【特集:タイムアウト】『育成』と『勝利』の両面から考える

公開:2021/12/17

更新:2022/01/21

名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15 末広朋也HC

U15年代の指導においては、目の前の結果ではなく選手の成長、次のカテゴリーに繋げる指導も重要である。しかし、バスケットボールというゲームに取り組むからには、勝利を目指すことは必要不可欠。名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15でHCを務める末広朋也コーチは、この「育成」と「勝利」の両面からタイムアウトを考える必要があると語ってくれた。

末広コーチ(以下:末):まず前提として、タイムアウトと選手交代は、試合中にコーチだけが使うことのできる特権であるということがあります。だからこそ、その使い方や活用方法を常に探求する必要がありますし、自分自身も答えのない問いを解き続けているような気持ちで模索し続けています。

↑タイムアウト中に指示を送る末広朋也HC(写真提供:名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)

「勝つ方向に寄せる試合」と「育成に寄せる試合」のバランス

末:U15年代の指導をしていて思うことは、試合の目的が「勝つ方向に寄せる試合」なのか「育成に寄せる試合」なのかで、タイムアウトの使い方も変わってくるということです。

―具体的に勝つ方向に寄せる試合と育成に寄せる試合の違いは何でしょうか?

末:勝つことで進めるステージが、さらに選手の成長や経験に有効であると思える試合が「勝つ方向に寄せる試合」です。練習試合などは、もちろん負けて良い試合というわけではありませんが、試合の中でいろんな経験をするということも含めて「育成に寄せた試合」という風にとらえています。ただし、主役はあくまで選手なので、「このゲームをどうしたいか」ということを選手と共有しておくことが重要だと思っています。どの選手も勝ちたいですし、指導者としても勝たせてあげたいと思っていますので、どの試合も「勝つことを前提」にしながら、その試合の位置づけや意味を選手と事前に共有しておくということが重要だと考えています。なので、ゲームに入ってから「これは勝つ試合」とか「今日は育成の試合」ということはなく、事前に選手と共有する中でどういうテーマや方向性で試合に臨むかを事前に決めています。

選手のためにタイムアウトを取らないという選択肢もある

―「育成」という観点から、タイムアウトの使い方で意識されていることはありますか?

末:苦しい場面や流れが悪い場面で、常に指導者が手助けする環境をつくることが選手の成長を妨げることもあります。苦しい状況やうまく行っていない状況でも、自分たちで解決できる、問題点に気付けるということも重要なので、あえてタイムアウトを取らないという選択肢も持っています。だた、コーチは試合の流れや全体像を見ていますが、選手はマッチアップやボールを中心に見ていることが多いので、なかなか全体像を把握することはできません。そこで、選手に「試合の流れを見ろ」というのは難しいことだと思います。その中で、選手が「タイムアウト取らせてください」ということは難しいことですし、全体像を把握できるコーチがタイムアウトを使える特権を持っていますので、こちらがあえてその特権を放棄してタイムアウトを取らないという判断をした時には、必ずフィードバックするということをセットにしています。選手の成長を促すためには、こちらが起こした行動の意図や考え方を、選手に伝えるまではコーチの仕事だと考えています。

―タイムアウトを取らないという発想は意外でした。

末:本当は試合中にタイムアウトを取って、みんなで同じ画を共有することで、そこがスムーズに行ったかもしれない局面で、その時に何が必要だったかを考えることを、キャプテン中心に選手たちに課していくというイメージです。フィードバックするときは、「あそこで点差を縮められた時に何が必要だったと思う?」とか、「あそこで点差を広げることできたのになんで広げられなかったの?」という感じですね。

―あえてそういう経験をさせて、考えさせるためにタイムアウトを取らないということですね。

末:これは、相手が強かろうが弱かろうが起こりうることです。例えば、実力的には30点差付けて勝てるチームに、10点差しか付けることができなかったら、私からすると負けゲームです。最後の勝敗だけではなく、相手チームとの力関係から考えて本来付けるべき点差が付けられないというのは、チームの弱さです。そうしたことも貴重な経験になると思っていますので、そうした試合では選手に考えさせるということを特に課すようにしています。 全体像としては点差ですが、ゲームの局面局面では点差を離せるところがあります。試合の展開の中で、選手たち自身で解決できる、自主性をもってアイデアを出せるチームが理想で強いチームであると思っています。

―コーチの特権であるタイムアウトを使わなくても、選手たちが自分で解決できるというのが理想ということですね。

末:まさしくその通りです。私とは違う指導者の下でプレーしたとしても、そのチームを勝利に導ける、リーダーシップを発揮できる選手になって欲しいと願っているので、そのために自分で考えて解決する力を身に付けさせたいと考えています。

↑普段の練習でも積極的に選手同士がコミュニケーションを取っている(2020年12月撮影)

あなたの悩みや疑問に、経験豊富な指導者が答えます。
回答は、当サイト内で順次公開。 皆様からのご質問をお待ちしております。
(質問者が中高生の場合は、指導者または保護者のアカウントからご質問を送信してください)