公開:2020/07/06
更新:2021/02/22
末広 朋也(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ/U-15ヘッドコーチ)
2020年1月11日にジャパンライム・セミナールームで行われたアナリストセミナー第1回「コーチングとデータの融合」の内容を、ダイジェスト版でお届けします。講師は、B1 名古屋ダイヤモンドドルフィンズのU-15チームでヘッドコーチを務める末広 朋也氏です。今回は前編。
末広氏は、日々の練習においては、常に効率(限られた時間で最大の効果を出す)を考えプログラムしています。ゲームや選手の個人スキルの映像をいかにデータ化して練習に反映させるか?
単純な映像分析ではなく、映像をいかにデータとしてとらえコーチングに活かすか、真に時間を無駄にしない練習とはどういうことなのか、が解説されます。
スタッツの種類
■ベーシックスタッツ
一般的なスタッツです。シュート確率2P、3P、リバウンド、アシスト、ブロックショット、スティール、ターンオーバー、ファウル、プレータイム、等は常に集計・公開しています。
ゲーム中も選手に聞かれればリアルタイムでフィードバックできるようにしています。選手は目標値に対してどの程度達成できているかを確認することができます。
■アドバンススタッツ
ベーシックスタッツをもとに、チーム、選手の特徴をより把握するために使われる応用的数値です。最近では時間と距離のトラッキングデータが取れるようになり、NBAでは細かく分析されています。
このアドバンススタッツは無数の項目が存在・設定可能ですが、大事なことは、自分たちのチームがどういう方向性でチームづくりをしているのか、その方針に合わせてスタッツを取捨選択すること。
項目が多すぎると分析する時間が足りません。優先順位をつけることが重要です。
シュートにおける期待値
分析スタッフとして帯同した2017年U-19世界選手権・日本代表チームでのシュート期待値は各エリアで下記の数字でした。
2Pペイントエリア:47%(0.47)×2=0.94点
2Pミドルレンジ:36%(0.36)×2=0.72点
3P:29%(0.29)×3=0.87点
フリースロー:66%(0.66)×2=1.32点
フリースローが最も数値が良く、2Pペイントエリア、3P、2Pミドルレンジという順番になっていますが、これは競技レベルや年代問わず一般的な傾向と言えます。
年代が低くなると2Pミドルレンジの数値がもっと低くなります。
そうした傾向から、ジュニア世代ではペイントエリアへのアタックによって、フリースローの獲得を狙っていくことが重要だという戦略が導き出されます。
ディフェンス側の視点では、よりミドルレンジからのシュートを打たせたほうが有利にゲームを進めることができます。
ちなみに優秀なチームは、先に挙げたシュート期待値が1を超えます。
2016リオオリンピックのアメリカ代表は、以下の数値でした。
2Pペイントエリア:52%(0.52)×2=1.04点
2Pミドルレンジ:46%(0.46)×2=0.92点
3P:33%(0.33)×3=0.99点
フリースロー:69%(0.69)×2=1.38点
チームによって優劣の傾向は出てくるので、それをもとに長所を伸ばす、あるいは短所を改善する方針を考えていくことになります。
ペイントタッチの回数に着目せよ
名古屋ダイヤモンドドルフィンズU-15での、データ活用の実例を紹介します。
フィジカル的にも技術的にも優位な相手と戦う場合、どのような戦略を立てたか、という例です。
某チームとの練習試合。ゲームプランは「自チームペイントタッチの回数を増やし、相手チームのペイントタッチを抑えること」。
ペイントエリアでの攻防の大切さ、そして積極的にアタックすることの重要性を選手たちに学ばせること。
これは年間通して重要なテーマとして追いかけています。そして重要なスタッツとして、ペイントタッチの回数をカウントしています。
当日は2試合行いました。ゲーム1は60対65で敗戦。
ただしペイントタッチの回数では61対33で圧倒的に上回っていました。ゲームプラン通りの戦い方ができていたので、ゲーム2もそのままのプランで臨みました。
結果は、72対57で勝利。ペイントタッチの回数は61対36で相手を上回りました。
ちなみにペイントタッチの定義は、人とボールがペイント内に侵入すること。
選手個人のペイントタッチ数(ディフェンス時の被侵入も含む)もカウントし、オフェンス、ディフェンス時における個人の課題も浮き出るようにしています。
2017年U-19世界選手権での経験から
ペイントリアでの攻防を重視している理由の一つは、2017年U-19世界選手権・日本代表チームのスタッフとして帯同した時の経験です。
ベスト8をかけてイタリアと対戦し2点差で敗れたのですが、この試合ではペイントエリアでの泥臭いディフェンスが奏功して相手に近距離でのシュートを打たせず、この大会で結果的に準優勝したイタリアの得点を57点に抑えたのです。
イタリアとしては、大会を通じて唯一60点以下に抑えられた試合でした。
リスクはありますが、サイズで劣る相手に対して戦う戦略として、ペイントエリアへの侵入を徹底的に防ぐディフェンス戦略に手応えを得ました。