井手口孝監督インタビュー「カテゴリーを超えて、根幹をつくる指導が必要」

公開:2020/07/06

更新:2021/02/22

日本の高校バスケットボール界を牽引する福岡第一高校男子バスケットボール部。多くのプロ選手を輩出してきたチームで、チーム立ち上げから指揮を執るのが井手口孝監督です。学校の教員として、バスケの指導者として、多くの選手を指導してきた井手口先生が今日本のバスケットボール界に感じていることとは!?

バスケットボールジャンプ(以下 BJ):本日はよろしくお願いします。井手口監督とは、我々とは非常に長いお付き合いになりますね。

井手口孝監督(以下 井):そうですね。中村学園女子高校でACをしていた時代に、中村和雄さんのDVDや海外の指導DVDを購入したのが始まりかな。

BJ:その後、弊社が企画したアメリカへの指導ツアーにご参加いただきました。

井:前年に今福岡大学の監督をしている小牟礼さんが参加されて、「良かったから行った方が良いよ」と言われて。1992年の年末~1993年の年始にかけて行かせていただきました。福岡第一に移る前で、30歳になる前に独り立ちしたいなと思って学校を離れる決心をした時期でした。中村学園女子がウィンターカップに出場していたので、途中でチームを離れて参加しましたね(笑)

BJ:実際にアメリカに行かれてみていかがでしたか?

井:NBA、NCAAや中学校、ハイスクールの練習を色々見させてもらいました。今思えば、「アメリカに行った!」ということぐらいで、具体的に覚えていることはあまりないんだけど、当時セントドミンゲス大で指導されていたデイブ・ヤナイコーチのクリニックを見学しまして※。その時に、デイブ・ヤナイというコーチの存在を知ったんです。それがその後のコーチ人生の中で非常に大きかったですね。

※デイブ・ヤナイ氏はその後、福岡第一高校でクリニックを実施(2004年刊のDVD『デイブ・ヤナイ(Cal State L.A.)のMAN-TO-MAN DEFENSE』に収録)するなど、井手口先生の指導に大きな影響を与えた。

男子はトップレベルも含めて「心」と「技術」を伸ばす指導者の育成が必要

BJ:長年指導をされている中で、日本バスケットボール界の変化をどのように感じておられますか?

井:女子に関しては、1976年のモントリオールオリンピック、その前年の1975年の世界選手権で銀メダルを獲得したときから、大きくは変化していないのではないかなと。そのころから質の高さ、レベルを維持しているような気がするんですね。今のWリーグはかなりのレベルですし。ミニから大学、Wリーグまで、女子のバスケットは世界のトップレベルにいるのではないかな。コーチ陣の質、選手の頑張りが継続して受け継がれているのではないかな思っています。

男子は、日本リーグからbjリーグ、Bリーグと変遷してきましたが、根幹的なものはあまり残っていないのかなと。高校レベルというと、20年前は能代工業はじめトップの有名校に一極集中して、そこから強豪大学や日本リーグに行って、という人が多かった。10年前くらいから、うちも含めて留学生を入れ始めて、それが少しバラけてきて、地方のチームにもチャンスが広がってきている。そういう意味で男子は変わっているかな。女子はそこがあまり変わっていないような気がして。そこがトップへつながってきたときに、良いか悪いかはわからないけれど、女子には揺るぎないものがあって、男子にはそういう軸がしっかりしていないのかなと感じてます。

全国の決勝でも、女子と男子のバスケットのレベルが、同じ高校生でありながら「こんなに差があるのか」と感じている。それは日々の指導のレベル、バスケットの質の差かなと。なので、男子はトップレベルも含めてコーチを育成していかないといけないですね。 女子がアジア、世界で通用しているのは、「献身的」で「努力を惜しまない」姿勢が中学、高校時代からやれているチームが多くて、それが日本の強みになっているからだと思うんですよね。男子でもそういうものを作っていかないといけないかなと感じてます。

BJ:男女でそうした差が生じている要因はどこにあるのでしょうか?

井:そうですね。まぁたまたまそういう資質を持った指導者が女子に流れてしまったのかも知れないし。例えば男子でいえば、佐藤久夫先生のように「バスケットボールへの探求心」を持って子供たちを鍛え上げている、心と技術を練りに練っていくという指導者がもっと出てきてほしいなと思いますね。アメリカナイズ、ヨーロッパナイズされるのはある部分では良いことなんだけど、日本人の特性を考えたときに、なくしてはいけない日本人らしさが必要で、そういう考え方をする指導者が増えてほしいなと思いますね。

子供たちは変わらない、周りの大人と環境が変化しただけ

BJ:長年指導されている中で選手の「性格・人間性」の部分で変化してきたなと思うところはありますか?

井:僕は、子供たちは変わっていないと思っているんです。変わったのは大人と子供たちをとりまく環境。学校と保護者の関係も変わってきて、先生たちの見られ方も変化しているし、保護者の子供たちとの関わり方も変化している。でも、子供たちの根本は変わらないかな。福岡第一に来ている子たちは、たまたまかもしれないけど、苦しいことや厳しいことを嫌がらない、昔気質の選手が多くなっている気もしないでもないです。

BJ:いわゆる根性のある選手が増えているということですね

井:もちろん、こちらも無意味に厳しい練習を要求をするのではなくて、科学的な根拠を示しながら、その中で練習時間や休みを設定してやっています。昔は、罰を与えてやらせてたりして、罰を受けたくないから頑張るみたいなところもあったかもしれないけれど、今は、「自分の将来ために」「仲間のために」、と頑張れる選手が増えているのではないかなと感じてます。

BJ:今の指導スタイルはどのように作り上げたのでしょうか?

井:そこは自分なりに、いろんなものをかじりながら勉強したという感じですね。例えば、トレーニングについて勉強した。そこでトレーナーの人、それを専門で勉強している人と出会って、じゃあトレーナーたちに任せて指導してもらう方が良いなと。でも、それは僕自身が勉強してたからできたことなんですね。

僕は、自分が高校生のときから、先生がいなかったので練習を考えたりしていた。本当に右も左もわからないところから、いい指導者の方と出会いながら勉強してきた。その中で、自分が経験した、勉強したからこれがいいではなく、いいものやいい人に出会ったときには、それは迷わず取り入れる。まだまだ今でもアンテナを張りながら、自分が勉強することを忘れずに指導に取り組んでいます。

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