【オンラインセミナー・レポート】 育成年代の映像分析で培う力  

公開:2021/03/12

更新:2021/04/09

講師:株式会社ERUTLUC代表 鈴木良和氏

2021年2月27日より全5回シリーズで行われたオンラインセミナー「実践例から学ぶ映像分析の活用法」の内容から、一部を要約してご紹介します。第2回は、3月6日に「育成年代の映像分析で培う力」というテーマで開講されました。U-15クラブチームで、どのように映像を活用してコーチングしているか、その実践例です。 

「バスケットボールの家庭教師」で知られる株式会社ERUTLUC(エルトラック)では、育成年代のクラブチームもいくつか運営し、各地での大会に出場しています。学校の部活とは異なり、チームが集合する機会、練習時間も限られる中でチームコンセプトの理解度を上げ、課題と解決策を共有していく作業の中で、映像を存分に活用していいます


司会:今日のテーマは、「育成年代の映像分析で培う力」。エルトラックさんが運営するクラブチームでは、育成年代のコーチングに映像をどのように活用しているのか、その具体例を示していただきます。

鈴木:皆さんこんばんは。鈴木です。私たちが運営している育成年代(U-15、U-14、U-13、U-12クラブチームで、分析アプリSPLYZA TEAMS(スプライザ・チームス)を活用しています。本日は、そこで実践している内容をご紹介します。主にやっているのは、自チームの分析です。映像分析では、相手チームのスカウティングという目的ももちろんありますが、何よりもまず重要なのは自チーム分析だと考えています。

鈴木:昨年は、コロナの影響でかなり活動が制約されましたが、7月下旬から対外試合ができる状況になりました。その直後の8月初旬に、U-15女子チームが、あるカップ戦に出場しました。この時は同じ埼玉県のクラブチームに、51対76で完敗しました。その約3ヶ月後、11月にU-15全国選手権の埼玉県予選があり、同じチームと対戦して、72対34で勝ちました。この3ヶ月間に行ったことの中で、映像を使ったコーチングが非常に効果があったと実感しているので、今回はそれについてお話していきます。

試合が終わると、撮影したビデオにチーム全員でタグ付け(※)をしていきます。1名あたり4分を目安に担当を割り振っていきます。各人が4分程度担当することで、1試合分のタグ付けが比較的短時間で終了します。

※タグ付けとは、映像の中で特定のプレーに印をつけ、後で分類して見やすくする作業。例えば「オフェンススタート」のタグを付けていくことで、1試合を通してのオフェンス機会を全部まとめて分析することができる。

鈴木:映像で確認したのは、この時期のチームコンセプトがしっかり実行できているかどうか、です。オフェンス面のコンセプトの1つは「1on1ファースト、ペイントアタックファースト」でした。外にキックアウトパスを出せば3ポイントを簡単に打ててしまう状況でも、ドライブできそうであれば積極的にドライブする。相手が2人で詰めてきたとしても、その2人を割って中に入っていくような強烈なペイントアタックをやってみよう、それを試みて失敗しながら、行ける時と行けない時の判断ができるようにしたい、ということ。

タグ付けして整理したオフェンス映像を見ていくと、それぞれのオフェンス機会で、ディフェンスがどのようにクローズアウトしてきているのか、どの程度の間合いがあるのかがよくわかります。その動きを予測した上で、ペイントアタックからシュートまでもっていく方法を考える。また、オフェンスを進めている中、どんな状況でスペースが生まれるかを理解することもできます。

コーチと選手がこれらの情報を共有する方法として、映像に矢印や線、あるいは文字によるコメントを書き込みながら一緒に見ていきます。練習でやってきたことができているかできていないかの確認、さらに修正点の共有をここでやっていきます。

シーズンの序盤は、選手たちが“気づく”ことに重点を置いていますが、その“気づく”機会を材料を提供してやれるのが、映像を使ったコーチングの利点です。

司会:書き込みはコーチだけが行うのでしょうか?

鈴木:きっかけとなる最初の書き込みはコーチが行い、それに対するリアクションは選手が書き込むこともあります。

次に、ディフェンス面に少し触れましょう。オフェンス同様、シーズン序盤はあまり多くの戦術を教えずに各人がそれぞれの持ち場で何をすべきかを考える(試合中であれば“感じる”)ことを重視しています。オフボールディフェンスの局面で、ボールマンが自分から離れた位置でプレーしている場合、どうすればよいか?(図1) 

図1

この段階では、「ボールマンが1対1で抜かれていない状況では極端にヘルプポジションに寄り過ぎない」という戦術は教えていません。選手は、自分でどうするか考える。結局、この選手のマークマンのところにボールが入ったが、ディフェンスの間合いを詰めていなかったために準備の悪い1対1となり、相手にたやすくシュートを打たれてしまった(図2)。

図2

映像を使って、このように重要なプレーの因果関係を教えていきました。映像を使うことで、言葉だけで説明するよりも、はるかに具体的なイメージとして理解できます。また、練習時には各局面での選手個々の課題がはっきりと浮かび上がらない傾向がありますが、映像を見ることで、それが明確になります。図3は、相手がボールをピックアップしてパスしようとしている時に、ディフェンダーの姿勢が悪く、準備が不十分であることを指摘した映像です。こうしたディフェンス時の対応1つ1つが、相手にアドバンテージを与えてしまう原因になる。そのことを教えた実例です。

クラブチームゆえ、練習は週3回、各2時間しかありません。練習で積み上げていく時間が十分に取れないなかで、このような映像を使ったフィードバックがかなり効果を上げ、3ヵ月後の同じチームとの対戦で勝利を収めることができました。私たちのチームは大会に向けて強く勝利を追求するような取り組みはしていないのですが、チームとしての課題を共有し、それをプレーに反映していく上で、映像の活用はたいへん価値が高いと感じています。

司会:3ヶ月後に同じ相手に勝った試合の映像を見ると、進歩の様子が明らかです。クローズアウトだけ見ても、相手の動きを予測して「ここに来そうだから先回りして待つ」といったプレーができているのがわかります。バスケットボールの指導者であれば、誰でも「すごい!」と声が出るような変化がありますね。タグ付けはコーチでなく選手たちにやらせているとのことですが、選手に作業させることのメリットはどんなとことに感じていますか?

鈴木:映像を見ながらタグ付けをする作業は、チームコンセプトを再認識することにつながります。そのコンセプトに沿ったプレーができているか、できていないか。できていないのはなぜか、と自ずから考えます。

司会:タグの種類を見ると、「成功」「失敗」「いいね!」なども見られます。プレーの評価を選手たち自身がやっているのですね。

鈴木:はい。ただし、評価が甘い場合などはコーチがフィードバックしています。

司会:それによって、コーチが「この部分はまだ理解できていないんだな」といった再認識にもつながるわけですね。世代的に、中学生年代の選手たちは映像の取扱いには慣れているとは思いますが、そのあたりはいかがですか?

鈴木:まったく抵抗ないようです。ただ、女子は丁寧に作業する傾向がありますが、男子は少しいい加減かな(笑)。

参加者から質問:映像を使ってプレーの改善点を理解させた後、実際のプレーに落とし込むための意識付けは、どのようにされていますか?

鈴木:これは個人差があり、すぐプレーに反映できる子もいれば、何度も同じ失敗を繰り返し、その都度、指摘しなければならない子もいます。対策としては、まず根気よく指導するということ。そして、チーム内で用いるバスケット用語の意味を、初期の段階で共有しておくことが需要だと思います。

司会:そのイメージ共有の部分で、タグ付け作業が効力を発揮しますね。

鈴木:はい、そうだと思います。

司会:本日の受講者は、対象年代が小学生から社会人まで幅広いのですが、例えば小学生のチームであっても、同じような映像活用はできるでしょうか?

鈴木:可能だと思います。付けるタグをシンプルにするとか、見る現象をシンプルにするとかすれば。バスケットボールの原理原則はどの年代も共通しているので、何回オフェンスして何回得点が決まったか、ターンオーバーは何回あったかといった自チームに関するデータを採集し、さらに映像でそれを確認・共有していくことは非常に価値があると思います。

参加者から質問:今後、育成年代でもリーグ戦形式の試合が増えてくると思います。映像分析はリーグ戦ではやはり利用価値はが高くなるでしょうか?

鈴木:はい、その通りだと思います。1試合戦って自チームの課題が明確になり、練習した成果を試すときに、同じ相手との対戦であれば非常に評価しやすいです。つまりPDCAサイクル、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)が回しやすくなります。

分析やスカウティングは、選手たちがコートで表現できるレベルで行ってこそ、意味があります。ものすごく細かく分析したとしても、それらが選手たちの処理できるレベルを超えていれば、情報過多でオーバーフローしてしまいます。ですから、その年代に合った情報処理のレベルを設定して、少しずつレベルアップしていけばよいのではないでしょうか。


「実践例から学ぶ映像分析の活用法」各回レポート

>>>【第1回】分析ツールを使った、選手による自チームの振り返りの実践と効果

>>>【第3回】ウインターカップ中のリアルタイムフィードバック

>>>【第4回】高校年代における映像を活用したスカウティング

>>>【第5回】練習の精度を高める映像によるリアルタイムフィードバックの活用方法


>>> 分析ツール「SPLYZA TEAMS」の詳細を見る

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