【サポートスタッフで勝つ】<3> 東海大学男子バスケットボール部

公開:2022/07/15

サポートスタッフの貢献を取材するシリーズ企画。3例目として、東海大学男子バスケットボール部のトレーナーチームを取り上げます。バスケットボール界の環境が変化していく流れも見極めながらトレーナーチームが進化してきた過程、そして現在の姿を、陸川章ヘッドコーチと西川潤トレーナーにお聞きました。

総勢8名のトレーナーチーム

まずは、東海大学男子バスケットボール部(愛称シーガルズ。以下シーガルズと表記)トレーナーチームの現在の陣容を紹介しよう。トレーナーチームは総勢8名で構成されている。大学院生である西川潤さんが統括的立場で全体をまとめ、大学院生がもう1人と、学生が6名。ABチーム合わせて40数名のプレーヤーに対してトレーナーが8名いるわけだから、手厚いサポート体制が敷かれていることは想像に難くない。主に治療的なケアをしてくれる外部トレーナーとも契約していて、週1回来てくれるという。

プロ的な対応が必要なメディカル分野は外部トレーナーに依頼しているため、内部のトレーナーチームは、日々のコンディショニング管理が主な仕事になる。練習前のテーピング、ウォーミングアップメニューの作成と実施管理、ケガ人のリハビリ管理、ストレングス&コンディショニングプログラムの立案管理、パフォーマンス測定などが日々のルーティンだ。

ストレングス&コンディショニングプログラムとは、ウエイトトレーニングやランニング等によるフィジカル強化・調整を目的としたトレーニングを指す。シーガルズの場合、このストレングス&コンディショニングへのきめ細かい取り組みが特徴的であり、チームの進化を強力に支えてきた。そのあたりの歴史を、陸川ヘッドコーチは以下のように話してくれた。

陸川ヘッドコーチ

卒業生からキーマンが生まれる

「私が東海大学に来たのは2001年ですが、それ以前から学内には“スポーツサポートシステム”というものが存在していて、以下の5部門で構成されていました。1.トレーニングサポート、2.医科学サポート、3.メディカルサポート、4.メンタルサポート、5.栄養サポート。1~3までがトレーナーが担当する領域であり、当時は学外の方々がボランティアのインターンとしてこれに参加し、学生トレーナーがそれを支えるシステムでした。

そのシステムの中で学生トレーナーから育っていった初期の人材の一人が、現在、東海大学体育学部の専任教員となっている小山孟志です。小山は、大学院終了後、当時JBLの日立サンロッカーズのストレングス&コンディショニングコーチ、男子日本代表チームのストレングス&コンディショニングコーチ等を歴任し、東海大学に戻ってきました。バスケットボール界でもトップレベルの選手たちを見てきた経験を十分に活かし、現在、トレーナーチームを指導する立場でシーガルズに関与しています。また2005年、私がかつて所属していたNKKバスケットボール部のストレングスコーチをされていた北本文男さんを招いてトレーニング指導をお願いしたのですが、その時に吸収したノウハウが、その後シーガルズのストレングス&コンディショニングプログラムを作っていく礎になりました」

ラグビー日本代表のトレーニングを参考にする

「次に転機となったのは、2014年です。現在アルバルク東京に所属している田中大貴が4年生のこのシーズン、シーガルズは天皇杯の準々決勝で、この大会で優勝した東芝ブレイブサンダーズ(現B1川崎)さんと対戦し、第3クォーターまで互角の戦いをしましたが最後は突き放されてしまいました。プロチームは最後までしっかり決めきるのに対し、我々は体力負けして終盤イージーショットを外してしまう。この差をどう埋めるか、という課題に直面した時、小山と2人で相談して、当時ラグビー日本代表のヘッドコーチをされていたエディ・ジョーンズさんを訪ねて、代表チームのトレーニングを視察させていただきました。エディさん率いる日本代表がワールドカップで南アフリカを破る大番狂わせを演じた前年です。

そこで目の当たりにしたのが、凄まじいほどの質と量をこなすフィジカル強化トレーニングでした。また2017年に、日本バスケットボール協会テクニカルアドバイザーとして代表チームの指導などを担当されていたルカ・パヴィセビッチ氏が実践する、短時間だがとても強度の高い練習にも通じる部分があり、フィジカル強化への思いを新たにしました。具体例としては “コンタクトフィットネス”を一大テーマとして設定してラグビー部コーチによる指導を仰ぎ、現在も取り組んでいます。。

さらに、ケガを未然に防ぐため、選手個々のコンディションを詳細に把握し、練習強度の調節をきめ細かに行うようになったのがここ数年の取り組みで、これにも西川らトレーナーチームが深く関与しています」

トレーナーチームの業務内容と新システムの導入

現在トレーナーチームは8名と人数が多いため、役割分担をして日々の練習サポートを行えている。学部学生の6名が練習前のテーピング、練習後のコンディショニング、ケアを主に担当し、西川さんともう1名の大学院生、矢口佳志さんが主にストレングス&コンディショニングプログラムの作成・管理を行っている。西川さんらにはもう一つ大きな仕事があって、それが、先ほど陸川コーチが触れた「選手個々のコンディションを詳細に把握」という部分だ。B1リーグでもまだ4チームにしか導入されていないという運動パフォーマンスを細かに分析できるシステム“KINEXON(キネクソン)”を用いて、練習中の集積データから選手個々のパフォーマンスや疲労度を評価し、それをコーチ陣にフィードバックしている。

KINEXONは選手個々に加速度センサーが付いたウェアラブル端末を装着してもらい、練習中のすべての動きをトラッキングできるシステムであり、多項目の計測データを得ることができる。このKINEXONを導入することで客観的なデータを集積できるようになり、それまで選手自身の主観的評価に頼っていたコンディションの評価が、数段階進化した。

西川トレーナー

「小さな端末を選手のポケットに挟み込むだけで、練習中のすべての動きが数値化されてアプリ上に入ってきます。測定項目はいろいろあって、走行距離、ジャンプ回数、ジャンプの高さ、スプリントの回数…など。これら一般的なもの以外に、KINEXON独自の測定項目がいくつかあって、それらがコンディション把握にとても役立っています(図1参照)。データは情報を整理した上で、週1回、コーチ陣にフィードバックしています。

日頃、私たちが練習を見ているだけではわからない客観的データが入ってくることで、たとえば練習の負荷がその前の週に比べて高く、ACWR(傷害リスクの指標)がある一定の閾値に達していた場合、翌週の練習やコンディショニングプログラムを少し軽めにするとか、そういった判断ができるようになりました。コーチ陣も、メイン練習の負荷強度の波を以前よりきめ細かく調節することができ、結果的にケガのリスク軽減につながっていると思います」(西川さん)

図1 KINEXONのデータ集計画面例。表示項目としては、以下のようなものがある。Distance:総走行距離、Distance/min:1分あたりの走行距離、Speed(max):最高速度、Accumulated Acceleration Load:3軸の累積負荷、
Accumulated Acceleration Load/min:1分あたりの3軸の累積負荷、Exertions:1秒以上激しく動き続ける頻度の合計、Exertions/min:1分あたりのExertions、Jump Height:跳躍高(m)

選手個々のコンディション管理がレベルアップ

学生を含めて8名のトレーナーが稼働しているため、西川さんはこうしたデータ管理にある程度時間を割ける状況となり、選手個々のコンディション把握がより細かくできているのが、現在のシーガルズの強味だ。選手に処方されるプログラムの中身も、ある程度、個別対応ができている。

「小山先生がトップにいて、私たちトレーナーが各自意見を出し合って各種プログラムを進めていきます。一人の偏った考え方に陥ることなく、いろいろな見方ができているのも良いところかな、と思います。KINEXONを用いて客観的データを集めるだけでなく、選手自身が感じている主観的なコンディション状況に関する情報が、学生トレーナーから入ってきます。トレーナーチームの人数が多いことが、そのような側面で活かされ助かっています」(西川さん)

現在8名のトレーナーチーム

バスケット界に多数の人材を輩出

シーガルズがバスケットボール界に優れた人材を数多く輩出しているのはよく知られるところ。それがプレーヤーだけにとどまらないことは、次の数字が示している。現在、海外も含めてプロリーグに所属している選手が約50名、スタッフ37名がシーガルズの出身だ。NBAにもスタッフがいる。コーチ、トレーナー、アナリストといった、プロチームの運営に欠かせない重要な人材を多数送り出しているのだ。最近では、そうした環境に憧れ、高い志を持って入部してくる学生も多いという。はじめからプレーヤーとしてでなく、学生コーチ、トレーナー、マネージャー等のスタッフ希望で入部してくる学生も多い。希望者が多いため、スタッフも面接で人柄や、やる気を確認した上で入部してもらっている。

「人材輩出という面では、ある程度実績を出せていますので、将来バスケットボール界で仕事をしたいと真剣に考えている学生が集まってくれるようになりました。小山が体育学部の専任教員となり、大学院も授業も担当しています。志のある学生に対して、大学院まで6年間の教育・研究環境を与えてやれていることは、大きな特徴になっています。

このチームではスタッフも皆意識が高いので、中途半端な気持ちではついていけません。ある意味しんどいのかもしれないけれど、やる気のある学生にとっては、良い環境と言えると思います」(陸川コーチ)

高校チームへのアドバイス

スタッフの充実ぶり、そしてトレーナーチームの活躍ぶりがシーガルズ・バスケットの強さを支えている様子がよくわかる。最後に、「高校レベルのチームで真似できる要素はありますか?」と聞いてみると、お二人が以下のように答えてくれた。

「シーガルズでは、全体のウォーミングアップが始まる前に、選手それぞれが持つ身体的な課題、たとえば力が入りにくい部位とか、可動域が狭い部位とかを改善するエクササイズをやったりしています。体育館に少しだけ早く来て、こうした取り組みを行うだけで障害予防になるので、おすすめしたいです。あとはリカバリーに対する意識付けとして、睡眠や栄養補給の重要性を理解することでしょうか」(西川さん)

「マネージャーをしている生徒さんたちに、セルフケアや栄養といったコンディショニングに関する知識を学ぶ機会を与えてあげるのが良いのではないでしょうか。まずはマネージャーが学び、知識や実践の方法を選手たちと共有できる環境をつくっていく形が現実的だと思います」(陸川コーチ)


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