【連載】女性コーチがもっと活躍するために〈1〉

公開:2022/03/04

更新:2022/03/03

三倉 茜(金沢医科大学助教)

競技参加、つまり選手レベルではジェンダー平等が浸透しているスポーツ界も、コーチとなると女性の比率が驚くほど低い現状がある。バスケットボール界も例外ではない。女性コーチがもっと活躍するための現状把握と将来への展望について、この分野の研究を進めている三倉茜氏に短期連載をお願いしました。


女性コーチ育成に関する近年の動向

2021年に行われた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、多くの女性アスリートの活躍が目立ちました。また、女性とスポーツの様々な問題について話題になった大会でもあったことが記憶に新しいかと思います。

「女子・女性とスポーツ」という切り口での話題が注目されるようになった背景には、国際オリンピック委員会(IOC)が女子・女性のスポーツ参加に向けた取り組みを積極的に行っていることがあります。IOCの他にも、様々な国際的なスポーツ組織がスポーツの価値を多くの人に広めたいと考え、アスリート、コーチ、審判、競技団体役員といった様々な立場での女子・女性のスポーツ参加を目指しています。もともと、スポーツは男性の文化として生まれたという歴史があり、長く男性中心にスポーツの文化が作られてきました。しかし近年になり、より多くの属性の人に、様々な立場でスポーツに関わってもらうことで、より豊かなスポーツ文化を醸成しよう、その結果社会におけるスポーツの価値を高めようという考え方に変化してきました。

国際バスケットボール連盟(FIBA)も、女子・女性の参加促進を2019-2023年に重点的に取り組む分野として挙げ、6つの目標(①女子・女性選手の増加、②エリートレベルでのコーチと審判の育成と活用、③女子バスケットボールのファンの増加、④女子の試合のインパクトの最大化、⑤各国バスケットボール協会およびFIBA役員におけるジェンダー平等の促進、⑥FIBAスタッフにおけるジェンダー平等の促進)を設定しています。

以上のように、女子・女性アスリート数の増加だけでなく、コーチ、審判、競技団体役員など様々な立場でスポーツに関わる女子・女性を増やそうという取り組みが進められています。しかしこれまで女子・女性アスリートを増やす取り組みや競技力向上が優先的に進められてはいますが、コーチや審判といった立場での女性参画を目指す取り組みは始まったばかりであり、女性アスリート数増加のような目覚ましい変化は見えていません。IOCのレポートの中で、過去4大会の夏季・冬季オリンピックに参加したコーチの男女比が示されていますが、女性コーチの割合は10%程度で推移しており、今後も引き続き取り組むべき分野であると言及されています(図1)。FIBAにおける取り組みもまだ方針が示されたのみですので、今後具体的な取り組みをFIBA、各国バスケットボール協会ともに推し進めていくことが必要です。

図1 
オリンピック競技大会に参加した男女コーチ割合(IOC, 2018より三倉作成)

日本バスケットボール協会(JBA)では、2016年頃から女性コーチ育成の必要性を感じ、取り組みを始めました。2020年にはJBA初の試みである「女性コーチカンファレンス」を実施し、女性コーチが直面する課題の抽出や共有を行いました。本カンファレンスは様々な形態・内容で継続的に実施されていますが、今後さらに踏み込んだ女性コーチ育成・支援の取り組みが必要であると考えています。

様々な取り組みが行われ始めた一方で、女性コーチはまだまだ国内でも少なく、2020年度JBAに登録する女性コーチの割合は全体の24.3%と半数に満たない現状です。この数値を見てみても、女子・女性がコーチを目指したり、女性コーチがキャリアを長く継続したりする上で何かしらの課題があることがうかがえます。今後、女性コーチを育成していくためにまず必要なことは女子・女性がどのような課題に直面するのかといった現状を知ることですが、日本国内において女性コーチやコーチを目指す女子・女性に関する研究やデータが少なく、十分に女性コーチの現状が把握できていません。次回は、諸外国のデータから分かる女性コーチの現状や課題について紹介していきます。

〈引用〉

FIBA(2021)Women in Basketball Survey Report 2020. https://www.fiba.basketball/documents/WiB-survey-report-2020.pdf

IOC(2018)Gender Equality Review Project. https://stillmed.olympic.org/media/Document%20Library/OlympicOrg/IOC/What-We-Do/Promote-Olympism/Women-And-Sport/Boxes%20CTA/IOC-Gender-Equality-Report-March-2018.pdf

IOC(2021)Gender Equality & Inclusion Report 2021. https://stillmed.olympics.com/media/Documents/Beyond-the-Games/Gender-Equality-in-Sport/2021-IOC-Gender-Equality-Inclusion-Report.pdf?_ga=2.130648390.836247627.1645663979-amp-0vHivjyINxIfbrFv1XW_-w

JBA(2021)コーチ登録者数. http://www.japanbasketball.jp/jba/data/enrollment/


三倉 茜(Mikura Akane)

金沢医科大学 一般教育機構 体育学助教 日本バスケットボール協会指導者養成委員会(女性コーチ育成担当) 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程修了(学位:スポーツ健康科学)、順天堂大学女性スポーツ研究センター リサーチアシスタントを経て現職。 研究分野は女性コーチ育成、女子・女性のスポーツ参加、スポーツにおける女性のリーダーシップなど。

あなたの悩みや疑問に、経験豊富な指導者が答えます。
回答は、当サイト内で順次公開。 皆様からのご質問をお待ちしております。
(質問者が中高生の場合は、指導者または保護者のアカウントからご質問を送信してください)