栃木県が取り組むバスケットボール未来構想

公開:2021/04/09

更新:2021/04/08

県バスケットボール協会専務理事・鈴木克美氏に聞く

日本のバスケットボール界が大きな過渡期を迎えている中で、都道府県単位でも各種の新たなチャレンジが始まっています。今回は栃木県の取り組みを取材しました。


鈴木克美氏。今回はオンラインでお話をうかがいました。

県内でバスケットボール人材を循環させたい

──栃木県では、県のバスケットボール界改革に積極的に取り組んでいるとお聞きしました。どのような課題に、どのように取り組んでいるのでしょうか?

2020年に役員が大幅に入れ替わったのを機に「栃木未来構想」というプロジェクトを立ち上げ、少しずつ環境整備に動いている最中です。栃木県のバスケットボールは、おそらく他県ではあまり見られない大きな課題を抱えています。県内には、Bリーグの宇都宮ブレックス、さらに大学で全国トップクラスの白鴎大学があります。白鴎大学は2020年のインカレでも女子が準優勝、男子が3位と、輝かしい成績を残しています。こうしたトップチームが存在するにもかかわらず、高校生以下の世代が育っていません。小中学生で有望な選手がいたとしても、他県の強豪校に進学するケースが多いのです。なぜそれが起こるかというと、選手たちが「このチームでプレーしたい、勝ちたい」を思ってくれるようなチームが存在しないからです。つまりU-18のカテゴリーで、県内選手の育成が途切れてしまう現象が起きています。

この課題を克服するための長期的構想として私たちが企図しているのが、県内でバスケットボールの人材を循環させたいということです。幼少期から始まって、中学高校、大学または社会人チームまで県内で育った人が、指導者になってまた県内で育成に携わる。こうした流れを県内で創り出したいと思っています。以前から人材の県外流失を止めなければならない、あるいは県外の選手を呼び込めるような環境を作るべきだと言われていましたが、私たち県協会として、あまり有効な対策が取られていなかった。この部分の具体的な活動を少しずつ始めています。

──どのような活動でしょうか。

一つは異世代間交流です。2021年1月に開かれたJr.ウインターカップ2020-21(第1回全国U15バスケットボール選手権大会)で女子第3位に入ったサザンギャルズ1031というチームがあるのですが、このチームは一つ上の世代(U-18)の高校生チームと試合をする機会を多く持てています。また、昨年の茨城国体に向けて、白鴎大学さんにお願いをして県代表の少年女子チームが一緒に練習させていただき、その甲斐あって3位になることができました。こうした実例を目の当たりにし、上のカテゴリーと練習したり試合をしたりすることがいかに重要かということを肌で感じていますので、今後も世代を超えた交流を活発化していきたいと考えています。

──一口に世代間交流と言っても、日頃接点のないチーム同士の交流は難しいのではないでしょうか。

その通りです。経験豊富で人脈もあるコーチであれば個人の力で何とかなるでしょうが、この動きを県全体に広げていくには、組織的な取り組みが必要です。幸い、県協会の現強化部長が白鴎大学女子チームの佐藤智信監督であり、使える資源は何でも使ってくださいと言ってくださっているので、たいへん心強いです。

──一先ほど、県内での人材の循環というお話がありましたが、大人になってから高いレベルでバスケットボールを続けることができる受け皿も必要では?

はい。現在栃木県には、地域リーグに所属する社会人チームが一つもありません。国体チームの強化という意味でも、これが存在しないと他県に後れをとってしまうことは明白です。数年かけて、地域リーグに参戦できるチームを作りたいということで、具体的なアクションを始めています。理想的には単独の企業チームを立ち上げる、それが難しければ、いくつかの企業さんにお願いをして、選手の雇用をしてもらって県内で社会人としてプレーできる基盤をつくっていきたいと考えています。2022年に栃木国体が開催されますが、視線をそこに固定するでなく、長期的視点で県内で選手が育ち、人材が循環する環境をつくっていきたいです。

指導者育成と審判育成

──一指導者育成について、県内独自で取り組んでいることはありますか?

日本協会主催の公認コーチ養成講習以外に、県独自でやっているものは今のことろありません。今後、カテゴリーの垣根を超えて県内の指導者たちが集う講習会を開きたいと、構想中です。

実績として一つお話しできるのは、B2越谷アルファーズの青野和人アソシエイトコーチにお世話になって昨年行った試みです。コロナ禍で県協会としても思うような強化活動ができなかった中、U-13、U-14、U-15選抜チームの練習会を数回行いました。その様子をすべて動画撮影して、青野コーチにその動画を送り、選手個々へのアドバイス、指導者へのアドバイスをかなり詳細に書き込んでいただき、返送された動画を現場にフィードバックすることができました。

これまで、日程が合う時は直接来ていただいて指導をお願いしていましたが、それだと1つのカテゴリーしか見ていただけません。3カテゴリー各男女で合計6カテゴリー、地区単位のチームも含めると合計10チームほどになります。コロナ禍での苦肉の策であり、青野さんには大変なお手間となってしまいましたが、全カテゴリー満遍なく見ていただけたのは大きな収穫でした。選手たちはもちろん、指導者のスキルアップにつながる施策として、これは今後も続ける予定です。バスケットの見方、戦い方、課題克服の指針などについて細かく説明していただけたので、指導者たちにとってとても有益でした。

栃木県は、実は審判に関しては人材が豊富で、Bリーグに4名、Wリーグに4名、現役で活躍中のS級審判員を輩出しています。その中の一人、Wリーグで2年連続計4回、最優秀審判賞を受賞している渡辺整さんらが熱心に後進の指導をしてくれています。また、FIBA 3×3ワールドツアーが宇都宮で開催されたのを契機に市内の小中学校に専用ゴールとボールが配布されたりと、他県にはない恵まれた環境が整いつつあります。これらを活かしながら、栃木県バスケットボールのレベルアップに努めたいと思います。


___取材を終えて
U18以下の育成と普及が課題だという問題意識を持ち、強い推進力で改革に取り組む鈴木専務理事。自身が掲げる「栃木未来構想」の実現に向けて、日々奔走されています。こうして明確にビジョンを掲げ、協会全体でそれを共有して取り組むという事例は、全国でも珍しいのではないでしょうか。年月は掛かるかもしれませんが、栃木未来構想で描く未来が実現し、審判だけでなくプレーヤー・指導者も、栃木から日本を代表する人材が輩出されることを楽しみに、今後も栃木県の取り組みに注目していきたいと思います。

(2021年3月8日、オンラインにて取材)


栃木県バスケットボール協会

栃木県バスケットボール協会 HP:http://tochigi.japanbasketball.jp/


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