公開:2021/09/14
更新:2021/09/16
講師:千葉経済大学附属高校女子バスケットボール部 池端直樹監督、千葉俊一アシスタントコーチ
オンラインセミナーシリーズ 実践例から学ぶ映像分析の活用法 Vol.2 の第2回目、「映像とスタッツレポートを使った分析の実践」の内容を要約してお伝えします。講師は千葉経済大学附属高校女子バスケットボール部 池端直樹監督、千葉俊一アシスタントコーチのお二人。司会進行は株式会社SPLYZAのアナリスト・鈴木元気氏です。
司会:本日の講師は、千葉経済大学附属高校女子バスケットボール部の池端直樹監督、千葉俊一アシスタントコーチのお二人です。まずは池端監督から、現在のチーム状況について簡単にご紹介いただきます。コロナの影響で十分な活動ができていないのではないでしょうか。
池端:学校は9月1日から始まっていますが、部活は制限がかかった状態で、平日1時間半程度しか練習で来ていない状態です。夏休み中も練習試合をいろいろと計画していましたが、県境をまたがる移動を自粛するよう通達があり、ほとんど実施できませんでした。このような制約の中で、ウインターカップに向けて、できる範囲の準備を進めているところです。
ダブルヘッダー時の映像活用法
司会:本題に入ります。千葉経済大学附属高校さんでの映像活用の概要をうかがいたいと思います。普段、何を撮影して、どのように活用しているのでしょうか?
千葉:基本的に練習試合と公式戦の映像はすべて撮影しています。練習試合は選手個々が自分の出場した試合を各自のスマホで振り返り、公式戦は撮影後タグ付けを行い、編集された状態で選手たちにフィードバックしています。
池端:県大会では1日に2試合行う場合もあります。準々決勝と準決勝、あるいは準決勝と決勝を同日に行うケースです。このようにタイトなスケジュールの場合、対戦相手の分析をいかに早く効率的に行うか、が以前からの課題でした。SPLYZA TEAMSを導入することで、そのあたりの解決が図れることを期待し、現在具体的に取り組んでいるところです。
司会:先週のセミナーで専修大学さんがライブタグを活用しているというお話がありました。千葉経済大学附属高校さんでも、このライブタグをお使いいただいていると思います。ライブタグの機能を使って編集した映像を、生徒さんたちに、どのようにフィードバックしていますか?
千葉:最もタイトな場合、試合間が約1時間半です。この時間すべてをスカウティングのフィードバックに充てるわけにもいかないので、使える時間は本当に限られています。ライブタグ機能を使って最低限のタグ付けをして、1ピリごとにアップロードしていきます。2台のiPadを使い、1台目で撮影、2台目で同時にタグ付け、そしてピリオド終了ごとに即アップロードしていく流れです。コロナ下では試合会場に入れる人数も限られることから、学校で待機している生徒がアップロードされた映像に対して、さらに細かいタグ付けを行っていきます。それをもとに、即スタッツを入力します。すると、図1に示すような対戦相手チームのレポートが生成されるので、これを各自のスマホで見ながらミーティングを行う、といった流れです。
全体ミーティングでこうした情報を共有した後で、各自がマッチアップする選手のタグを選択して再生し、次の試合に備えます。
チーム一体感の醸成に役立つ
司会:そこまでの作業を、試合間のインターバルタイムでやったのですか? それは大変ですね。話を整理させてください。試合会場にいる生徒さんが撮影をし、ライブタグを付け、学校で待機する生徒さんがスタッツ入力して試合会場にいるメンバーに短時間でフィードバックする、このような流れですか?
千葉:はい。作業する生徒たちを急かしてしまい、なおかつ精度としては粗い部分もありますが、何とか完成させている状況です。
池端:上級生と下級生を組ませてグループを作り、グループごとに練習試合の撮影・タグ付け・スタッツ入力等の作業を行う訓練は続けてきました。部員数が多いチームですので、各自が役割を持ってチームに貢献していく、そして試合会場に入れなくても出場しているメンバーと同じ気持ちで戦う、というモチベーションを喚起できているのではないかと思います。映像分析して活用するだけでなく、チームとしての一体感を醸成することにも役立つ。そうした教育的な観点でも有効であると、考えています。
新しいミーティングの形
司会:コロナ下の特殊な環境で、全員が会場に行って応援できない中、学校で待機するメンバーも試合に貢献できる道筋を作ってあげられたことは、素晴らしいですね。コーチ陣としては、編集された映像をどのように活用していますか?
池端:誰が誰にマッチアップするか。ここに多くの神経を使いますので、相手選手の特徴を把握し、マッチアップする選手を決める上で、映像やスタッツはとても重要な情報であると考えています。SPLYZA TEAMSのような映像分析ソフトが世に出てくるずっと前から、4人ぐらいの生徒をスコア付けに配置して、同種の情報を収集していました。映像情報が活用できるようになって、より効率的に相手の分析ができるようになったのを実感しているところです。
司会:先ほど、選手とのミーティング時にはスタッツレポートを共有しながら話を進めるというお話がありました。その様子をもう少し詳しくお聞かせいただけますか。
千葉:ミーティングにスマホを持参し、各自が画面を見ながら監督の話を聞く。これは今の時代ならではの、新しい様式だと思います。グループLINEにレポートを投稿して、生徒はそれを見ながらミーティングに参加します。相手のプレーの特徴や各自のマッチアップ相手を共有した後で、ミーティング終了後、各自マッチアップする選手の映像をもう一度見るという流れです。タグ付けによって整理ができているので、マッチアップ相手の映像を短時間で繰り返し見ることができます。
池端:これまで、学校現場でスマホを使うことは厳しく制限されてきました。しかしコロナの影響もありICT教育にも、にわかに注目が集まっています。意味のある活用法については、私たち教員も認識しなければならないと思いますし、生徒たちのICTへの適応力を感心しながら見ています。
確率を優位にするためのデータ活用
司会:そのようにして実践してきた映像やデータ活用が、試合で活かされた部分は?
池端:相手への対応が先行してしまって、本来行わなければならない自分たちのプレーが疎かになってしまうという危険性もあります。だから情報はよく整理をしてフィードバックすべきであると常に思っていますが、情報が不足していた以前と比べれば、相手への対応力は上がってきたと思います。準備が試合に反映されているという実感があります。
司会:情報を与えすぎてもよくない、という点は、多くの指導者が指摘されます。情報の処理能力には個人差があるし、相手が予想とは異なる動きをしてきた時に対応できないことにもつながります。スカウティングの際、特にここを注意して見ている、という点があれば教えてください。ネタバレにならない程度で(笑)。
池端:バスケットボールは確率のせめぎ合いだと思っています。自分たちにとって確率の良い攻撃はどうすればできるか、反対に、相手にはできるだけ確率の悪いシュートを打たせたい。そういう視点で見ています。
プレーを深掘りできたオンラインミーティング
司会:コロナの影響で集まって練習ができない時期、オンラインで映像を活用したミーティングを行ったそうですね。
千葉:練習試合をいくつかピックアップして、グループ単位で、「このゲームの良かった点、悪かった点」「このゲームのポイントはどこなのか」等のテーマでプレゼン、ディスカッションをさせました。生徒たちのディスカッションが終わってから、監督からコメントします。普段なかなか時間をとって話せない、プレーに対する深掘りがその時できました。プレゼンする側の話す力、伝える力、表現する力を養う観点からも、役立ったと思います。自粛期間中に週1回、計6回これを行いました。回を重ねるごとに内容も濃くなっていきました。
司会:バスケットボールに対する理解が深まるのと同時に、選手間で、お互いがどう思っているかを確認することができる、よい機会になりますね。
池端:「ハイピックに対して3線のカバーが遅い」という議論に対して、「それ以前に、前線の2人のディフェンスが対処すべきじゃなかったか?」と私がコメントしました。そんなやり取りがあったのですが、3線のカバーに頼らずにもっと積極的に守らなければならなかった、そうした状況を、映像を根拠にして客観的に理解するきっかけになったと思います。現在、練習試合が行えていない状況ですが、試合と、映像での振り返りをこのように繰り返し行っていくことで、プレーの質は上がっていくのではないかと感じています。
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