恩塚亨のコーチング哲学 vol.2 成長し続けるためのマインドとは  

公開:2020/11/06

更新:2021/10/12

今、最も注目される指導者の一人、恩塚亨氏の”軸”に迫るインタビューを、3回に分けてお届けしています。今回は、恩塚氏が今、最も重視している「マインドづくり」の核心に迫ります。

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「頑張ろう」と思ってもらえる引き金

──選手と接するとき、最も意識しているのはどんなことですか?

選手自身がどういう状況で、何を考え何を目指しているか、それに対して今何を伝えるべきか、を常に考えています。自分がしゃべりたいことをしゃべるのではなく、選手が求めているものは何なのかということ。

──選手の方々にお話を聞くと、恩塚先生の説明はとてもわかりやすく、肚に落ちる、という声が多かったです。選手への「伝え方」という部分で意識していることは?

相手の立場になって、ということです。こう言ったら、多分こう思うだろうなと考えながら。結果、生産的になることが大事です。選手のビジョンが明確になって、「よし頑張ろう」と思ってもらえる引き金をいつも探しています。

伝える内容は十分に練ります。今年の新入生に対するオリエンテーション資料を作る際も、20時間ぐらいかけました。

『いまを生きる』という大好きな映画があるのですが、この中で、主人公である名門男子校の英語教師が、生徒にこんな問いかけをします。「言葉は何のために発達したのか?」そのときの答えは「女性を口説くためだ」。伝えたい思いがあって、それを何とかして伝えたい、そういう時にどうするか。

私の場合は、感情をそのまま伝えるのではなく、必ず一度書き出して、考えを整理した上で、相手がどのように受け取るかを十分に確認してから伝えるようにしています。ラブレターを書いて、一度も推敲しないで出すことはないでしょう。それに近い感覚かもしれません。

成長し続けるためのマインドをつくる

──チームとして、現在取り組んでいる課題は?

今、一番大事にしたいと思っているのがマインドです。マインドとは何かと言うと、知性に基づいた精神。これが身につくことによって、意識下で自分をコントロールして自身を成長させつつ、良いパフォーマンスができると考えています。こう考えるに至ったきっかけも試合中の経験が元になっています。以前は、プレーのノウハウ(スキル、戦術など)を熱心に指導していたのですが、その教えたプレーを試合で選手たちが行った時のパフォーマンスが、イメージしているものとどこか違っていた。

なぜだろう、と考えて行きついた答えは、「たぶん選手たちは、教えられた通りにプレーすれば求める結果が出るとはわかっているけど、やらなきゃいけない、できなかった時の言い訳ができない。ロジックが明確であればあるほど不安になるのではないか」

「スーパーヒーローになる」というマインド

選手たちは「やらなきゃ」と思ってやっているので、プレーを一つこなすたびに気を抜いてしまう、といった現象も試合中にたびたび起こります。 ここで先ほどの話(vol.1に掲載)に戻ります。

私たちはバスケットを通じて人生をより良くしていく、自身を成長させることを共通目標に置いています。そのために現在取り組んでいるのが、「スーパーヒーローになる」というマインドを各人が持つことです。なりたい自分(=スーパーヒーロー)になるため、自身の成長につなげるための努力を惜しまない気持ちでコートに立つ。そうすれば「やらなきゃいけない」から「やってやるぞ」という方向に変わる。つまり前向きになれる。こうしたマインドでプレーすることで、積極的になれるし、どこまでもやろうという気持ちになれる。この考え方が選手たちに浸透することで、プレーの質が変わってきて、私自身とてもうれしく思っています。


■選手が語る恩塚コーチ その2

木村 亜美 選手】

頭を使う、考えるバスケットを指導していただいています。プレー面だけでなく日常生活すべてにおいて、自分で考えて主体的に行動する。高校時代にそれができていなかったわけではないのですが、考え方が浅かったと感じています。この大学に来て、一日一日課題に取り組む中で、自分自身が成長していることも感じます。
このチームの特徴の一つは、選手たちそれぞれが、その時のチームの課題を認識していることではないかと。課題がわかっているから、練習に無駄がないと思います。 ドリルについては、常に試合の場面をイメージして取り組むよう指導されています。その習慣ができると、一つのパターンから、もっとうまくいく別のアイデアが生まれてくることもあるので、試合でどう使うかを考えながら練習に取り組むことはとても大切だと考えています。

>>> vol.3「バスケットボールとはどんな競技か。原点を突き詰めよう」を読む

>>> vol.1「バスケットボールで人生を豊かに」を読む


恩塚 亨 Toru Onzuka

1979年、大分県出身。バスケットボール女子日本代表アシスタントコーチ、東京医療保健大学女子バスケットボール部ヘッドコーチ、東京医療保健大学准教授。2006年、東京医療保健大に女子バスケットボール部を創設し、並行してアナリスト、テクニカルスタッフとして日本代表チームに関わる。その高い分析力と指導力を生かし、2017年、創部12年目にしてリーグ戦&インカレともに初優勝。その後、インカレ4連覇を達成した。

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