【特集:タイムアウト】『育成』と『勝利』の両面から考える

公開:2021/12/17

更新:2022/01/21

「育成」を意識して取るタイムアウトとは?

末:ここまでは、「育成」という観点からタイムアウトを取らないという選択肢もあるという話をしてきましたが、「育成」を意識してタイムアウトを取るということもあります。それは、選手同士で話し合う場を設けるという意図で取るタイムアウトです。1分間のうち、最初はコーチが入らずに選手だけで話をさせる。そこで、試合の流れや相手のプレーを自分たちで共有させる時間をつくり、次のプレーを考えるきっかけを作ります。タイムアウト後のプレーが改善されていれば褒める、改善されていなければその点を指摘する。そうしたフィードバックをする機会も作ることが大切です。これは、タイムアウトに限らず、クォーター間やハーフタイムでも同様に選手での対話を重視させて、指導者と選手との考え方の違いやあっている点も確認することができます。

勝ちに近づけるためにタイムアウトを取る5つの意図

末:勝ちに近づくためのタイムアウトとしては、5つの意図があると考えています。

1.流れを断ち切る

2.ゲームプランを立て直す

3.自チームのゲームスタイルの確認

4.選手の負担軽減、休憩

5.試合終盤の競っている場面

1つの流れを断ち切るについては、目に見えなくて具体的なものではないですが、私は、こちらが良いディフェンスをしているのに点を取られている、良いオフェンスをしているのに得点が伸びない、という時に取ることが多いです。基本的にはこちらの準備してきたことがうまくできている状況ですので、出来ていることはしっかり確認し、「大丈夫だ、継続していこう」ということを伝えることを大切にしています。また、ロングスリーやダンクシュートなどスペシャルなシュートが決まって、会場も含めて相手の流れになりそうな場面でも取ることもあります。

2つ目については、事前のゲームプラン通りに試合が進められていない、相手がアジャストしてきて、想定外の対応をされて修正が必要な場合です。1人の選手のところでやられているなら選手交代で対応しますが、ゲームプランの変更や上乗せといった、チームとして1秒でも早く新しいビジョンの共有が必要な場合にはタイムアウトを取る必要があると考えています。

3つ目と4つ目は、U15年代に特に起きる状況で、この年代の試合のスケジュールとして、1日に2試合を、何日も連続して行うというタフなスケジュールをこなすことがよくあります。その中で、選手達は一生懸命にプレーしているつもりでも、実際のパフォーマンスが伴ってこないことがよくあります。その場合、選手達自身でプレーの強度をあげることは難しく、外部から指摘をいれることで気づけることがあります。もちろん、自分で自分のコンディションを把握するよう考えさせるのですが、成長期の選手達には、負荷の高い要求だったりするため、タイムアウトをとってコントロールすることもあります。

最後の5つ目は、終盤のスペシャルプレーの指示。大きくこの5つの意図でタイムアウトを取ることがあります。

(写真提供:名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)

タイムアウトは答えのない問題

末:これまでの指導経験の中で、まったく同じパターンの試合は経験したことがありません。毎試合、展開も違えば選手の調子も違うので、その試合ごとに臨機応変に対応していく必要があります。だからこそ試合の流れを読むということは深くて、探求し続けること、終わりがないことなのだと思います。試合の流れを読むために、もちろん試合の場を経験することは大切ですが、それ以上に事前にしっかりと準備して試合に臨むということが必要です。タイムアウトの取り方や使い方は、試合を経験することでブラッシュアップされていくと思いますが、ただ試合を経験するのと、事前にプランを立てて準備して臨むのとでは得られるものが格段に違います。様々な想定、準備をして試合に臨み、それに対してフィードバック、振り返りをしていくことで、コーチ自身の成長にも繋がります。

私は、指導の軸を試合の勝ち負けではなく、選手の成長、育成という部分に置いています。そういう意味で、試合の結果だけがすべてではありません。選手にとっていいゲームができたかということを追求しているので、それには毎年終わりがないですし、チャンピオンシップで優勝してもまだまだ終わりではありません。

これから先も、“選手が主役となる試合をコーチが壊さない”ことを大切にし、より良いコーチングを常に探求し続けたいと思います。

名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15
Bリーグ1部に所属する、名古屋ダイヤモンドドルフィンズのユースチームとして2018年4月に発足。発足以来HCを務める末広朋也コーチの指導のもと、「選手を主体にしたチームづくり」に注力し、2019年、20年bjカップ優勝、B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2021優勝、B.LEAGUE U15 CHALLENGE CUP 2021準優勝など、輝かしい結果を残している。2022年1月に開催されるJr.ウインターカップ2021-22にも、愛知県代表として出場する。

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