【特集:タイムアウト】状況を正確に把握し、「まだ大丈夫」であることを理解させる

公開:2021/12/03

更新:2022/01/21

鹿屋体育大学女子バスケットボール部・木葉一総ヘッドコーチ

木葉氏には、インカレ開幕直前の慌ただしい中、オンライン取材にご協力いただきました。

2012年から鹿屋体育大学女子バスケットボール部を率い、インカレでもたびたび上位進出を果たしている木葉一総ヘッドコーチに、タイムアウトの取り方、使い方についてインタビューしました。長年の指導経験の中で作り上げてきたタイムアウトの「型」とは?

相手との力関係でタイムアウトをプラニングする

試合前の分析で相手チームの実力が自チームに対してどの程度であるか。これによってタイムアウトの取り方が変わってきます。実力が拮抗しているのか、どちらかが少し上か、あるいは大きく差があるのか。簡単に言うと、自分たちがチャレンジャーである場合は早めのタイミングで、横綱相撲的に試合を運べそうな場合は、やや遅めのタイミングで最初のタイムアウトを取る。私はこれを原則にしています。対戦相手との力関係によって、あらかじめタイムアウトの計画はある程度イメージして試合に臨みます。

けれども試合開始から相手に猛攻撃をしかけられて、タイミングを逃してしまう時もあります。最近では2019年のインカレ準々決勝で拓殖大学さんと戦った試合。タイムアウトを取り切れないうちに0対20とリードされてしまいました。

状況を正確に、冷静に理解させる

そのように大量得点差が生じてしまった場合は、なかなか修正が難しいですが、10ポイント程度であれば十分に追い付くチャンスはあります。相手にリードされている場合、タイムアウトではその時の状況を選手たちが冷静に捉えられるような助言を心がけています。10ポイント離されていても3Pシュートが1本入れば7点差。ゲーム終盤であったとしても、7点は3回の攻撃で追いつくことができます。それほど慌てることはない。このことを、根拠を持って理解させる。

また、劣勢にある時の自分たちの状況を正確に把握させることも大事です。数字のマジックというものが存在し、10の位が2段階離れてしまうと、選手は大量得点差と錯覚して焦ってしまう傾向があります。たとえば、29対42で負けている場合。随分離されているように見えますが、実際は13点差。少しずつ詰めていけば十分追いつける点差であることを理解させて、いったん落ち着かせる。

「まだ大丈夫」をいかに伝えるか

相手のプレッシャーが激しく、シュートまでもっていくことができていないのか、あるいは、シュートは打てているが単に入っていないのか。後者の場合は、我慢していればいずれ入ることを理解させ、必要以上に焦らせないようにします。「まだ大丈夫だよ」ということをいかに伝えるか、ここにフォーカスする。シュートが1本入れば選手たちは落ち着きますので、そのために、フリースローを取りに行けと指示を出すこともあります。

時間、得点差、流れ。この3要素の捉え方を間違えなければ、的確な指示を出すことができると思います。流れというのは、その試合での選手個々の調子も含みます(図1参照)。

図1 タイムアウトで指示を出す前に把握しておくべき要素の例

試合をコントロールしながら僅差で勝つ

私たちのチームがインカレや全日本総合などの全国レベルで戦う場合は、大差で勝てるケースはほとんどありません。選手交代やタイムアウトをうまく使って、可能な限り試合をコントロールしながら、最後は僅差でも勝つことを目指しています。

約40年にわたる指導経験の中で、最後までタイムアウトを残しておいて、残り数秒のタイミングで逆転勝利したこと、その反対に、タイムアウトを取り切れずに負けてしまったこと、いろいろありました。第4クォーター開始の時点で10ポイント程度負けている試合でも、しっかりオフェンスができて点数が取れているのであれば、最後までタイムアウトを残して逆転するゲームプランを描くことができます。

すぐには話し出さない

タイムアウト時の行動で私自身、長年の経験の中で変わってきたのは、「すぐに話し出さない」ことです。まず相手ベンチの様子を観察します。相手が何を考えているか? それはわからないとしても、見られていれば嫌ですから。これに前半30秒を使います。残りの30秒を使って、1つか2つの要素に絞って話をします。

選手たちとは練習時から長く時間を共有していますので、キーワードを1つ2つ言えばその時に必要なプレー要素はだいたい伝わる。このチームでは、最近はそういう状況になってきました。若い頃は、選手が戻ってくるなり、一方的にしゃべるまくる、そんな良くないタイムアウトも随分やっていましたが(笑)。

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