【連載】女性コーチがもっと活躍するために〈4〉

公開:2022/04/15

更新:2022/04/14

三倉 茜(金沢医科大学助教)

JBA指導者養成委員会の女性コーチ育成担当で、女性コーチの研究を進めている三倉茜氏による短期連載第4回目(最終回)です。


組織や個人ができることは何か?

前回の記事では、女性コーチが増えることで組織や社会にとってどんな良いことがあるかを紹介しました。今回は、女性コーチが活動しやすい環境を整え、その結果コーチを目指す女子・女性や女性コーチが増えるために、組織や個人ができることについて考えていきたいと思います。

●女性コーチに関わる組織ができること

・自分の組織・競技のコーチにおけるジェンダーバランスを見直す

・組織文化やルールを見直し、女性コーチの活躍を阻むものがないかチェックする

・コーチを目指す女子・女性や女性コーチに教育の機会を提供する

まだまだ女性コーチが少ない日本では、大会にいるコーチを見てみても、競技団体に登録するコーチの男女比率を見てみても、女性が少ないことがごく自然なこととして受け止められています。しかし、それを当たり前のこととして捉えず、「どうして女性コーチは少ないのだろう?」と疑問に思ってください。そこから、組織の文化や雇用に関わるルールなどを確認し、女性が活動しにくい原因になっていないかを見直してみましょう。

また私の過去の研究では、コーチングに関する知識を得る学習機会によって、女子・女性アスリートが将来コーチを目指すことを促進することが明らかになっています。女性コーチにとっても、直面する課題を解決するために、スキルを身に付けたりコーチングについて学ぶことが有益であると言われています。そのため、女子・女性を対象として学習の場を設定することも、将来コーチになりたい女子・女性を増やしたり、女性コーチがキャリアを継続したりする上でとても重要です。

日本バスケットボール協会では、女性コーチカンファレンスを定期的に開催し、女性コーチの現状を広く知ってもらったり、女性コーチが課題を克服したりするために有益と思われるトピックを学ぶ機会を提供しています。

●身近で活動する女性コーチのために、1人1人ができること

・自分の考えや女性コーチへの評価が偏見に基づいていないか疑う

・女性コーチの現状に関心を寄せる

「女性は〇〇だから」という考えを持っていることはありませんか?「女子・女性選手はコーチになりたがらない」「女性コーチの方が感情的で、女子選手に対し厳しく接する」といった声を現場で聞くことがありますが、果たしてそれは本当に女子・女性の特徴なのでしょうか。もしかしたらそれは、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み・偏見)かもしれません。そのような思い込みを持って女子・女性選手を指導したり、女性コーチに接したりすることで、女子・女性選手が将来のキャリアの選択肢としてコーチを思い描けなかったり、女性コーチが居心地の悪さを感じることにつながっているかもしれません。「女子・女性の特性として当たり前だと思っていたことが、もしかしたら偏見かもしれない」という意識を個人個人が持つことで、社会全体の女性コーチに対する偏見をなくすことの第1歩につながります。

また、これは第2回の記事でも言及しましたが、身近な女性コーチやメディアで取り上げられる女性コーチの現状について、関心を持ってください。身近な女性コーチが日々考えていること、課題に感じていることに耳を傾けることで、身近な人にだからこそできるサポートがあるはずです。小さなことでも良いので、女性コーチを取り巻く環境を改善するためのアクションを起こしていきましょう。

●女性コーチ自身にできること

・様々な機会にチャレンジする

・女性コーチのつながりをつくる

・女子・女性アスリートのロールモデルとなる

学ぶ機会、新しいポジションを得る機会など、コーチを続けていく上で様々な機会と出会うことがあると思います。「私なんかが参加して良いのだろうか…」「私にこのポジションが務まるのだろうか…」と不安になり、挑戦することを躊躇してしまうかもしれませんが、少し勇気を出して、1歩を踏み出してみてください。思い切って参加してみた機会で、思いがけない学びや繋がりを得ることができたり、自分にはレベルが高いと思ったポジションを得ることで、新たな経験を得たり、それが自信につながったりするでしょう。選手と同じように、コーチも学び続けたり、成長し続けたりすることが必要ですので、様々な機会にどんどんチャレンジしていきましょう。

現在、女性コーチはどの競技でも、どの競技レベルでも少ない現状です。そんな中でも、ぜひ女性コーチ同士の繋がりを持ってください。自分とは異なる競技に関わる女性コーチに話を聞くことで、自分の関わる競技特有の課題が見えてくるかもしれません。また年齢の異なる女性コーチの話を聞くことは、年上のコーチが経験したことを知り、自分が今後経験しうる課題を予測し、その解決方法について考えることができますし、年下のコーチと話すことで、自分の経験を伝えることができます。このように、女性コーチ同士が繋がりを持つことで他の女性コーチのためになったり、自分も学ぶことができたりと、コーチとしてのキャリアを継続していく上でたくさんの良いことがあります。

さらに、女子・女性アスリートを指導する女性コーチのみなさんは、選手のロールモデルになりうる存在です。同性コーチに指導された経験は、将来コーチになりたいという気持ちを高めることも明らかになっていますので、女性コーチの存在自体が将来の女性コーチを増やすことにつながります。女性はコーチを続けていく上で多くの課題に直面すると思いますが、ぜひコーチを長く続けて、多くの女子・女性選手のお手本であってください。そして選手引退後のキャリアの選択肢として、コーチを勧めたり、コーチになりたい選手を応援して指導を体験する機会や学びの機会を提供してあげてください。

最後に

全4回の連載を通じて、女性コーチの現状について理解を深めるきっかけになることが出来ましたら幸いです。まだまだ女性コーチの現状について分かっていないことも多く、行われているサポートも限定的ですが、多くの人に女性コーチに関心を持ってもらい、理解を深めることで、様々な場所で環境改善が進むことを期待しています。私自身も、バスケットボールにおける女性コーチ育成に引き続き関わり、他競技のお手本になれるような取り組みをどんどん提案していきたいと考えております。


三倉 茜(Mikura Akane)

金沢医科大学 一般教育機構 体育学助教 日本バスケットボール協会指導者養成委員会(女性コーチ育成担当) 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程修了(学位:スポーツ健康科学)、順天堂大学女性スポーツ研究センター リサーチアシスタントを経て現職。 研究分野は女性コーチ育成、女子・女性のスポーツ参加、スポーツにおける女性のリーダーシップなど。

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