【連載】女性コーチがもっと活躍するために〈3〉

公開:2022/04/01

更新:2022/03/31

三倉 茜(金沢医科大学助教)

JBA指導者養成委員会の女性コーチ育成担当で、女性コーチの研究を進めている三倉茜氏による短期連載第3回目です。


女性コーチが増えることでどんな良いことがあるの?

前回、女性コーチは多くの課題に直面していることを説明し、課題を解決するために研究や調査が必要なこと、各個人が女性コーチの現状に目を向ける重要性について考えました。今回は、そもそも女性コーチが増えるとどんな良いことがあるのか、ということについて説明していきたいと思います。

私が考える、女性コーチが増える意義は以下の3点です。

①女性アスリートへの知識及び情報の伝達・共有化

②スポーツ関連組織の活性化

③女子・女性アスリートのロールモデルになる

①女性アスリートへの知識及び情報の伝達・共有化

 競技活動を経験した女性がコーチになることで、自身の経験を次世代の女子・女性アスリートに伝えられるということが大きな利点として挙げられます。近年注目されている、女性アスリート特有の健康問題(月経や婦人科系疾患など)について考慮した指導を行うことができることや、対処方法についてアドバイスできることは、長く活躍する女子・女性アスリートを育成することに繋がります。もちろん、男性コーチにも女性アスリート特有の健康問題について知っておいてほしいですが、月経に関する相談は女性コーチの方がしやすい、という声も聞きますので、女子・女性アスリートにとって現場に女性コーチがいることは安心ですね。

②スポーツ関連組織の活性化

これは社会で目指されている女性活躍促進とも同じことですが、スポーツ組織としてもこれまで男性が多かった中に女性が増えることで、新たな視点が入り、より良い組織運営につながるということも考えられます。第1回の記事でお話しした通り、国際オリンピック委員会や国際バスケットボール連盟でもより多くの女性に、様々な立場でスポーツに参加してもらうことを目指しています。日本でも、競技団体の女性理事の割合が40%になるよう目標を定めていますが、これはスポーツ組織で起こる様々な問題の解決のために女性をはじめとした多様な背景を持つ人たちの視点が求められていることが理由として挙げられます。コーチングの現場でも、これまで男性が多かったことで見逃されてきた様々な問題解決のため、女性コーチの視点が必要とされています。

③女子・女性アスリートのロールモデルになる

前回の記事で紹介した女性コーチ研究の第一人者であるDr. LaVoiは、女性コーチ育成の上で同性ロールモデルが重要であると言及しています(LaVoi, 2020)。ロールモデルとは、ある特定の役割や職業などで、行動や考え方のお手本となる人のことです。「こうなりたい!」というお手本がいることで、その人のキャリア選択やキャリア形成に大きな影響を与えると言われています。
特に女性が少ない職業分野や学問分野に身を置く女性は、同性ロールモデルの影響をより強く受けることが明らかになっています。これは、自己効力理論(Bandura, 1977)で言われている「代理経験」という学習効果が現れていることが考えられます。代理経験とは、観察するモデルが成功することで、「自分もできる!」という気持ちが高まる学習効果のことです。さらに、そのモデルに自分との共通点が多いほど、より自己効力感が高まると言われていますので、性別という共通点から、女性コーチは周りの女性コーチや、これからコーチを目指す女子・女性アスリートの良いロールモデルになると考えられます。
さらに、これまでは男性コーチが多かったために、女子・女性アスリートは「女性はコーチになれないんだな」「女性はコーチに向いていないんだな」と無意識に思い込んでいたかもしれません。しかし、女性コーチが増え、女性がコーチになれるということが可視化されることで、女子・女性アスリートにとってのセカンドキャリアの選択肢が拡大することも期待されます。

以上のことを背景として、様々な組織で女性コーチ育成が目指されています。前回も述べたように、組織や社会全体として、女性コーチ育成について取り組むことが必要です。一方で、私たち1人1人ができることや、女性コーチ自身ができることもたくさんあります。次回は、女性コーチ育成のために個人ができること、組織に求められる役割、社会全体として変えていけないことについて考えていきたいと思います。

<参考文献>

・バンデューラ:本明寛・野口京子監訳(2011)激動社会の自己効力. 金子書房.
・LaVoi, N. M. (2020)Sport coach development: Education and mentorship for women. In; Callary, B. & Gearity, B. (eds.) Coach education and development in sport: Instructional strategies. Routledge, pp203-214.


三倉 茜(Mikura Akane)

金沢医科大学 一般教育機構 体育学助教 日本バスケットボール協会指導者養成委員会(女性コーチ育成担当) 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程修了(学位:スポーツ健康科学)、順天堂大学女性スポーツ研究センター リサーチアシスタントを経て現職。 研究分野は女性コーチ育成、女子・女性のスポーツ参加、スポーツにおける女性のリーダーシップなど。

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