バスケットボールは早く始めて遅く特化する競技

公開:2021/08/20

東京成徳中学校の指導者として、吉田亜沙美選手や大崎(旧姓間宮)佑圭選手など、のちに日本のトップクラスで活躍する選手を育成するとともに、全国制覇を5回経験。高校の指導者としても、2020年ウィンターカップで準優勝を果たすなど結果を残されてきた遠香周平先生に、中学校・高校の指導者の立場からみた、オールラウンダーの育成に関してお話を伺いました。

↑遠香周平 コーチ

―本日はよろしくお願いします。今回は「オールラウンダー」というテーマでお話をお伺いしたいと思います。早速ですが、オールラウンダーの育成という点について、どのようにお考えでしょうか?

遠香コーチ(以下:遠):まず、バスケットボールという競技は、「早く始めて遅く特化する」競技であるということを理解しておく必要があると思います。ボールを扱う競技で、ゴールも高い位置にある。更に、対人競技である。そういう点を考えると、バスケットボールという競技は特異的で、その競技特性には早く慣れておく必要があると考えています。

今回のテーマであるオールラウンダーの育成は、今後日本が世界と戦ううえで必ず必要なことだと思います。今の日本代表を見ていても、男子でいえば190㎝を超える選手がガード的な役割をできることが、世界と戦うには重要になってくるのではないかと思います。

そのポジションでプレーする目的が大切

遠:ただ、オールラウンダーの育成が必要だからと言って、育成年代の指導の現場では、「サイズのある選手がインサイドでプレーしてくれないと困るよ、勝てませんよ」という状況もありますよね。もちろん勝負に勝つということは重要なことですし、そこを目指すのは当然だと思います。やはり、選手も指導者も勝ちたいのは同じですから。

そこでの一つの考え方として、選手が「指導者に言われたからそのポジションをやる」ということではなく、「そのゲームや地区での試合に勝つために自ら進んでそのポジションでプレーする」ということはあってもいいのではないかなと思っています。重要なのは、指導者と選手がコミュニケーションを取って共有認識を持ってプレーすること。それがしっかりできれいれば良いのではないかと思います。

―そのポジションでプレーする目的をはっきりさせることが重要ということですね

遠:例えば、160cm台の選手でも、150cm台の選手がマッチアップしてきたら、ポストプレーをするということも1つの選択肢になるわけです。ポジションには、相対的な要素も絡んできますから。指導者が「君は将来ガードをやる可能性があるけど、この地区の戦いではポストプレーをやってほしい」と伝えて、選手もその意図を理解してプレーする。そういうのはあっても良いのではないかと思いますね。

ただ、1つのポジションのプレーだけを練習するのではなく、様々なポジションやスキルに挑戦する中で、試合では相手に応じてポジションやプレーを選択していくということが重要ではないかと思います。コービー・ブライアントはサマーシーズンの試合の中で、多くの選手が自分の得意なプレーに打ち込む中、自分が苦手な左手でのプレーやポストプレーに打ち込んでいたそうです。だからこそ、あそこまでのプレーヤーになれたと自分自身でも語っています。

身長・体格に関係なく様々な技術を身につけていく、オールラウンドなプレーができるスキルを身につけていく。それが選手自身の可能性をさらに広げることにも繋がるのではないかと思います。

バスケットボールの特性を理解することが大切

―遠香先生は、中学校年代、高校年代と両方の指導を経験されています。その中で、年代ごとに意識してきた点、気を付けてきた点はありますか?

遠:中学生まではポジションに関係なく様々なスキルを身につける練習が必要になると考えています。例えば、シュートに関していえば、「ドリブルから」「キャッチから」「ターンから」、基本的にはこの3つしかないので、この3つはすべて練習しなければいけません。「インサイドだからターンシュートだけ」というのでは、将来カテゴリーが上がった時に通用しませんから、体格に関係なく選手全員に3つのシュートを練習することが必要です。

↑中学校の指導者として、吉田亜沙美選手や大崎(旧姓間宮)佑圭選手も指導した

U18になると、それに加えて、シューターはシューター、インサイドはインサイドとポジション特化した練習も実施していく必要があるかと思います。

―シュート以外の部分で具体的にどのようなプレーやスキルが必要でしょうか?

遠:オフェンスに関していえば、基本的に攻め方は「ドライブから」「パスから」「スクリーンから」の3つしかありませんから、それぞれの攻め方でのスキルを、選手のポジションに関係なく指導していく必要があります。
その時に重要になるのが、選手の発達のレベルに応じて、難易度を調整しながら指導をしていくということです。

例えば、スクリーンプレーで言えば、【オンボールスクリーン】→【スクリーンを使った2on2】→【3人目を入れたプレー】→【オフボールスクリーンを絡めた動き】→【スタッガースクリーンのようなスクリーンを2枚使うプレー】 のように、徐々に難易度を高めていくイメージです。そして、スクリーンのユーザー側もスクリーナー側も両方を経験して、プレーを知っておくことが重要ですね。

こうした指導をしていくためには、指導者がバスケットボールの特性を知って、体系化しておくことが必要だと思います。

―指導者として、引き出しを多く持っておくことが重要ということですね。その他に、指導者として気を付けておきたいことはありますか?

遠:選手に自分自身のビジョンを持たせてあげることも指導者として重要な要素だと思います。バスケットボールとは関係ない話ですが、元プロ野球選手の桑田真澄投手は、高校時代に他の変化球も練習して投げることができたにも関わらず、ストレートとカーブしか投げないと決めていたそうです。それは、「高校時代にストレートとカーブだけで優勝できないようではプロで通用しないと考えていた」からだそうです。その考え方は素晴らしいと思います。
指導者として先のことを考えて自分なりにビジョンを持った選手を育成していくことも、オールラウンダーの育成に繋がる部分ではないかと思いますね。

選手の成長段階に応じた指導

―オールラウンダーを育成していくうえで、中学生年代の指導で重要なことはどんなことでしょうか?

遠:カラダの使い方をしっかり指導する必要があると思っています。中学生年代は成長期で体が大きくなります。大きくなる時は、体の成長に対して神経の発達が追い付かないですし、目線も変わります。そうすると、毎日のようにシュートの感覚も変わってきます。そのことを指導者が理解したうえで、カラダの使い方をしっかりと指導していくことが大切だと思います。

成徳中学校時代の大崎(旧姓間宮)佑圭も、毎日のように目線が変わったと言ってました。指導者として、選手の感覚が変化していく時期であるということを知っておくことは重要です。運動生理学的な部分も学びながら、成長の過程をしっかりと理解したうえで、怪我をしないカラダの使い方を教えていくことが重要ではないかと思います。

成長には個人差があるので、中学校ならミニの指導者と、高校なら中学校の指導者と連携をとりながら、選手一人ひとりの成長過程や背景を共有できることが理想ですね。

―本日は、貴重なお話ありがとうございました


遠香 周平 Shuhei Oka

東京成徳大学中学校・高等学校女子バスケットボール部 部長 東京成徳大学中学校バスケ部監督として全中3連覇を含む5度の全国優勝を経験。高校の指導者に転身後も全国大会にチームを導き、2020年ウィンターカップでは準優勝を果たした。日本代表として活躍した、吉田亜沙美(現東京医療保健大学女子バスケットボール部AC)や大崎(旧姓:間宮)佑圭をはじめ、多くの教え子がトップレベルで活躍している。

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