【サポートスタッフで勝つ】<1> 白鴎大学男子バスケットボール部

公開:2022/05/06

更新:2022/05/15

このシリーズでは、アマチュアチームのサポートスタッフに光を当て、その仕事内容やチームへの貢献ぶりを紹介するとともに、チームマネジメントのあり方ついて考えていきます。最初に取材したのは、昨年度の男子インカレチャンピオン、白鴎大学です。同チームには学生コーチが6名存在し、マネージャーらと明確に役割分担をしながら練習から試合までを幅広くサポートしています。

網野友雄ヘッドコーチ

選手たちの気付きを一層促したい

白鴎大学男子バスケットボール部のスタッフ構成は、ヘッドコーチ、アシスタントコーチ1名(専任)、トレーナー1名(専任)、学生コーチ6名、マネージャー3名、学生審判1名。大学バスケットボール界でも屈指の強豪だけあって充実した陣容だが、網野友雄ヘッドコーチによると、中でもここ数年強化してきて、かつ成果が上がりつつあるのが学生コーチの存在だという。まずは、学生コーチという存在に着目し、そこに力を入れてきた理由をうかがった。

網野:私が来る前からそうでしたが、白鴎大学は部員数60名前後の大所帯。これだけの人数をヘッドコーチ1人で見ていくのは到底不可能です。昨年からチームOBのアシスタントコーチを1名、大学職員として採用してもらいましたが、人材面ではまだまだ増強の余地がありました。一番意識していたのは、以前から整備されていた映像分析ソフト等をより有効活用したいということ。コート上で最高のパフォーマンスを出してもらうため、選手たちの“気付き”を一層促したいとの思いがあり、それを進めていく手段としてマンパワーの増強を考えました。

――学生コーチ専任となることを前提として、推薦入学で学生さんを確保していると聞きました。他大学ではあまりない形だと思います。

網野:現在の3年生以下の学生コーチは、全員が推薦入学で入ってきた学生たちです。スポーツは選手が華であり、スタッフは裏方です。選手としての技量が足りないからコーチに転身するという形だと、サポートに徹することがなかなかできない。そういう学生も過去には存在しました。初めからコーチ志向の強い学生を募ったほうがやりがいを感じてもらえると思うし、モチベーションが高いのは明白です。内発的動機が強いほうが確実にパフォーマンスが上がります。すでに高校の先生方からは、学生コーチ志望の生徒さんを紹介していただける流れにもなっています。

また、選手たちが全国の強豪校から集まってきているので、学生コーチとなる子たちもスタート時点でそのレベルにできるだけ近いほうがやりやすい、という事情もあります。

AB両チームで役割が異なる学生コーチ

――6名いる学生コーチの業務分担は。

網野:選手がABの2チームに分かれていますので、学生コーチもABそれぞれの担当を振り分けています。現在はAが4名、Bが2名です。Aチームでは日々練習を撮影・分析してヘッドコーチ、アシスタントコーチが練習内容を考える際に必要な資料の作成がメイン。Bチームは練習内容はすべて学生コーチに考えさせ、スケジュールの策定や遠征の仕切りなども大半やってらっています。試合期になると、AB関係なく相手チームのスカウティングには学生コーチ総出で行う形。詳細は彼らに任せています。

――学生コーチを増強してからチームは変わりましたか。

網野:マンパワーの充実により、選手1人1人に対するアプローチの量が増えたのは感じています。学生コーチたちが練習前に選手に映像を見せ、アドバイスする姿が日々見られるようになりました。このあたりは、とても良い傾向だと思っています。

その一方、学生コーチは各学年1~2名という状況なので、学生コーチ間での競争はそれほど起きていません。彼らは将来指導者になりたいとか、教員になりたいとか、プロチームに関わりたいと思っている学生ばかりなので、理想としては選手と同じように競争をしながら自身の役割を全うして、それぞれがレベルアップしていける環境が望ましい。そうした個人の成長という側面に課題を感じつつ、チームの総合力アップには確実に結びついている、それが現況です。

別の課題としては、チーム内でお互いをどう認めて高め合っていけるか。高校時代に全国大会で活躍した選手たちに対して、学生コーチは入学時点でバスケットボールにおいてキャリアの差があります。学生コーチとしては選手側にリスペクトしてもらうために懸命に働き、選手たちも偏見を捨て十分に相手を認める。高いレベルで信頼関係を築き、チームとして成長していくこと。このコミュニケーション面は永遠の課題でもあります。

――白鴎大学の学生コーチ。特徴と言える部分は?

網野:基本的な分析ソフトとしては、Sports Code(スポーツコード)とFL-UX(フラックス)を導入しています。この2種類に関しては4年間学生コーチをやる中で使いこなせるようになると思います。また、今のシステムとしては入学当初はBチームを担当してもらい、まずはチーム全体のマネジメントを経験してもらった後でAチームに関わり、アシスタント的な業務をしてもらう流れにしています。チーム全体を仕切る経験と、アシスタントとして専任コーチ陣を支える両方の経験ができるのが特徴かな、と思います。


学生スタッフへのインタビュー

ここからは、現役の学生コーチとマネジャーの方々へインタビューした内容をお伝えします。それぞれ、自身の将来のビジョンを見据えつつ、サポートスタッフとしてチームに貢献したいとの高いモチベーションで日々の業務をこなしている様子が伝わってきます。

■学生コーチ

高堂信之介さん(3年生 岐阜県・美濃加茂高校出身)

Aチームを担当しています。父親がバスケットボールのコーチをしていた影響で、自分自身も高校2年生ぐらいの時からコーチになりたいと思うようになり、そのための勉強と経験がしたく、白鴎大学に進学しました。現在は、相手チームのスカウティングを主に担当しています。試合のない時期は練習を撮影・分析して、選手にいろいろとアドバイスをしています。

試合で起こり得る場面を想定して、特定の部分を切り取ったワークアウトをやることが多いのですが、自分が設定したワークアウトで練習したことを実際の試合や試合形式の練習の中で表現してくれると、とても充実感があり、コーチをやっていて面白いと感じている部分です。反対に、自分よりも競技レベルの高い選手たちに教えることになり、伝え方が難しいなとは日々感じています。信頼関係を築くことが重要だと思っているので、日々の行動を見てもらった上で、できるだけ積極的に選手たちに働きかけるようにしています。


野口拓哉さん(3年生 栃木県・文星芸術大学附属高校出身)

Aチームを担当しています。小3から高校卒業までプレーヤーしていて、B1宇都宮ブレックスのユースチームにも在籍していました。その経験の中でいろいろなコーチの指導を受け、自分もコーチをやってみたいと思うようになりました。特にブレックスではレベルの高いコーチングを受けることができ、コーチになりたい動機が高まりました。メインの業務は日々の練習のサポートで、試合期になると相手チームのスカウティングもやっています。

選手それぞれが苦手としている部分、課題としている部分を克服するために映像を見せて一緒に解決していく作業を日々していますが、成果が出た時はとてもやりがいを感じています。例えば戦術の中でボールが止まってしまってオフェンスの流れが作れないとか、オフェンスが止まってしまった結果、簡単なミスが起こってしまうというケースが時々あります。選手に映像を見せて自分の姿を客観的に把握してもらい、流れが止まらないようにドリブルの練習をしたりすると、選手の意識も変わってきて良いオフェンスの流れを作ることができた、という経験があります。このようなことを積み重ねていくのが大切なんだという手応えを感じています。


安田慎ノ助さん(2年生 茨城県・つくば秀英高校出身)

Bチームを担当しています。高校までプレーヤーをする中で、指導者になりたい気持ちを強く持つようになりました。白鴎大学は高校の先輩も進学していて、学生コーチとして成長できると聞いていたので、進学先として選びました。Bチームでは、練習メニューを立てたり、Bチームにいる選手をAチームに昇格させるために個々のレベルアップのサポート、さらに大会ではヘッドコーチとしてベンチに入っています。Aチームの分析のお手伝いをすることもあります。

入学当初から上級生もいるチームのコーチとして振る舞うのは大変でしたが、ヘッドコーチや上級生の学生コーチの方々に教わりながらコーチとしての勉強をさせていただき、現在2年目に入ったところです。Bチームが参加して先日行われた栃木県社会人リーグで優勝できたことは、自分にとっても貴重な経験になりました。

将来は高校教員になって、チームをインターハイやウインターカップに出場させるのが夢です。学業と学生コーチの両立は大変だと感じることもありますが、教職という大きな目標があるので、文武両道頑張っています。


■マネージャー

櫻田ののかさん(3年生)

高校まではプレーヤーでしたが、裏方としてチームを支える立場のほうが自分には向いているのではないかと思っていました。進学先を選ぶ段階で、せかっくならバスケットボールが強い大学に行こうと決め、初めからバスケ部でマネージャーをやるつもりで入学しました。高校は弱いチームだったのでこのチームに入って、練習内容だけでなく、サポートスタッフがこなす役割のレベルの高さを感じ、多くを学ぶことができています。

マネージャーとしての仕事は、どちらかと言うと対外的なことがメインです。部費の管理、保護者へのお知らせレターの作成、ウェアの採寸と注文、大会のエントリー、バス・宿泊の手配、大会プログラム用のチームプロフィールの作成、等。大学との連絡窓口も私たちマネージャーの役割で、体育館の使用手配なども行っています。昨年度までは公式SNSの管理もやっていましたが、十分に手が回らず、あまり更新できていませんでした。今年から広報担当として専任のスタッフが入ったので、今後は改善されていくと思います。

現在3名いるマネージャーチームは練習のサポート(道具や飲料の準備、タイマーの設定など)や試合ではスタッツ入力とコーチへのフィードバックなども行いますが、このチームの大きな特徴として、戦術や映像関係の業務はすべて学生コーチが担当していて、サポートスタッフの役割分担が明確です。選手を支えるサポートチームの充実が、このチームの特徴であり強さであると私自身感じています。

~最後に~

本日協力いただいた網野コーチは現在弊社のJLCオンデマンドの新コンテンツに向けての撮影にも協力いただいておりますので、ぜひそちらも公開後お見逃しなく!

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