサイズ以内、と考えればよいですね?

「はい。大は小を兼ねると言われますが、シューズに関しては、小(足)を大(シューズ)で兼ねると壊れるのは足のほうです」

──ソックスの重ね履きは、2枚までが適切ですか?

「NBAには3枚、4枚重ねる選手もいますが、おすすめできるのは2枚までかな、と思っています。ただし2枚の組み合わせ方法として、“薄手+厚手”であったり、“厚手+厚手”であったりと、結構、調整が効きます。ソックスは素材もいろいろなので、履き心地を含めていろいろなパターンを試してみていただきたいです」

──インソールの選ぶ際の留意点は?

「ヒールカップ(踵部)のサイズがぴったり合うこと。それと、屈曲点(拇指の付け根と小指の付け根を結ぶ線)が自分の足にしっかり合っていることです。シューズのサイズだけを見てインソールを選んでしまうと、インソールがフィットしないためシューズの中で足が激しく動いてしまいます。まず自分の足に適合したインソールを選択し、それがシューズにうまく収まるかどうかを見ていくようにしてください。

加えて、着用感としてどのようなものを望むか、ですね。クッション性が良く衝撃吸収を重視したインソールもありますし、逆に硬めでシューズと足の連動性を高める効果を期待できるタイプのインソールもあります。プレーヤー自身の求める機能に近いかどうか、を見極めていただきたいと思います」

──あくまでも本人に合ったものを、との前提で、あえておすすめできるメーカーはありますか?

「私が一番おすすめしているのは、SUPERFeet(スーパーフィート)というメーカーのインソールです。踵の骨とアーチをしっかりサポートしてくれるので、バスケットボールのように着地衝撃が繰り返されるスポーツで、疲労によるパフォーマンス低下を防ぐ効果を期待できます。スポーツ量販店で常備しているところも多いので、実際に試してみるとよいと思います」

メーカーごとの特性が自分に合っているか見極める

──二番目に多い質問が、日本人にはアシックスがベスト? というものでした。

「世代に関係なく、アシックス神話は根強いです。しかし日本人すべてにアシックスが向いているわけではなく、プレーヤーそれぞれの個性によって最適なメーカーを選択すべきです。

メーカーによって、シューズの持つ特性はかなり異なります。わかりやすい例で言うと、NIKEが開発したZoom Airという衝撃吸収部材を搭載したモデルは、クッション性が本当に良く、プニプニした感触があります。踏み込みの力を溜めて反発力を得られる感覚が好きな人は、これが向いているでしょう。これに対してアシックスのGel Hoopはどちらかと言うと硬めで、反発性をあまり感じさせないタイプです。これは足裏の感覚を大切にしたい人に向いています。 PUMAもこれに近いタイプ。Adidasは両者の中間的な位置。

柔らかめのクッションを好むプレーヤーが、日本人向けという先入観だけでアシックスを選んでしまうと、疲れやすくなったりという可能性があります。プレーヤー自身の好みで慎重に選ぶべきです。ただし21cm以下のサイズだと国外メーカーではラインアップがほとんどないので、アシックスに限られてしまうのかな、とは思います。

いろいろ試し履きしてみるとメーカーごとの特性が見えきます。できるだけ多くのモデルを試してみることをおすすめします。外からの情報だけでなく、自分自身の足の感触を大切にしてください」

壊れたシューズは身体を壊す

──三番目に多いのが、壊れたシューズを使い続けてよいかどうか、という質問。

「壊れた部分や程度にもよりますが、大きな怪我や慢性的な故障の原因にもなるため、基本的には破損したシューズは買い替えるか、修理可能なら修理した上で着用することをおすすめします。破損したままの状態では履かないでください。

破損例で多いのが、インソールの拇指球や踵の部分に穴が空く、アッパーの小指側に穴が空く、といった例です。これらが起こる原因の多くは、サイジングが間違っていること。多くの例で、大きすぎるシューズを履いていることによって起こります。シューズの中で足が動き、度重なる摩擦でそれらの部分が削れてしまうのです。頻繁に破損が起こるようであれば、サイジングを見直すべきです」

「物を大事にする、という意味で少々の壊れていても使い続ける考え方も理解はできますが、シューズの履き口が破れていたり、シューレースホールが壊れていたりするのは、車に置き換えると、エンジン警告灯が点いていたり、もっと言えばマフラーから黒煙が出ているのに近い状態です。そのまま使い続ければ危険であることは、おわかりいただけると思います」

よくある間違い

──指導者や親は、自らの経験だけでシューズ選びをアドバイスしてしまう傾向もあると思います。陥りがちな先入観や間違った知識はどのようなものでしょうか。

「よくある間違いで、改めていただきたい項目を4つ挙げます(図2)。2番目のアシックス神話については先ほどお話ししましたので、それ以外を説明します」

間違い1 日本人は幅広甲高である

「日本人の足の特徴を数多くの事例から調査しているアシックススポーツ工学研究所の報告では、幅広甲高ではなく、幅広甲低であるとの傾向が出ています。つまり幅広だが甲は高くなくて低い、アーチが低いということです。また幅広の傾向もそれほど極端というわけでなく、欧米人に比べてやや幅広、という程度です。極端に幅広の人は日本人にもほとんどいません。

ここで注目してほしいのは、なぜ幅広に見えるか、です。大きな原因の一つは、踵の骨が内側に傾いてしまって、アーチが低くなる、つまり偏平足気味になっている人が多い。これが日本人の足の傾向です。こうなると幅が窮屈に感じられてしまうため、幅広のシューズを選択しがちになります。このような場合は足の機能を活性化させたり、インソールで骨の向きを矯正してあげれば、“幅広”の傾向は解消して、欧米人型のモデルも問題なく履けるようになります。適合サイズも変わることになります」

間違い2 サイズが大きい分はシューレース(靴ひも)で調整すればよい

「シューレース本来の役割は、余分な空間を無理やり締め上げることではなく、着脱時に広げた空間を元の状態に戻すことです。きつく締めあげるとアッパーに皺が発生しますが、その状態で履いていると、アッパーが正しい機能を発揮できません。その結果、先ほどお話しした破損につながり、シューズ寿命を縮めることになります」

間違い3 サイズ合わせの際、つま先の捨て寸は1cm

「足を動かすとシューズの中で足が滑るので、足の大きさにピタリと合ったシューズは、つま先が当たって痛いです。ですから、捨て寸を適切に取ることはとても重要です。ただし捨て寸は誰もが一律で1cmが適切というわけではなく、足の形によって変わってきます。一般的に、足趾が長ければ捨て寸は小さく、足趾が短ければ捨て寸は大きくなります。例として、ギリシャ型と呼ばれる人差し指が長い人は、捨て寸小さめ。反対に指の長さがほぼ均一なスクエア型の人は、捨て寸が大きめになります。つま先から踵までの足の長さが同じであったとしても、このように足趾の特徴によって屈曲点が異なりますので、捨て寸も変わってくるのです」

ベタ足の動きが生む弊害

──足の屈曲点とシューズの屈曲点がずれていると何が起こるのでしょうか?

「本来圧迫してほしくない部位、例えば足の甲とか足趾に余計な圧迫ストレスがかかり、痛くなりやすいです。すると足趾を曲げない、いわゆるベタ足の動きになりがちです。その影響で、悪い場合はアキレス腱断裂とか、ハムストリングスの損傷などを引き起こす可能性があります。自身の筋力が弱くて筋肉や腱に大きな力が加わらない小中学生の時期にはそうした怪我は起こりにくいですが、高校生、大学生の年齢になると、長年の悪い動きの癖が影響して怪我の危険性が高まります。本来、足部で行われるべき衝撃吸収の動きを、膝や腰で代償してしまうためこれらの部位に負担が増して膝痛や腰痛を起こす可能性もあります。バスケを始めた当初から、ベタ足にならずに足趾をしっかり曲げて動く身体操作の方法を身につけてほしいです。それを実現する意味でも、正しいシューズの選択をしていただきたいです。」

「合わないシューズは足の変形を誘発することも知っておいていただきたいです。外反母趾、内反小趾、偏平足、開帳足など。シューズ内のブレを足趾で踏ん張る癖がつくと、指が丸まってしまうハンマートゥ、クロウトゥと呼ばれる足趾の変形も誘発します」

お店でやるべきこと

──お店で実際にシューズを選ぶ際、やるべきことは?

「インソールを取り出して、インソールの上に足を載せてみてください。足の屈曲点とインソールの屈曲点が合っているかを見ます。勝手にやると怒られるので、お店の人に許可を得てからやってください(屈曲点合わせの方法は、下記の図3~5を参照)。インソールから小指がはみ出していたりすれば、シューズを履く前に合わないということが推測できます。

図3 インソールとシューズの屈曲点を確認する
図4 インソールの屈曲点と足の屈曲点を合わせる
図5 インソールを入れた状態でシューズの屈曲点が適切かをみる

正しい履き方、脱ぎ方

──次に、日常のシューズ着脱についてうかがいたいと思います。履き方、脱ぎ方の注意点は?

「体育館の床に座って、足を立てながらシューズを履く子が多いですが、これはおすすめできません(図6)。この時の足がどうなっているかと言うと、踵だけが接地した状態です。この状態でレースアップして立ち上がると、足の形が変わってフィッティングが変化してしまいます。プレー時には直立荷重するわけですから、その状態をつくって履くべきです。具体的には、椅子に座って脛を垂直にした状態で履く、あるいは立った状態で前屈して履くか、です。正しく荷重した状態でシューレースを締めあげましょう(図7)。

図6 NGの履き方
図7 正しい履き方

次にシューレースの扱い方。足首に近いほうのレースホールを2~3個緩めるだけで脱ぎ履きするプレーヤーが非常に多いです。特に子どものうちは足が柔らかいため少し緩めるだけで脱ぎ履きができてしまうので注意が必要です。十分に緩めないで脱ぐ行為を繰り返していると、脱ぐ時に加わる力がアッパーにダメージを与え、シューズの寿命を縮めてしまいます。面倒でも、すべてのレースホールを緩めることを必ずやっていただきたいです(図8)。

図8

最後にもう1点、バッシュに限らず靴全般に言えることですが、踵は踏みつけないでください。踵を踏みつけると、シューズの機能上、大切な部品であるヒールカウンターが壊れてしまいます。足を入れにくい場合は靴べらを使ってください」


ぱらと(本名:関口修平) 地方国立大で材料工学を修めたのちモノ作りメーカーにて研究開発職に就く傍らで物理目線での動作解説やバッシュ機能解説に関する情報を発信。確かな理論をバスケに応用するため材料工学・古典力学・統計力学の他、解剖学・運動力学・足病学・栄養学などを学ぶ。 それらの情報を基にしたバスケ指導に携わる。YouTubeチャンネル【物理屋がバスケを分解】エントレ  バッシュ選びの教科書note   直接相談できるエントレ公式LINE

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