公開:2021/03/17
更新:2021/04/09
講師:東京成徳大学高校女子バスケットボール部 遠香周平監督、小林康裕コーチ
2021年2月27日より全5回シリーズで行われたオンラインセミナー「実践例から学ぶ映像分析の活用法」の内容から、一部を要約してご紹介します。第3回は、3月13日に「ウインターカップ中のリアルタイムフィードバック」というテーマで開講されました。昨年末のウインターカップで初の決勝進出を果たし、準優勝という成績を収めた東京成徳大学高校女子バスケットボール部の例です。
東京成徳大学高校では昨年からSPLYZA TEAMS(スプライザ・チームス)を導入し、ウインターカップ中にもこれを積極活用して対戦相手の情報収集と対策を進めました。選手自身が撮影やタグ付け作業、さらに分析のプレゼンを行うことで、「自分たちがやるべきバスケットへの理解を深める」意味で大きな価値がある、と監督・コーチは語ります。
司会:本日のテーマは「ウインターカップ中のリアルタイムフィードバック」です。東京成徳さんは今回準優勝という好成績を収められたこともあり、大会中に、どのように映像分析を活用したのか、セミナー参加者の方々も大きな関心があると思います。
遠香:ウインターカップ中には、対戦するであろうチームの試合を撮影し、ミーティングでその情報をフィードバックしました。
その前段として、大会に至るまでの期間でSPLYZA TEAMSをどのように利用していったか、というお話から始めます。このアプリを導入して以来、週末の練習試合を撮影し、タグ付け、そしてプレゼンというルーティンを組みました。すべての作業は、選手たち自身が行います。プレゼンは、試合が行われた翌週火曜日のミーティング時に、試合で気になった場面を取り上げ、その課題を解決するための練習提案のところまで、選手数名がグループ単位で行う。ローテーションを組んで、全員が順番に行います。
このルーティンを繰り返し行うことで得られた最大の効果は、「自分たちがやるべきバスケットへの理解を深めることができた」ということです。従来は指導者側が何度も言って聞かせて、という作業でやってきたことが、選手側の能動的作業によって、急速に効率が高まったことを実感しています。
司会:そうしたバックグラウンドがあった上で、ウインターカップに臨んだわけですね。
遠香:はい。ウインターカップは1回戦と2回戦に関しては事前に対戦相手がわかっていたので、事前に、相手の全ポゼッションを分析、それに対して自分たちのバスケットボールでどう対応していくか、十分検討することができました。1回戦の精華女子さん(福岡)とは約1年前に対戦の機会があり、そのときは競った試合でしたが、今回のウインターカップでは事前の準備も奏功して、大差で勝つことができました(117-63)。その準備の過程で、選手たちの不安がだんだんなくなってきて、直前には「対戦が楽しみ」という雰囲気になっていきました。
司会:準優勝という結果を残す上で、その勝利が大きなターニングポイントになったのではないでしょうか?
遠香:はい、その通りです。選手たちの大きな自信になったと思います。
司会:相手の情報が十分でない3回戦以降は、どのように進めていったのでしょうか。
遠香:大会中は、対戦する可能性のあるチームの試合は、自チームの試合とは別コートで同時並行して行われています。メンバー外の選手がこれを撮影し、即タグ付けを行って、ミーティングで共有すべき映像の準備をします。大会中は休養も重視しなければならないので、次の試合に臨むためのミーティングは、できるだけ短時間で済ませる必要があります。そのため、タグ付けによって見るべき映像を事前に整理できていたのは、とても有効でした。また、チーム一丸となって勝利を目指す意味で、メンバー外の選手たちが撮影・タグ付け(※)作業を行って全員で準備するという意識が、非常に高まりました。
※タグ付けとは、映像の中で特定のプレーに印をつけ、後で分類して見やすくする作業。例えば「オフェンススタート」のタグを付けていくことで、1試合を通してのオフェンス機会を全部まとめて分析することができる。
遠香:3回戦の相手は県立小林さん(宮崎)。このチームはダブルエースがいて、一方は積極的にオフェンスリバウンドに絡んでくる、もう一方は1対1を頻繁に仕掛けてくる、という特徴があります。これらに対して、自分たちがどうアジャストするか、これを短時間で話し合いました。結果的に、この2人をかなり抑えることができたと思います。(97-71で勝利)
司会:ボックススコアを見ると、別の選手に得点を取られる傾向もあったようですが、狙いどおり、ダブルエースを抑えることはできていますね。次の準々決勝は、安城学園(愛知)との対戦。かなりの接戦でした。
遠香:相手エースの3Pを抑えることが課題でした。打たれたとしてもハンズアップして対抗することを徹底し、結果、シュートの確率を抑えることができました。(96-94で勝利)
司会:勝ち上がっていくにしたがい、疲れも蓄積していったと思いますが。
遠香:かなり疲れていました。ミーティングでは、短い時間でポイントとなる映像を見て、次の札幌山の手さん(北海道)との準決勝に臨みました。ここは、やはりダブルエースを擁するチーム。4番のインサイド攻撃と14番のドリブルをどう抑えるか、が課題でした。それまでの映像分析経験により、このような相手に対していかに対応するか、という答えを比較的容易に導き出すことができ、結果、4番から14番へのパスをかなり阻止することができました。(96-92で勝利)
司会:連戦で選手たちは身体的に疲れていて、なおかつ頭もパンク、という状態にはなりませんでしたか?
遠香:情報量が多い中でどうアジャストしていくか。これを日々の練習の中でかなりこなしてきました。その成果が出たと思います。私たち指導者側も、大きな手応えを感じた部分です。
司会:プロチームであれば専門のアナリストがやっている作業を、選手自身がやっていることでの学びと成長がある。
遠香:SPLYZA TEAMSの使い方を学び、選手自身にプレゼンをやらせていく中で、選手たちの書き込みも的確になっていきました。選手からの提案を採用し、「じゃあ、それをやってみようか」という形で練習に落とし込むこともありました。自らアウトプットすることで知識が深まる、またモチベショーンアップにもつながる、という好循環を促すことができたと思います。
参加者から質問:映像分析を小中学生のチームで採用するとしたら、どのような使い方が有効でしょうか?
遠香:1つは、オフボールの動きを理解させる手段として使えると思います。バスケットボールはボールを持っていない時間が長く、その局面で何をすべきか、を理解させるのに映像はとても有効です。単純にスペーシングでもよいです。バスケットへの理解が深まることで、プレーすることが面白くなります。
▼「実践例から学ぶ映像分析の活用法」各回レポート
>>>【第1回】分析ツールを使った、選手による自チームの振り返りの実践と効果
>>>【第4回】 高校年代における映像を活用したスカウティング
>>>【第5回】練習の精度を高める映像によるリアルタイムフィードバックの活用方法