インカレ四連覇 東京医療保健大学女子バスケットボール部の1年を振り返る  

公開:2021/01/15

更新:2021/03/04

言葉の幅と深さを広げる

──ご自身のバージョンアップのためにたくさん読書もされているそうですが。

過去1年だけでも80~90冊ぐらいは読んでいると思います。脳のゴールデンタイムと言われる朝の時間帯に集中して読書をしながら頭の中を整理し、考え方とか言葉を積み重ねていきました。選手たちにも、言葉の大切さをかなり伝えることができた1年間だったと思います。一度、こんな問答をしたとことがあります。

「インカレ優勝したいよね。ではインカレ優勝するために何が必要かを、言葉を使わずに考えてみて」

選手たちは「?」と固まってしまいます。何に気づいてもらいたかったかと言うと、言葉を持っていないと考えることができない、ということです。自分が持っている言葉の幅と深さしか考えられない。だからできるだけ本を読んで、言葉の幅と深さを広げていこうと言っています。

人に何かをしてもらって「ありがとう」という言葉をかけるとき、相手が気持ちよくなるような言い方ができれば、相手に対してエネルギーを与えることができます。また挨拶も相手に対するプレゼント、そういう気持ちでやっていこう、そう話しています。何気ない「こんにちは」という挨拶の中に、「今日も頑張りましょう」というメッセージが込められていれば、それもまた相手にエネルギーを与えることができます。この1年、このような形でチームとしての好循環が生まれていったことを実感しました。今回のチームが到達した一つの成果だと思います。

五連覇に向けて

──新たな一年、五連覇に向けたチャレンジが始まっています。

指導者として最大の仕事は、先ほど言った「選手の心のエネルギーをいっぱいにすること」。これは変わりません。それを達成するためのアプローチとして、考え方・言葉・スキル・戦略・戦術など各要素において、さらに幅と深みを持っていきたいと思っています。

選手たちが自分たちの考え方・裁量でバスケットをプレーできる時間帯を増やしたい。だたし丸投げではなくて、コーチングのセオリーやエッセンスが反映された中で選手たちが自立していける形。その割合を増やしていくことにチャレンジしていきたいです。

──来シーズン、また楽しみに見させていただきます。

ベストを尽くします。

──ありがとうございました。


■選手インタビュー その1  崎原成美選手(キャプテン)

この1年で、人生の財産となる多くの学びがありました

 前年の三連覇の時はうれしさもあったのですが次は自分たちの番が来るというプレッシャーを強く感じました。主力として試合に出ていた先輩たちがごっそり抜けるので、自分たちはどうなるんだろう、という不安のほうが大きかったです。
 新チームのキャプテンに任命されたとき恩塚先生に、プレーを見せて背中で引っ張っていくタイプか、「めちゃくちゃいい奴」としてチームをまとめていくか、という二択を提示されました。それまでのプレータイムが長かったわけではないし、自分の実力とも向き合って出した答えは、自分が「いい奴」かどうかの確信はなかったのですが「いい奴」に成りきることはできるのではないか、ということでした。自分の明るい性格、自分らしさを大事にしてコミュニケーションを十分に取ってチームメイトに良い影響を与えられるように、また恩塚先生ともコミュニケーションを十分取りながら良いチームをつくっていきたいと思ってやってきました。
 コロナで練習ができない期間は、バスケット以外の要素で恩塚先生からアウトプットされてくる学びを、キャプテンとしていかにチームに浸透させていくかが自分の役割だと思っていたので、まずはその学びを自分なりに咀嚼して、言動に表すことを意識していました。確かに大変な期間でしたが、今振り返ると、その時期があって良かったなと思うことのほうが多いかもしれないです。
 私が考えているチームとしてのターニングポイントは、リーグ戦での日体大との試合です。試合には勝利しましたが自分たちが考えているバスケットがうまくできなくて、試合後の雰囲気もあまり良くありませんでした。試合を振り返るミーティングで、恩塚先生から改めて「スーパーヒーローになるというマインド」のお話がありました。これをきっかけに、各選手が自分の仕事を意気に感じ始めたり、やりがいを持ってバスケットをプレーするようになり、その時点からチームの歯車が噛み合っていった実感があります。「楽しい」という雰囲気が出てきたのが、何よりも大きな変化でした。
 「スーパーヒーローマインド」については、私自身リーグ戦での調子が今一つだったこともあって、聞いた当初は正直「何それ?」という気持ちもありました。けれども同じ4年生の赤木らが先にプレーで示してくれて、「あ、これってすごいかもしれない」と。自分たちから出るエネルギーで、試合の流れをどんどん良くしていっている、それを自分で感じられた時に、確信が芽生えました。練習でも、思っていたプレーがうまくできないとヘッドダウンしていた下級生の選手が前向きな姿勢を見せるようになり、そういう姿を見て、私自身良い影響をもらいました。 この1年、たいへんなことも多かったですが人生の財産となる多くの学びをさせていただいたと思っています。今まで、練習はきついと思ったことしかなかったのですが、今シーズンの、特に後半からはチームに対する愛情が強烈に出て来て、きつい練習すら楽しいと思えるし、試合中も皆のエネルギーに感動しながら戦っていました。本当にすばらしい1年だったと思いますし、4年間このチームでプレーできて良かったと、心から思っています。


■選手インタビュー その2 赤木里帆選手

未来を明確に思い描くことにより、自らの行動も変わっていきました

 前年にインカレ優勝した時は、正直、うれしいという気持ちよりも、不安のほうが大きかったです。主力メンバー5人のうち4人が4年生だったということもあり、ガラッとメンバーが変わる、新しい別のチームになることに対して、その時の自分には全く自信がありませんでした。決勝にも出させていただいたんですが1点しか取れなくて。これからどうなるのか、不安しかなかったです。
 新チームのスタート時、恩塚先生から、前のチームで私たちが試合に出られなかった理由を説明していただきました。ビデオを見ながら、1対1の場面で何もできない自分がすごく悔しかったですし、そうした課題にしっかり向き合わないと自分もステップアップできないと。それがきっかけで次に進むという強い気持ちを持つことができました。
 ポイントガードはバスケット人生の中で初めてで不安もありましたが、恩塚先生から期待もしていただいていることがわかったので、その期待に応えたい気持ちでスタートし、実戦経験を積む中で、自分がこのチームを引っ張っていこうという責任感が強くなっていきました。
 「未来は変えられる。なりたい自分になれる」という言葉をいただいた時、それまでの自分には、未来に対する明確なビジョンがなかったことがわかりました。未来を明確に思い描くことにより、自らの行動も変わっていったと思います。他人に対しても良い影響を与える人になりたいとも思うようになり、その時点から、バスケットに対する熱量も増えてきたと思います。すべての言動が後輩たちに見られていることも意識できるようになりました。
 この1年、チームとしてのターニングポイントは、リーグ戦で白鴎大学に負けた試合だと思っています。チームとしてもしっかり準備をしての敗戦であり、自分たちの課題が明確になったし、今まで以上のことをしないと勝てないことがわかり、その後のインカレに活かすことができました。インカレに臨む際は、チームとしても個人としても白鴎に勝つイメージができていて、勝ち進むにしたがい、それが確信に変わっていくのを感じていました。
 このチームに4年間所属しての一番の学びは、打開する力、切り開く力をつけることができたということです。卒業後は上のステージでプレーさせていただくことが決まっています。人に良い影響を与える人でありたいという気持ちを忘れず、見ている人に勇気や感動を与えられるプレーヤーであり続けたいと思います。


2021年1月に弊社で開催した、インカレ4連覇までの軌跡をさらに詳しく語った恩塚コーチのオンライン配信セミナーも大好評でした。前述の『マインド』のお話や、チーム作りのポイントは多くの方から反響をいただいております。カテゴリを問わず多くの指導者から称賛される恩塚コーチから、今後も目が離せません。

(取材:2020年12月28日)


恩塚 亨 Toru Onzuka

1979年、大分県出身。バスケットボール女子日本代表アシスタントコーチ、東京医療保健大学女子バスケットボール部ヘッドコーチ、東京医療保健大学准教授。2006年、東京医療保健大に女子バスケットボール部を創設し、並行してアナリスト、テクニカルスタッフとして日本代表チームに関わる。その高い分析力と指導力を生かし、2017年、創部12年目にしてリーグ戦&インカレともに初優勝。その後、インカレ4連覇を達成した。

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