「心」の観察と「自立」を大切にする~名古屋ダイヤモンドドルフィンズユースの取り組み Vol.1~

公開:2021/01/15

更新:2021/03/25

名古屋ダイヤモンドドルフィンズユースチームのHCであり、日本代表のテクニカルスタッフとしても活躍されている、末広朋也氏にチームの指導理念や練習での取り組みについてお話を伺いました。今回はその第1弾。「自立」した選手の育成について熱く語っていただきました。

―本日はよろしくお願いします。まずは、チームの構成と指導の体制について伺えればと思います。

↑末広朋也HC

末広朋也HC(以下:末):はい。U15には現在40名の選手が所属しており、変則的に複数のチームに分けて練習や試合を行っています。チームを分ける意図は、利用時間を考えた上で、最も効率と効果がいい人数で行うためです。例えば、40人が1コートで3時間練習するのではなく、20人を1時間半ずつに分けて練習を行うなどです。
また、競争を意識させるために、AとBという分け方もしていて、学年に関係なく、試合でメインになるメンバーと、もうワンランク上に上がらないといけないメンバーで分けています。さらにその中でも、実力だけではなく、成長の個人差を考慮した観点も大切にしています。例えば、早くAチームに入れて活躍させたいなと思う選手が、今まさに身長が伸びている時期の場合、Aチームだと練習が21時過ぎまであるので、睡眠時間や食事の時間の問題が出てきます。そういった選手の場合、身体的成長のことを考え、Aチームに入れるよりも、早く練習を終えてしっかりと睡眠時間を確保できるようにすることを優先にしたいので、早い時間に練習が終わるチームに入れるようにします。目先の結果よりも将来まで見据えた育成に主眼を置き、選手の状態を観察しながら判断してチーム分けをするようにしています。練習強度やトレーニングメニューの立案なども同様です。
選手たちは、「早くAチームに入りたい」という思いで練習に取り組んでくれますし、こちらも選手が必死に努力をしていれば、チャンスを与えて頻繁に入れ替えもするので、競争が生まれて、良い緊張感の中で練習できているのではないかと感じています。

コーチの役割は心の観察

―チームメンバーの入れ替えの際に、どのようなことを基準にして判断をされていますでしょうか?

末:一番は「姿勢」の部分ですね。選手には”自分で自分のコーチをすること”と”自分で自分を伸ばす力を身につけること”を求めています。その一つとして、毎日、目標をホワイトボードに書かせています。月初めに、月間の目標を書き、その横に毎日の目標を書いていき、それに近づけるようにチャレンジできているかを、自分自身で確認してもらうことが狙いです。その目標の達成度合いや、日々の選手の練習に取り組む姿勢、どれだけなりたい自分に向かって努力しているのか、それらを総合的に判断して、メンバーの入れ替えをしています。ただ単にプレーが上手とか下手ではなく、自分の目標に向かってどのように取り組んでいるのかという姿勢もセットで判断しているという感じですね。

―中学生年代だと精神的にもムラがあると思います。姿勢の部分であったり、自立を促すということは、なかなか難しいのではないでしょうか?

末:そうですね。選手たちが、毎日の練習を全力で頑張りつづけるというのは、簡単なようで実際は難しいです。人間なので、ちょっと油断したり、疲れていたり、ラクしたいと思って緩んでしまう精神的な波やムラはあります。そうした中で、コーチができる役割は、その変化に気づいて、ハッパをかけてあげることだと思っています。
今の時代、良いと評価される練習メニューやスキルは、すぐにインターネットで見ることができます。おそらくそういうものを真似して練習をすれば、絶対ある程度上達すると思います。しかし、キラリと光るスペシャルな選手になることや勝つチームをつくるためには、その練習を”どう工夫して取り組んでいるのか”という部分を、突き詰めて考えさせるように仕向けることが重要なのではないかなと思っています。
選手自身が、”考え方”の部分で成長のレールに乗ることができれば、こちらが想像している以上に選手自身の成長が加速していくことを実感しています。そのため、練習で行うスキルができるかできないかという結果よりも、自分で自分を伸ばすために全力の努力をしているかを重視して観察しています。

↑ホワイドボードには各選手の目標が細かく記載されている

将来伸びる「自立」した選手を育成したい

―キーワードとして「自立」という言葉が出てきましたが、そこにこだわるのはなぜでしょうか?

末:自分自身の根底に、どんなに時間をかけて指導者が教えても、自立した選手にはかなわないという思いがあります。それは、日本代表に関わらせていただいたり、いろいろなレベルの選手を見たりする中で感じたことですね。特に中学生年代では、選手それぞれで成長の幅に大きな差があります。その中で、将来伸びる選手の共通点として、「自立」という部分は欠かせず、たとえ早熟の選手でも、この部分がしっかりとしていれば、勘違いせずに努力をし続けることができるのではないかなと思います。
また、テレビなどでいろんな成功している人の話を聞いたり、ドキュメンタリーを見たりしても、自分の持って生まれたものだけでそこにたどり着いたという人は少ないのではないかと思います。自分の目標を叶えている人は、工夫することと自分で自分を伸ばす力が備わっていて、もともと持っている能力に加えたプラスアルファの心の部分が大きいのだろうと感じます。そのため、この育成年代から「自立」して、自分自身を高められる選手を育てたいと考えています。

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