自分の資産を有効に使う

公開:2022/01/21

更新:2021/12/15

人のために貢献する

↑小椋先生が信条にしている「人のために」という言葉は卒業文集のタイトルにもなっている

小椋:私は国語の教員で、毎年生徒と卒業文集を作っているのですが、その文集のタイトルを「人のために」にしています。これは私が今の生活の信条にしていることですね。人のために何か頑張っていると、お互いに気分が良くなりますし、生徒が頑張っている姿を見ると、「応援してやりたい」という思いも自然と湧いてきます。自分が好きで教員をやったり、好きでバレーを指導していたりするので、好きでやっているのなら関わっている人が幸せになってほしいと思っています。 ある本に書かれていたことですが、人生は「学び→稼ぎ→返す」というサイクルでできているらしいです。そう考えると、自分はそろそろ返す時期に来ているのかなとも思います。

本をきっかけに負のスパイラルからの脱却

―これまでの指導経験の中で、影響を受けて方や理想としてきた指導者像というのはありましたか?

小椋:最初の頃は、とにかく練習練習で厳しい指導をしていました。そうすると地元の評判が悪くなって、結果として選手が集まらないという負のスパイラルに陥っていましたね。その中で様々な指導者の方にお会いし、勝負師としては優れ方が多かったですが、人の生きざまとして「この人をマネしたい」と思える人にはなかなか出会えませんでした。悩みに悩んで、私は文学部出身で国語の教員でもありますので、本から何かヒントが得られるかもしれないと思い、ビジネス書の古典的名著と呼ばれるものを読み漁るようになりました。それがとても面白くて、本から学ぶことがたくさんありました。

「マネジメント」で有名なP・ドラッカーは、「ビジネスは最終的には貢献に焦点を当てる」とか「リーダーシップとは権威ではなく責任である」と説いています。それを読んだときに、『確かに自分には大監督のようなオーラやカリスマ性はないな』と。しかし、リーダーとして選手の進路の面倒を一生懸命みるとか、練習に全力で向き合うとか、そういう責任を果たす指導者ならなれるのではないか、ならばそういうことを目指そうと思うようになりました。その一つの形として、いろんな指導者の方から教えていただいたことも含めて自分なりに指導ノートを書き溜めていき、「幸運は準備された心にほほえむ」という自作のバレーボールの教科書も作りました。それを製本して、入学してきた生徒一人ひとりに配るようにしました。そうすると練習も合理的に効率よくできるようになりましたね。

他にも、ジム・コリンズ著の「ビジョナリーカンパニー」など、たくさんビジネス書を読んで、チームマネジメントの大切さを学びました。私自身なかなか結果が出なくて苦しい時期に、マネジメント力が指導者に求められることを勉強しました。

↑小椋先生が自作した指導書

『暖炉の近くに置いておくだけで火かき棒は熱くなる』

―チームをマネジメントしていく上で具体的に気を付けている点はどこでしょうか?

小椋:チーム強化については、優れた専門家の方々がたくさんいらっしゃるので、そういう人たちとの人脈をいかにつくるかということが大切だと考えています。つまり、そういう方にお願いして練習試合をしたり、食事をしながらいろんな情報を聞いたりすることが重要な要素であると感じています。現在では元日本代表やVリーグでプレーしていた方々も高校の指導者として活躍されているので、そういうアッパーグレードの人たちとお付き合して情報を得ることを大切にしています。そのためには、指導者としてのコミュニケーション能力を磨いていくことも大切だと思います。

「暖炉の近くに置いておくだけで火かき棒は熱くなる」という諺の通り、優れた集団の中にいれば、自分も熱くなっていきます。ですから、その世界の優れた人、優れたチームとお付き合いすることはとても重要だと思います。

出来ない理由より、自分の資産を探す

小椋:それから、出来ない言い訳を探さないということです。私は、たいしたバレーボール経験もなく、大学は文学部で体育が専門でもない。出来ない言い訳を探そうと思えばいくらでもあります。ただ、出来ない言い訳を探したところでチームが強くなるわけではありません。そこで、自分にある資産は何だろうと考えました。国語の教員なので、『本を読んだり、話したりすることは、人よりうまくできるのではないか』とか、自分の資産が何かということを考えてそれを有効に使うということが非常に大切だと感じています。ですから、出来ない言い訳は絶対にしないようにしています。

自分はできないと思いこむことを「リミッティングビリーフ」というのですが、自分の中で「もう無理だ」と決めてしまったところには何の進歩もありません。そうではなく、「リミッティングビリーフ」からいかに解き放たれるか、そこから解放されるようになったら意外といろんなことができるようになるのかなと思います。

出来ると信じる

小椋:自動車メーカー、フォードの創設者のヘンリー・フォードの言葉で、「出来ると信じても、出来ないと信じても、どちらも正しい」というのがあります。自分が出来ると思えば出来るし、出来ないと思えば出来ない、ということです。そういう話は、生徒にもよくしています。 生徒と会話をしながら信頼関係を作っていく。高校生は、メンタル面がまだまだ不安定で、ネガティブになってしまう選手もいます。すぐに、「自分には出来ない」とか「自信がない」と考えたり、言ってしまったり生徒には、『それを決めるのは誰?』『自分で限界を決めているだけだから、ネガティブことを絶対に思わないようにすれば変わるよ』と伝えるようにしています。そうすると、生徒も変わっていきます。

↑読んだ本の内容や感想をノートに記録している小椋先生。これまで1,000冊を超えるビジネス書を読んだとのこと。

<取材を終えて>
取材の途中には、60歳を超えてからゴルフを始めて、現在ハンデ16、あと1年後にはシングルプレーヤーになりますよと笑いながら語ってくれた小椋先生。自分自身の可能性を信じ続けて何事もあきらめない。そして、それを生徒にも伝えていく。心と心の繋がりでチームを作り上げていくスタイルは、競技や種目に関係なく指導者に求められる要素の一つではないでしょうか。今回のインタビューを通して、私自身も「自分の資産とは何か?」を考えるきっかけをいただきました。今回の記事が、皆様ご自身の指導や生き方を振り返り、見直すきっかけになればうれしく思います。 (担当:大野)

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