インカレ四連覇 東京医療保健大学女子バスケットボール部の1年を振り返る  

公開:2021/01/15

更新:2021/03/04


2020年12月に行われたインカレで四連覇を達成した東京医療保健大学女子バスケットボール部の恩塚亨ヘッドコーチに、この1年を振り返っていただき、四連覇達成のキーポイントとなった要素をお聞きしました(2020年12月28日収録)

選手の経験不足をどう補うか

──インカレ四連覇おめでとうございます。本日は、前年に三連覇を達成してからの1年間を振り返り、どのようにチーム作りを進めてきたか、といった部分を中心にうかがいたいと思います。今回のチームを強化していくにあたり、大きな課題は何でしたか?

試合経験の少ない選手が多数いることがわかっていました。その部分をどう補っていくか。これが強化上のポイントになるだろうと。それに対して、「選手個々が原則を理解し、適切な状況判断をできるようになること」をコーチングの優先課題としました。選手自身が、その時その時の状況に応じて、自分で考えて適切なプレーを選択できるようにしてあげる、ということです。サッカー界で言う「戦術的ピリオダイゼーション」(岡田メソッドとも言われる)の中でも触れられている要素です。そうした取り組みによって、経験不足を補っていこうと。昨年の正月は『岡田メソッド』(岡田武史著、英治出版、2019)をじっくり読み込んで、今お話したことを考えていました。

──選手たちにも不安は大きかったのでしょうか。

新4年生たちは、2019年のインカレ表彰式では、うれしさよりも不安のほうが大きかった、と後になって語っています。この舞台で、自分たちが様々なプレッシャーを背負ってプレーできるのだろうかと。

理想の未来を描けるように後押しする

──1年を振り返って、ターニングポイントはありましたか?

いくつもありました。大きなターニングポイントの一つは、コロナの影響でチームとしての活動ができなかった時期の出来事です。体調管理の報告を義務付けていたにもかかわらず、それを怠る選手が何名かいました。それに対してかなり厳しく指導したのですが、十分に受け止めきれない選手がいて、人間関係が少しぎくしゃくした時期がありました。

その時考えたのは、こちらが良かれと思って言ってあげても、相手が受け止められない場合もある。もし相手が嫌な気持ちになっていたとしたら、何の意味もないなあ、と。私はその時、彼女を変えようとしていたわけですが、人はそれぞれ考え方が異なり、こちらが思うように、簡単に変えられるものではないです。それに改めて気がつきました。

人は変えられない、という前提のもとに、どうすれば良いコーチングができるのか、という発想に私自身が変わっていきました。

──具体的に、選手に対する接し方をどう変えたのですか。

本人が「変わりたい」と思うような理想の未来を描けるように後押ししてあげる。ただし未来を思い描く時、期待とともに不安も出てきます。期待の大きさに比例して、不安が頭をもたげてきます。その不安の主な原因になっているのは、過去の自分です。ですから過去の自分とは決別して、なりたい自分だけを見よう、そういうマインドセットを目指しました。

マインドセットの効果

──そのマインドセットをすることで、選手たちは変わりましたか?

大きく変わりました。自分から進んでハードワークをするようになりました。個人練習も私が特に指示を出すわけでなく、自分たちで考えて「こうなりたいからこの練習をやる」という形で取り組めるようになりました。

潜在意識は顕在意識よりも2万倍強いと、ある本に書かれています。心の奥底でどう考えているか、が肝心な場面の行動やエネルギー量となって表れてくると思います。「ディフェンスしなきゃいけない」という義務感だけでコートに立っていると、身体的に少し疲れただけで自然と動きが鈍ってしまいます。しかし根底のところで「こうなりたい!」という思いが強ければ、どこまでもエネルギーが湧き出てきます。シーズンが深まるにつれて、選手たちはそのように変わっていってくれたのではないか、と感じています。

──個別に、大きく変わった選手はいますか?

今回のインカレでMVPを獲得した赤木は、前年の決勝の得点は1点でしたが、今回は26点。前年は正直言って、起用するのが怖かったです。本人もミスするのが怖くて仕方なかったと言っています。ディフェンスの対応が遅れていても、また相手の体勢が崩れていたとしても、ディフェンスが目の前にいるだけで怖かったと。

けれども「なりたい自分」を明確にイメージして「こうなるんだ!」と決めて信じてワクワクしながらインカレまでの期間を過ごしたことで、大きく脱皮することができました。前年までプレータイムがほとんどなく、ヘッドコーチからの信頼もない、本人の自信もない。もっと言えば、今回のチームで彼女はポイントガードだったのですが、前年までポイントガードの経験もない。そういう選手がインカレでスタメンで出場し、キャリアハイの成績を残せたのは、すばらしいことだと思います。ちなみに赤木は「レブロン・ジェームズになる」と宣言して、携帯の待ち受け画面もレブロン・ジェームズにしています。

「ワクワクが最強」「心のエネルギーをいっぱいにする」

──この1年間で、ご自身が指導者として成長できたと思える部分はありますか?

これまで私が行ってきた指導は、強くなるため、勝つための道筋を選手たちに理解させ、彼女たちが納得してプレーすることに重点を置いたものでした。しかし今振り返るとそれは押しつけであったと。先ほど言った潜在意識の部分をしっかり作り上げることができれば、選手は十分に力を発揮できることを確認できたと思います。「ワクワクが最強だ」という言い方をよくするのですが、ワクワクを個々の心に植え付けることが、コーチングの重要な肝であることがわかりました。

指導者としての私の仕事は何かと言うと、選手の心のエネルギーをいっぱいにすることだと思っています。その生産性を上げるために、自分は何をすればよいのか。それを選べるようになったのが自分自身で成長を実感している部分です。

今までは、比較的厳しい言葉で選手を引き上げるようなやり方が多かったのですが、仮に私自身がイラつくような場面に遭遇したとしても、その時にどのようなアプローチをすれば選手のエネルギーを上げることにつながるのか、選択できるようになりました。自分自身の生産性が上がったと思います。

インカレを前にした11月頃、ある人から「優しくなったね」と言われました。別の人からは「優しくなったら勝てないよ」とも言われました。この部分は、葛藤されているコーチがすごく多いと思います。でも私は、優しくなろうと思ったわけではありません。生産的になろうと思ったんです。

選手の機嫌を取ったりといったことは一切していません。選手がワクワクするような気持ちになれるように、常に接していました。そうすることで選手たちは成長するし、その姿を見て私も幸せになれるし、普段の人間関係もすごく良くなりました。以前の人間関係が悪かったわけではありませんが、少し距離があった感があります。笑顔で近づいてきて挨拶してくれる、些細なことですがバスケットシューズを履きやすいように準備してくれたりといったことも起こるようになりました。私自身も日々幸せな気持ちで指導できるようになる、私自身も人生が豊かになったと思います。

ワクワクに注目していくことで、選手もコーチも豊かな人生になっていくのではないかな、と。これは、日々葛藤されているコーチの方々にぜひ伝えたいと思っています。

>>> 次ページでは恩塚HCのインタビューに加え、選手へのインタビューも掲載

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