スペシャル対談 ワクワクで人生を豊かにするために【その3】

公開:2021/07/09

土井寛之(株式会社SPLYZA代表取締役) × 恩塚亨(東京医療保健大学女子バスケットボール部ヘッドコーチ)

「ワクワク」をキーワードとしてそれぞれの分野で実績を挙げ、注目を浴びているお二人の対談です。スポーツチームがパフォーマンスを挙げるために、そして、人生を豊かにするための思考法について、縦横無尽に語り合っていただきました。今回連載第3回です。(対談はオンラインにて2021年5月31日に収録)

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解けるかどうかわからない問題のほうが面白い

司会:ここからは、自身だけでなくチームとしてワクワクを共有して目標達成に向けて突き進む際の、経験談等をうかがいたいと思います。

土井:私からは2つお話しします。1つめは、現在の会社の共同創業メンバーを誘った時の話です。会社員時代の後輩を何人か誘いました。現在、研究開発の責任者をやってくれている人物に声をかけた時、彼は会社員として順調な歩みを続けていて給料も上がり、出世コースも見えてるんですよ、家を買おうと思っていたところです、という反応でした。これはまずいな、と思った私は数秒考え、そういえば彼も数学科の出身で解いたことのない問題が間違いなく好きだろうと想像できたので、「出世コースに乗るのは、すでに解けている問題。私と一緒に起業するのは、解けるかどうかわからない問題。どちらが面白いか?」と問いかけて、メンバーに加わることを決めてもらいました。

もう1つは、今の会社で提供させていただいているSPLYZA Teams(スプライザ・チームス)の立ち上げ時の話です。創業時のメンバーは皆スポーツが好きで、自分たちも長くプレーしてきた経験を持ちます。自分たちの視点でスポーツ現場で必要と思われるものを作ったのですが、当初は、お客様に受け入れてもらうことができませんでした。そこで改めて気づいたのは、自分たちはユーザーではないこと。ユーザーとなっていただける方々に、必要とされるサービスを提供しなければならないと考え、地元浜松市のサッカー指導者の先生方から、現場の課題についていろいろとお話をうかがいました。その場で、自分たちでは全く気づかなかった課題を発見することができた。それを解決するサービスへ大きく方向転換したところ、先生方も感動してくださって、導入していただけるようになりました。この経験をしてから、常にユーザーを主語にして、ユーザーの課題は何なのか、ユーザーが欲しいものは何なのか、という思考方法をするよう、すごく意識しています。

恩塚:これから、ますます価値ある商品が開発されそうですね。

土井:競合商品とは違う特色を持っていないと使っていただけないので、ユーザー側の事情をしっかり理解しなければいけない、そう強く思っています。

なりたい自分になろうとするマインド

司会:恩塚先生、チームとしてのエピソードをお聞かせください。

恩塚:私たちは「なりたい自分になろう」をチーム全員の共有テーマとしていて、それを実現するための主軸となる考え方を設定しています。Growth MindあるいはGrowth Mind Pleasenterと呼ぶ概念で表現しているのですが、成長志向で人にエネルギーを与える生き方をしていこう、と。

今年の3月24日に東京医療保健大学で「今のバスケット界に広めたいマインドセット発表会 ~成長につなげるマインドセットとは」と題するイベントを開催しました。WリーグENEOSサンフラワーズの渡嘉敷来夢選手や日本バスケットボール協会技術委員会スポーツパフォーマンス部会長・佐藤晃一氏らにもご登壇いただき、多数のメディアお招きして私たちが実践してきたマインドセットとチーム成長の歩みについて発表しました(注:イベント詳細はこちらにて詳報しています)。主将を務める学生にもプレゼンの機会を与えたのですが、そのイベントの後、1年生あるいは2年生の学生から、「私もプレゼンしてみたい」という声が出てきたのです。自分たちが学んだこと、経験したことを発表して誰かの力になりたい。たとえプレゼンがうまくいかなかったとしても、それを糧にして成長したい、つまりGrowth Mind Presenterを実践しようという意欲の表れです。

この提案を受け、先日インスタライブでバスケットとマインドセットをテーマにしたイベントを実施し、300名ぐらいの方に視聴していただきました。企画から実行まで、すべて学生だけで行いました。これは自分たちがワクワクしているからこそ、実現したことではないか、自分たちが満たされているからこそ人に与えたくなるという心理を象徴していると思います。

重要なのは大人の自己肯定感

土井:「なりたい自分になろう」は、素晴らしい考え方ですね。そのような思考ができる人は少なく、どちらかというと今の自分に視点が行きがちで、今の自分がやりたいこと、やりたくないことばかり考えてしまう。「なりたい自分」はそれを突き抜けた思考だと思います。学校教育の中で、小学生ぐらいから取り入れてほしい。

恩塚:がんばらなきゃいけない、とか、力がないから努力する、といった思考ではなく、なりたい自分に向かって生きていこう。このマインドを目指しています。これからのスポーツ界ですごく重要になるのは、大人の自己肯定感ではないかな、と思います。指導者自身が、なりたい自分を思い描き、ワクワクできているかどうか。

有名コーチ、外国人コーチを前にすると萎縮してしまう人が多いです。相手に敬意を表すること、謙虚であることはもちろん重要ですが、自己肯定感を下げることは違う。謙虚でありつつも、自己肯定感をしっかり持った大人は、子どもたちに良い影響を与えることができると思います。

スポーツは問題発見能力と問題解決能力を養う

司会:そろそろ、本日の締めとなるテーマに移りたいと思います。土井さんがスポーツ界を主なマーケットとしてビジネスをしていらっしゃいます。スポーツ界を外からご覧になっていて、今後の課題のようなものは何か感じていますか。

土井:26歳でウィンドサーフィンと出会い、自分なりに真剣に取り組んできました。最初に気づいたのは、スポーツは正解のない問題であること。私は考えることが好きなので、その題材としてめちゃくちゃ面白いな、と。スポーツの教育的価値はよく語られるところですが、まだ十分認識されていない部分もあるのではないでしょうか。正解のない問題に取り組むこと、これは社会人になれば常に直面する課題です。世の中、ほとんどが正解のない問題です。問題発見能力と問題解決能力が求められます。この二つの能力を養うために、スポーツの価値は非常に大きい。他に代わるものがなかなかない、特別な価値がスポーツにはあると思います。私たちのビジネスを通じても、この価値を高めていきたいです。

恩塚:今のお話を聞いて、スポーツは人生を豊かにしてくれるツールとして扱えるのではないか、との可能性を感じました。テニスの大阪なおみ選手のコーチの言葉、「テニスの中に人生があるのではなく、人生の中にテニスがある」に感銘を受けました。人生を豊かにするためにスポーツを使っていければよいのではないでしょうか。土井さんのお話にあった問題発見能力と問題解決能力は生きていく上で大きな力になり、私たちも大事にしたいと思す。

自分は背が低いとか、足が遅いとか、選手それぞれが持つ弱点をどのようにカバーして、各々のスポーツのパフォーマンスに結びつけていくか。自分の特徴、特にマイナス面を理解したうえで自分を活かせる方向性を見つける、チームの中で貢献できる部分を見つける。スポーツでこのような経験をすることで、社会に貢献できる人に育っていけると思います。自己肯定感が上がるように自分の特徴を使っていけるような経験をスポーツが提供できれば、素晴らしいですね。何でもいいから「私ってイケてる」という経験を増やしてほしい。

「好き」を突き詰めれば、自分しかできないものになる

土井:社会に出ると、オールラウンダーよりも一芸に秀でた人材が求められます。私にとってバスケットと言えばSLAM DUNKなんですが、登場人物の一人である桜木花道。彼はリバウンドだけは誰にも負けない能力を持っています。自分はこれしかできないけど、これだけはすごい、と言えるものを身につけること。身につけるための原点は、「好き」を突き詰めることです。好きを突き詰めれば、必ず自分しかできないものになっていくはずです。その得意分野が組織に足りない部分とマッチすれば、唯一無二の存在になれます。

恩塚:自分の将来につながる話。ぜひ中高生に聞いてほしいですね。

土井:今の中高生にもSLAM DUNKを読んでもらわないといけない(笑)。

司会:本日は長時間、すばらしいお話をありがとうございました。

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