【オンラインセミナー・レポート】 中学生年代における映像の活用とその効果 

公開:2021/09/27

講師:実践学園中学校男子バスケットボール部 森 圭司監督

オンラインセミナーシリーズ 実践例から学ぶ映像分析の活用法 Vol.2 の第3回目(最終回、9月18日開催)、「中学生年代における映像の活用とその効果」の内容を要約してお伝えします。講師は実践学園中学校男子バスケットボール部の森 圭司監督。司会進行は株式会社SPLYZAのアナリスト・鈴木元気氏です。 


スカウティング、モデリング、リフレクション──3要素での映像活用

講師の森氏(実践学園中学校男子バスケットボール部監督)。

司会:講師の森先生にご登壇いただきます。

森:森です。よろしくお願いします。東京都の実践学園中学校で教員をやりながらバスケットボール部の指導をしています。また、3人制プロバスケットボールチームTOKYO DIMEでも、スクールのお手伝いをさせていただいております。

司会:実践学園さんには、バスケットボール界では比較的早くからSPLYZA TEAMSを導入していただきました。3年ほど前からご利用いただいています。実践学園さんは部活とは別にスクールの運営など、先駆者的に、いろいろな試みをされてきた印象があります。そのあたりを含めて、本日は映像の活用に焦点を当ててお話をうかがっていきたいと思います。普段どのように映像を活用されているか、その概要についてご説明いただけますでしょうか。

森:スライド1に示した3つの要素、「スカウティング」「モデリング」「リフレクション」に分けて、私たちの取り組みを紹介してまいります。

スライド1

まず1つめの要素、スカウティングから。SPLYZA TEAMSのタグ付け機能を利用して、オフェンスとディフェンスを分類します。相手オフェンスは選手別にもタグ付けします。中学生年代では自分の得意なプレーを繰り返す傾向が強いので、相手の中心選手がどんなプレーを得意としているのか、がわかるように映像分析します。これに加え、セットオフェンスがあるチームであれば、それもタグ付けします。ただし、スカウティング情報に頼りすぎないようにはしています。感覚的にプレーする部分も大切にしながら、あくまでも一つのデータとして位置づけています。

2つめのモデリングは、見本を見せるということです。NBAやBリーグの選手のプレー。特に、中学生と身長があまり違わない富樫勇樹選手のプレーは、教材としてよく使わせていただきます。最近は、河村勇輝選手もよく見せています。次に、練習の予習。体育館が狭く、限られたスペースで効率的に練習しなければならないので、事前に予習をするために映像を共有します。もう一つは戦術の共有です。下級生にチームのセットオフェンスを説明したり、戦術的な理解を深める意味で映像を使ってレクチャーします。

3つめの要素はリフレクション。これは、省察(振り返り)の活動ですが、映像活用としては、これがメインだと考えています。スキル練習では「できる」と「わかる」は違う、というところに注目し、なぜそのスキルが正しいのか、必要なのか、を正確に理解して自分のものとして定着させるために映像を使っています。対人練習に関しては映像をGoogleのアンケートフォームに貼り付けて、各々に問いかけをしながらプレーの理解を深める仕組みを作っています。あと、シュートフォームのチェックにも映像を使いますが、これはオールコートが使える機会、あるいは練習時間が2~3時間とれるといった余裕がある時に撮影し、専用アプリのHomeCourtを使って軌道などを確認しています。

司会:スカウティング、モデリング、リフレクションの3つの要素でそれぞれ映像を活用しているとのことですが、生徒さんの反応はいかがですか? 入学当初は難しくても、学年を重ねるごとに慣れていくのでしょうか。

森:スカウティングに関しては、上級生が試合前に分析して対策を立てる姿を見ていますので、自然にやり方を学習できていると思います。モデリングは、「見ておかないと練習でつまづいてしまう」という思いがあるのと、動画を参照することに関して抵抗がない世代でもあるので、割と抵抗なく受け入れてくれていると思います。リフレクションは、練習と振り返りがセットになってレベルアップすることを普段から口を酸っぱくして言っているので、その重要性はかなり浸透していると思います。選手たちは、映像がアップロードされるのを少なからず楽しみにしてくれています。

司会:年齢の若いうちから振り返りを習慣化していると、どこかのタイミングで一気に開花するということもあるのではないでしょうか。

森:はい、それも期待して取り組んでいます。中学・高校が併設された学校で、体育館は高校が優先して使うという事情もあり、練習場所の確保に苦労しているチームです。その制約環境を補うものが必要である、との思いもありますし、教育機関の中で、学びの手段としてバスケットボールを活用する考え方をベースにリフレクションを重視しています。

バスケットを通じて学力を伸ばす

司会: 映像を活用することで、生徒さんたちにどのような効果がありましたか?

森:私たちは「成長していく、というスキルを身につける」ことを、一つの教育目標にしています。これをサポートする意味で、映像活用は役立っていると思います。

スライド2

スライド2に示したのは経験学習のモデルです。試合や練習で具体的な経験をした後の内省的観察が最も大事なフェーズで、先ほど言った振り返りの部分です。振り返りの過程で、「この時はこうすればよい」とった行動のセオリー化が行われ、次のフェーズで能動的にチャレンジしていく。私たちのバスケットボール指導もこうしたサイクルで展開していけるよう、5人いるコーチたちとも考え方を共有しています。

練習したことが再現できるというよりは、自分で考えてアクションを起こせる選手を育成していきたい、バスケットを通じて学力を伸ばせれば、と考えています。ここで言う学力とは、どちらかと言うと目に見えない非認知スキルを指していて、例えば「自分がどれくらい出来るようになっているかを自己モニタリングして、コントロールする力」といったものです。そのための取り組みとして体験と省察活動を繰り返しを行っています。

司会:自己モニタリングからの成長サイクルに、映像をうまく組み込んでいるわけですね。

森:次のスライド3は、教育に求められる要素の移り変わりを、簡潔に示したものです。21世紀に学ぶ子どもたちには、唯一絶対の正解というよりも、情報編集力に基づいた納得解(多くの人が納得できる解答)をひねり出す能力が問われています。ジグソーパズル型でなくレゴ型。この能力を磨く上で、状況が目まぐるしく変化し、常に創造的な思考を求められるバスケットボールやサッカーは、格好の教材ではないかと考えていて、これは生徒たちや保護者の方々にも常々話していることです。

スライド3

リフレクションの実際

司会:映像を活用したリフレクションの実例をご用意いただいているようですが。

森:はい。私たちのチームでは、対人練習は基本的にすべて録画してYouTubeに投稿した上で、先ほどお話ししたGoogleアンケートフォームを利用して振り返りを行います。スライド4は4対4、5対5のスクリメージです。

スライド4

このような映像を共有して、オフェンス面では相手を崩せているか、ディフェンス面では相手を苦しめることができているか、オフェンス、ディフェンス両方の視点でリバウンドに絡めているか。まずはこの3つの大状況からフレームワークをし、中学生が身につけなければならないフラットトライアングル等のポジショニングについて、私とコーチの書き込みや外部素材(海外プロリーグの映像や「スラムダンク」など)からの引用などもまじえながら、リフレクション用のシートを作り上げていきます。

スライド5

スライド5は、そうした展開の一例です。コーチの1人がバルセロナの強烈なディフェンスを見つけてきてくれました(※編集部注:実際の画像は著作権の関係上、掲載できないのでモザイク処理しています)。このような形で各自に意見を書かせ、グループディスカッションに展開する、といったことをしています。

スカウティング情報は自分たちで考えさせる材料

司会:スカウティングについて。先ほども話が出ておりましたが、中学生年代の場合、スカウティング情報をあまり与えすぎてしまうとよくないという考え方があります。相手のことを気にする前にまずは自分たちのプレーをすることが大切、とおっしゃる指導者も少なくないです。

森:相手に対して、自分たちがどのようにプレーすれば優位に立てるか。これについて、選手たち自身が考えて答えを出すプロセスは、とても重要だと考えています。そのためにスカウティング情報を使う。これに尽きると思います。

司会:日頃のリフレクションにおいて、選手自身が考える習慣を積み重ねていることが、スカウティングにも活かされているのではないでしょうか。そのような積み重ねがない状態で、相手チームに関する情報を大量に与えても、頭がパンクしておそらく処理しきれないと思います。

森圭司先生の指導理念や実践学園中学校の日々の取り組みは、「森 圭司 / コーチ note」に掲載されています。こちらもぜひチェックしてみてください!


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