【オンラインセミナー・レポート】 大学トップレベルにおける“ライブタグ”での映像活用法 

公開:2021/09/07

更新:2021/09/06

講師:専修大学男子バスケットボール部 佐々木優一監督

9月4日からスタートしたオンラインセミナーシリーズ 実践例から学ぶ映像分析の活用法 Vol.2 の第1回目、「大学トップレベルにおける“ライブタグ”での映像活用法」の内容を要約してお伝えします。講師は専修大学男子バスケットボール部の佐々木優一監督、司会進行は株式会社SPLYZAのアナリスト・鈴木元気氏です。 


司会:今回のトピックスは「“ライブタグ”での映像活用法」となっておりますが、セミナーシリーズ全体のテーマである「バスケットボール指導における映像活用法」に沿って、普段、専修大学さんではどのように映像を活用しているか、そして、映像活用によって何か起こったのか、という点について幅広くお話をお聞きしたいと思っております。さっそく、講師の佐々木さんにご登場いただきます。

左が司会の鈴木氏、右が講師の佐々木氏

佐々木:皆さん、こんばんは。佐々木です。簡単に自己紹介させていただきます。2004年に専修大学を卒業後、大学職員として専修大学に就職しました。同時に男子バスケットボール部のアシスタントコーチとなり、約10年間、チームに携わっておりました。2014年監督に就任し、紆余曲折ありながら、現在に至ります。2018年、2019年と連続してインカレ決勝に駒を進めましたが、あと一歩及ばず準優勝という成績でした。その後も日本一を目指して、日々コートに立っているところです。

司会:決勝の相手は、それぞれ別のチームですね?

佐々木:2018年は東海大学さん、2019年は筑波大学さんです。

司会:優勝できなかったのは悔しかったとは思いますが、2年連続で決勝に進むのはたいへんな実績です。今回はそのようなトップチームの監督さんからお話をうかがえるのが、とても楽しみです。ここから本題に入っていきます。専修大学さんでは、普段、どのように映像を活用していらっしゃいますか?

選手に見てほしい映像を、どのように届けるか?

佐々木:2014年に監督になる前10年間のアシスタントコーチ時代、映像分析でチームの力になることを考えて、SPLYZAさんとは違う、他社さんの分析ソフトを用いて映像分析を始めました。2009~2010年頃からです。ソフトはHudl社の「スポーツコード」です。とても細かく分析できる優秀なソフトなのですが、1台のPCにこのソフトが入っていたので、私が1人で作業するしかない状況となり、試合が終わると夜遅くまで編集作業を行い、編集後の映像をDVDに保存して、翌朝までに監督のご自宅の郵便受けに届ける、というルーティンを行っていました。当時、PC操作はそれほど得意ではなかったので、編集作業はとても大変だったことを覚えています。

選手に映像を共有する場合は、YouTubeに限定公開でアップロードして見てもらうという形です。今振り返れば、これだけだと「ただ見るだけ」になってしまい、我々が伝えたいこと、どこにポイントを絞って見てほしいのか、といったことが十分に伝わっていませんでした。そこにもどかしさを感じながら作業していた時期でした。

司会:専修大学に入ってくる選手は、もともとバスケットボールに関する知識が豊富だったり、熱意も高い学生が多いのではないかと思います。それでも、「ここを見てほしい」という意図は伝わりづらかったですか?

佐々木:理解力の高い選手が多いので、ミーティングで映像を見ながら説明すれば、すんなり入っていく傾向はあります。しかしYouTubeのURLを伝えて選手任せにした場合、彼らが見たい部分しか見ない傾向があるし、試合映像はピリオドごとに区切ったとしても時間が長く、私たちが見てほしい部分を特定することが難しいというもどかしさがありました。

選手によってタイプも異なり、詳細に映像を見てしっかり準備しようする選手もいれば、分析的な部分にはあまり頼らず直感的にプレーしたい選手もいます。大学生の年齢になると自分のやり方が固まりつつある部分もあるので、あまり強制はしたくない、というこちらのスタンスもありました。

学生コーチに作業を任せることで、監督としての仕事に集中できる

司会:それがSPLYZA TEAMS導入前ですね。導入後は、どんな変化があったのでしょうか?

佐々木:2018年に縁あってSPLYZA社さんのお話を聞く機会がありました。アシスタントコーチから監督になり、自分自身が分析作業に時間が取れなくなってきた頃でもありました。分担作業が可能となるSPLYZA TEAMSに魅力を感じて、導入することに決めました。その年のインカレで、10数年ぶりに決勝進出できたのは、導入効果があったものと思っています。

SPLYZA TEAMSのいいところは、学生(生徒)に直接触ってもらって、作業してもらえる点だと思います。うちでは現在、マネジャーとは別に、学生コーチが4名います。体育系の大学ではないにもかかわらず、初めから指導者志向を持って入学してくる学生も増えて来て、そのような人材が確保できています。彼らが中心となって、映像編集とタグ付けを行っています。

映像関係の作業を学生コーチに任せることによって、私自身は試合に向けた戦略・準備に集中できるようになり、寝不足がなくなりました。アシスタントコーチから監督になった時、「こんなにも違うものか」と感じるほど、試合中に頭を使わなければならないことに気が付きました。試合はまさに生き物で、常時流れを把握していないと的確な指示ができません。頭をクリアにしておくことが必要です。私の睡眠時間が増えた分、学生コーチたちは夜中に頑張ってくれているわけですが、この分担ができたことは、とても助かりました。

先ほど、以前の映像活用では選手に伝えたいことが今一つうまく伝わらなかったという話をしました。SPLYZA TEAMSではタグ付け機能があるので、そのタグによってコーチ側の意図が選手に伝わりやすいという特徴があります。特定のタグが付いた映像だけを見るよう指示すればよいので、とても効率的です。選手にとっても、自分が見たい部分の抽出が手軽にできるので時間効率の良い活用ができます。例えば自分がつくマークマンだけの映像を見たいとか。

アプリさえ入れれば、各自の端末で見ることができるのも便利です。宿泊していたホテルでミーティングを行う際、その部屋に全員が同時に見れるモニターがない、ということがありました。全員にスマホを持参するように指示し、見てほしいタグを同時に見ながらミーティングを進めました。

言葉だけでは伝わらない部分が補完できる

司会:ホテルではミーティングできる部屋がなかったり、部屋はあってもモニターがなかったりします。1部屋に集まって苦労してPCをテレビにつないだり、あるいは窮屈な状態でPC画面を皆で覗き込んだり、といった光景がよく見られると思います。各自のスマホを使って、ミーティングがしっかりできたのは良かったですね。

今のお話でキーになっていた「タグ付け」について簡単に説明させていただきます。SPLYZA TEAMSの機能として、利用者が自分で決めた任意のキーワード、例えば「シュート」「2ポイント」「3ポイント」などを”タグ”として映像に貼り付けることができます。

本に付箋を貼るイメージです。このタグを目印にして、2ポイントのシーンだけを見る、3ポイントのシーンだけを見る、といった操作が可能になります。SPLYZA TEAMSの導入後、選手たちの映像閲覧率は上がりましたか?

佐々木:はい。よく見てくれるようになりました。コーチ側で、「これだけは絶対に見ておいてくれ」と指示したものは概ね見てくれていますし、それ以外も、タグで仕分けされていて各自が見たい映像を探しやすいので、よく見てくれるようになりました。

司会:それによって、チーム内にどんな変化がありましたか?

佐々木:選手に何かを伝える時、言葉を十分に吟味しなければならないのは当然ですが、その前提として、映像が共有されていることはとても重要だと思います。言葉だけでは伝わらない部分が、かなり補完できます。選手たちの理解度が高まるので、次の練習に進みやすくなり、その練習から得られる習熟度・完成度が、より高くなったのではないかと思います。

司会:映像活用のルーティンの実例をお話しいただけますでしょうか?

トーナメント時の映像活用例──ライブタグの効果

佐々木:はい。図1は、トーナメントでの活用例です。対戦相手の試合を、学生コーチがiPadで録画します。録画する時に、SPLYZA TEAMSのライブタグという機能を使います。録画をしながらリアルタイムでタグ付けをしていく機能です。ライブタグを使って、最低限の仕分けをします。例えば、オフェンスとディフェンスを分けて保存します。その後、学生コーチが帰宅してから、細かいタグ付け作業を行います。

図1

私の作業としては、翌朝、出来上がった映像を見ながら相手チームのフォーメーションを確認しつつ、各選手の特徴を書き出して、ミーティングで説明できるように準備をしていきます。大会会場への移動中、バスの中で映像確認してもらうために、メンバーにはLINEで情報伝達します。そして試合直前のミーティングで、作戦ボードを使いながら相手チームへの対応を最終確認します。この段階で選手たちはすでに映像を見ているので、ミーティングの精度が高まります。以前は、この最終ミーティング時に初めて相手チームの情報が入ってくるという状況でしたから、違いは大きいです。

司会:今、ライブタグのお話が出ました。これはSPLYZA TEAMSの便利な機能の1つです。録画をしているのとは別の端末を使い、録画中の動画に対してタグ付けをしていくことができます。今佐々木さんがおっしゃったように、オフェンスとディフェンスをそれぞれタグ付けしておくだけでも、撮影後の映像編集作業が効率的になります。相手チームのスカウティングに関して、作業手順をもう少し具体的に教えてください。

佐々木:図2は、私と学生コーチがどのような手順でスカウティング映像を編集していくか、その流れを示したものです。第1ピリオドでは、どのコールがどのプレーであるか、まだ判別できていないので、「セットオフェンス1」などの仮の名称をつけてライブタグでタグ付けします。その横で、サポートスタッフが実際のコール名をメモします。第2ピリオド以降は、実際のコール名でタグ付けしていきます。こうすることで、試合後に行うタグ付けの数量が減り、楽になります。選手が交代した時は選手にタグ付けをして、特定の選手の映像をまとめて見ることができるようにします。これによって、自分がマッチアップする選手だけを見たい、という要望が出た場合に映像選択が容易になります。私自身もその試合を見ている場合は、試合後に全体を振り返って、タグ付けの要素を学生コーチとともに再確認します。

図2

ただ映像を見るだけでなく、その先を考え伝える

司会:かなり役割分担が進んでいるので、ヘッドコーチとしては助かっているのではないか、そんな印象です。

佐々木:SPLYZA TEAMS導入前と比べると、私自身の作業量が本当に減りました。

司会:映像編集の効率が高まると、ただ映像を見るだけでなく「このプレーに対してどう対応すべきか」という本来やらなければならない部分に時間とエネルギーを費やすことができるようになりますね。

佐々木:本当におっしゃる通りで、以前は、相手のプレーを知るだけで満足してしまっていて、選手に一番伝えなければならない「どのように対応するか」が手薄になっていました。私自身に余裕ができたことで、相手のプレーに対してどう守ろうとか、どう動こうとか、その先の戦略まで考え、伝えることができるようになりました。

司会:SPLYZA TEAMSの導入が、結果的にチームの競技力向上に結びついていることを示すもので、私たちとしてはとてもうれしいお話です。

佐々木:学生コーチに多くを任せると、責任も伴うので、彼らのやる気が高まります。自分たちもしっかりチームに携わっている、勝利に貢献できているという気持ちになり、好循環が生まれていると思います。

練習試合、普段の練習での活用

司会:公式戦以外ではどのように活用していますか?

佐々木:練習試合では、時期によって分析要素を変化させています。図3は今年の4月、図4は6月の分析画面です。両方とも、同じチームとの対戦です。4月はシーズンが始まったばかりで、細かいところに意識を持たせずに、チームとして今シーズンやっていくべき大きな目標にフォーカスしたタグ付けをしています。この試合では、特にリバウンドとセットオフェンスにフォーカスしています。一方6月では、公式戦がかなり近づいてきているので、ポジショニング、ローテーションの成否といった細かい部分にフォーカスしたタグ付けをしています。図5がその流れを説明したものです。

図3
図4
図5

司会:普段の練習ではどう使っていますか?

佐々木:学生コーチたちが撮影し、ライブタグを付けています。図6が実例画面です。これはハーフコートでの4対4の練習です。選手のライブタグを付けています。選手たちは練習後、自分の名前をタップすれば、自分がコートにいる時間帯だけのプレーを選択的に見ることができます。これは選手たちも実際によく活用していて、練習直後にスマホを見ながら、「あの時うまくいかなかったけどどうしてだろう?」といった分析的な振り返りに役立っています。学生コーチが自主的にやり始めたことですが、とても有効だと思います。今後実現したいこととしては、コートサイドにモニターを置いて、修正したいプレーがあった場合、いったん集合して、その映像をすぐに見られる環境があるといいな、と思っています。

図6

司会:即時フィードバックできれば選手にも響きますし、記憶にも残りやすいですね。iPadとテレビをつなぐことができれば、それほど難しくないと思います。

佐々木:コロナの影響で練習時間の制限があり、そうした新しいチャレンジは今現在できていないのですが、映像情報の活用法はまだまだ可能性があると思っています。例えばゾーンディフェンスで前線にいる選手は後ろが見えていないので、どうして今突破されたのか、全体像が見えていません。映像を共有できていれば、ディフェンス間のコミュニケーションをとりやすくなります。

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