「心」の観察と「自立」を大切にする~名古屋ダイヤモンドドルフィンズユースの取り組み Vol.1~

公開:2021/01/15

更新:2021/03/25

短い時間で成果をあげるためには「自分で学ぶ仕組みづくり」、が最も重要

―先ほど目標設定のお話が出ましたが、そのほかに「自立」を引き出すために工夫されていることはありますか?

末:練習メニューでも工夫をしていて、1カ月に1回メニューをすべて変えるようにしています。なぜ、1カ月ごとに変えるかというと、その練習をやり込んで深める時間、選手たちが練習の意図や意味をみんなで話し合いながら理解する期間として、1カ月がちょうどいいと感じているからです。それを毎月変えていくことで、変化に対応できる選手、自分たちで目の前の課題を解決できる選手になってほしいという思いを持って行っています。そうした仕組みをつくることで、自立している選手は自分自身で自然と上手くなっていくという実感もあります。
違う視点として、練習メニューを毎日変えた方が、変化があってさらに対応能力がつくのではないかな、と思って行ってみた時期もありました。しかし、説明の時間が長くなってしまい、運動量が減ってしまいました。U15年代では、運動量を保つことが練習する上での優先順位の高いことだと考えているので、毎日細かいことを説明するよりも、1ヶ月間はルーティーン的に行うことがベストだろうと感じています。
指導者は、先の話のように、姿勢の部分を観察する立場にまわり、必要があれば言葉を掛けますし、練習の意図がズレていると感じたときにだけ、練習メニューについて解説するくらいでいいのかなと思っています。選手の可能性は、選手自身がつくっていくもので、コーチはベストな「仕組み」をつくって、あとは観察。変に介入しすぎずに、いかにサポート役にまわれるかが重要かなと感じています。

↑練習中は選手を観察することに重きを置く末広HC

―末広さんは、ビデオアナリストとしてもご活躍されていますが、指導では分析も取り入れられているのでしょうか?

末:スカウティングという部分では比重は多くありません。ただ、練習試合や公式戦の振り返りとして、映像やデータを活用しています。選手には、自分で自分を成長させてほしいと考えているので、試合ごとに選手それぞれのプレー集をつくって送り、選手自身で振り返り、ノートに考察を書いて提出させています。必要があれば、ビデオに私からのコメントを付けて送ることもあります。
それを行っている理由は、成長の加速度の向上と時間の節約に効果があるためです。振り返りの仕組みもそうですし、チームコンセプトを共有する意味でも時間の節約に繋がります。限られた練習時間で、私の言葉が多くなり運動量が少なくなるよりも、事前に把握して練習に取り掛かるのとでは、練習の質が大きく変わってきます。練習前に私が全選手とミーティングをする時間はないので、選手それぞれに必要な努力を本人たちに把握させる、最も早い方法として続けています。
もちろん、なかなか課題に向き合わない選手や、課題から目を反らす選手もいますが、そういう選手は周りの選手に抜かれていきますし、プレータイムも減っていきます。そういう緊張感の中で競争することができるのも、我々のチームの特徴として捉えてもらっています。

アウトプットする力も育てる

―そのほかに指導する上で大切にされていることはありますか?

末:「アウトプット」をさせるということを意識しています。その中で大事にしているのが、「選手が選手に教える」ということです。下級生や、新しく入団する選手に対して、自分たちで教え合って課題を解決することを求めることが多いですね。「ここはこうしよう」とか「注意点はこうだよね」ということを、選手同士で話し合う環境をつくるようにしています。指導者が伝えたことや、ユースで整理されている理論を自分で噛み砕いて伝える時間を設けることで、アウトプットする力、伝える力も伸ばしたいと考えています。さらに、週に1回クリニックも実施していますが、そこではアシスタントではありますがユースの選手たちが参加者たちに指導しています。そのようにアウトプットする機会を増やすことで、スキルへの理解も深まりますし、人に教えてみることで新たな気づきもあると期待しています。

↑練習中は選手同士でも積極的に会話をしてプレーを確認していた


また、月に1回は英語を学ぶ機会を設けていて、NBAアナリストの佐々木クリス氏を招きオンラインで英語の講義をしてもらっています。これは、英語を勉強することはもちろん、それ以上に「アウトプットすること」、「苦手なことにチャレンジすること」に恥じらいを消して、どんどんチャレンジできるようになってほしいという考えから実施しています。ただの英会話ではなくでなくて、アナリストとしての深い知識も学べるのでダブルでとてもいい効果を得ています。この企画を始めて、将来は海外に行ってみたい!という選手も多くなってきましたし、英語を学べる学科を探して高校を選んでいるという話を聞くようになりました。そういう反応をみると、選手の選択肢の幅を広げるきっかけになっているのかなと非常に嬉しく感じます。


-取材を終えて-
インタビューの際に、選手とのやり取りを記録したノートも見せていただきました。選手一人ひとりが、本当に細かく自分のプレーや行動を分析し、自分の目標に向かって足りていない部分を書き込んであり、その細かさにとても驚きました。中学生年代からよく考えて、自分で判断して自分で決定する力を身につける。そのための環境を整備して、サポートするのがコーチの仕事と語る末広コーチの指導の成果は、2019年、20年bjカップ優勝という結果としても表れています。これからも「自立」した選手の育成に力を入れる末広HCの指導に注目したいと思います。

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名古屋ダイヤモンドドルフィンズユースチーム

名古屋ダイヤモンドドルフィンズユースチームHP:https://nagoya-dolphins.co.jp/academy/

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