中村和雄氏インタビュー「ジャパンライムと私」

公開:2020/07/06

更新:2021/02/22

2014年4月発行 ジャパンライム40周年記念誌『THE future』特別インタビューより

これまで手掛けたビデオ・DVDは実に9タイトル。1988年発売の『バランスの頂点1』を皮切りに、中村和雄氏とジャパンライムは長きに渡って歩みを共にしてきた。あるときは監修者として、またあるときは1人の視聴者として。スポーツ界、バスケットボール界を牽引し続けてきた中村氏が、自身の経験とともに“ジャパンライム”を語ってくれた。

牧師さんに借りたビデオを擦り切れるほど見た青年時代

私が指導を始めたのは26歳の頃。就任先は生まれ育った秋田の学校ではなく、縁があって長崎の女子高でした。そもそも選手としてずっとやっていくつもりでしたから、指導者になるつもりはなかったんです。それでもいざ始めてみると、イチから作り上げていく楽しさに目覚めたんでしょう。またたく間にその魅力に取りつかれてしまいました。

皆さんも一度は経験されているとは思いますが、一生懸命に指導を突きつめていくと、必ずどこかで壁にぶつかります。私も例外ではなく、何度も「わからない」ことや、選手の「伸び悩み」に苦しみました。そんなとき、当時の私が頼ったのが『ビデオ』だったのです。

ご存知のように長崎は教会の多いところで、そこにはアメリカから来た牧師さんがいます。牧師さんたちの中にはバスケットの経験者もいて、そんな彼らが本国からビデオを持ってきていたんです。かれこれ50年前になりますね。その頃の日本にはまだバスケットのビデオはなかったので、とても新鮮に見えたものです。図や説明文だけではわからない複雑な動きも、ビデオで見るとよくわかる。それこそ擦り切れるくらいまで何度も見て、何度もコートで試行錯誤を繰り返しました

制作する側になってわかった指導を整理することの重要性

その後、社会人チーム(共同石油)に移ってからは、もっともっとバスケットの戦術について勉強したいと思って、いろんな国を訪れて回りました。ヨーロッパ諸国や中国、台湾、フィリピンなど、どこにでも行きました。自分のチームに取り入れられるものはないか、諸外国の強さの秘密はどこにあるのか。時間をみつけては、見て歩いたものです。

とはいえ時間もお金も有限です。そう手軽に出かけられるものではありません。そこで出会ったのがジャパンライムのビデオだったのです。

当時はアメリカの有名なコーチのビデオを輸入していて、「よくぞ取り寄せてくれた」と感じたのを覚えています。片っ端からそれを見て、自分なりにアレンジをして、選手に伝える。外国に行って見学するのとは違って何度も繰り返し見られますから、そういう意味ではとても便利に活用させてもらいましたね。

また、今は残念ながら販売をしていないそうですが、過去に『Time Out』※という冊子がありました。こちらもアメリカでつくられたものを翻訳しているのですが、戦術のパターンが大量に紹介されていて、非常に勉強になりました。いまだに何かあると、本棚から引っ張り出して再確認をしていますから。

そうしているうちに、今度はジャパンライムから「ビデオをつくらないか」という話をいただきました。私も物好きですから、じゃあやってみようかと。

いざやってみると大変なこともありましたが、むしろ良かったことの方が多くありました。一番はこれまでやってきたことが整理できたことでしょう。人様に見てもらうものをつくるわけですから、端折っていたようなところも考え直さなくてはいけない。選手と一緒になって、もう一度練習の意味なんかを確認するわけです。そうするとお互いに『ここが大事だ』という認識が改めてできるようになるんです。

指導者や選手たちに求めたいのは「いいもの」を見る意識と姿勢

今の若い指導者の方々は、我々のときとは比にならないくらいの情報量を持っていると思います。本や雑誌を開けば豊富に練習方法が載っていて、DVDでもいろいろなトレーニングが紹介されています。

しかし、それに反して『いいものを見る』という姿勢を持った指導者が減っているように思います。

新しいものを編み出すならば、より優れたものを見ることが大切なはずです。ところが、どうしても自分自身や仲間内から脱却できない。そのなかで練習をしても試合をしても、今以上の大きな発展はできません。私自身、年を重ねてきて恐れているのは、体力の衰え以上にアイディアの衰えです。

私も今日までそれなりに実績も残してきたつもりですが、バスケット界やスポーツ界というのは日々進化しています。過去のことに固執していると、この進化に置いていかれるような気がするのです。

今でも新しいもの、一流のものを見ますし、DVDだって見ます。逆に昔から大切にしている資料は、何十年経っても見返しています。つい指導者は自分が万能だと思いがちですが、常に勉強する気持ち、いいものを見る姿勢を持ち続けていきたいものです。

ジャパンライムさんにもリクエストをしますが、もっと選手が見て勉強になるものをつくってほしいと思います。指導者と同時に、選手にも一流のものを見せてあげたいのです。

もちろん、現場に出かけて行って生のプレーを見るのが一番いいのですが、みんなが行けるわけではない。しかし映像であればいつでも、何度でも見られます。様々な角度からプレーを見せ、そのコツを伝えてもらえれば、コーチの指導を受けることよりも大きな刺激になるはずです。今回の40周年を機に、ジャパンライムさんにもぜひ、新しいチャレンジをしてもらえればと思います。

(取材:2014年)

※『Time Out』は現在、ジャパンライムの動画配信サイト「JLC OnDemand」にて動画で配信中です。


中村和雄 Kazuo Nakamura

1940年、秋田県出身。指導者として鶴鳴女子高校(現・長崎女子高校)を全国制覇に三度導き、その後、共同石油(現・JX)の監督に就任。日本リーグ屈指の強豪へ育て上げた。秋田経法大、浜松・東三河フェニックスの監督、秋田ノーザンハピネッツ、新潟アルビレックスBBのヘッドコーチなどを務めた。元日本女子代表監督。

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