公開:2020/07/06
更新:2021/02/22
誰でも日本一になれるチャンスはある
BJ:今、若い指導者の方々に伝えたいことはありますか?
井:僕たち指導者は「運」なんですね。例えば、普通の県立で精一杯もがいて最大限やったとしても、練習時間やリクルートなどいろんなことができない中で、結果としては日本一になれないかもしれない。でも、僕が思うのは日本一になった指導者が日本一の指導者ではないということなんです。日本一になれる環境を与えられた、もしくはそういう環境を作った指導者が日本一になれる。特に、中学校・高校年代はそうですよね。これは日本一ではなく、県で1番、市で1番とも置き換えられると思います。なので、勝っている指導者は勘違いをしない方が良いと思います。もしかしたら、県の1回戦で負けている指導者にも光る指導者がいるかもしれません。今、勝った負けたということだけが本当に自分の力ではないということを考えなければならないと思います。
BJ:特に注目している、すごいなと思う若手指導者の方はいらっしゃいますか?
井:今は男子の指導者としか相まみえないので、すべてがわかっているわけではないですけど、福岡で一緒に切磋琢磨させてもらっている大濠高校の片峯先生。良い環境のなかで、彼自身もしっかり勉強して指導されているのではないかなと思います。あと、我が教え子なのであまり褒めてもいけないかもしれないけど、飛龍高校の原田祐作先生。もともと強かった学校が、強化をしなくなった中に入って行って、失礼な言い方かもしれないけど、決してめぐまれた選手がたくさん入学しているわけではないけど、よく鍛えてよいチームを作っているなとは思っています。女子は東京医療の恩塚先生や白鷗大の佐藤先生かな。選手としての実績はなかったけど、コーチとして腕を磨かれて。実業団のアシスタント、ナショナルチームのサポートなど様々な経験を経て今ヘッドコーチになられてますよね。
僕もそうだし、桜花学園の井上先生や岐阜女子の安江先生なんかも、選手時代には日本を代表するような選手ではなかったけど、指導者として偉大な成績を残されてきた。逆にいうと、失礼な言い方かもしれないけど、誰でも日本一になれるということですよね。これからを目指す指導者の皆さんには、「だれでも日本一になれるよ」と伝えたいですね。ただ、それは大変な道であるということは間違いないですが。
BJ:そうした中で日本一になるためには、何が必要なんでしょうか?
井:「日本一になる」と思うことなんですね。「日本一になる」という思いからおりてくるんです。そのためには環境を変える必要があるんですね。環境を変えるというのは、周りの人に認めてもらうということなんです。何を認めてもらうかというと、自分自身と選手たちなんです。バスケット部が頑張っている、先生も学校の中での仕事もちゃんとしている、じゃあ認めてあげようかと。例えば小さな話かもしれないけど、部費を1万円、2万円上げてあげようかとなる。そういう小さなことがすごく大切なんですよ。
僕なんかも当初は体育館を使わせてもらえませんでしたが、使えなくてもバスケ部で体育館を掃除したんです。そうすると、そんなに一生懸命掃除してくれるなら、バレー部が使わないときに使っていいよとか、空いてるときに使っていいよとなっていった。今の福岡第一を知っている人は、環境が整っていて勝って当たり前だと思うかもしれないけど、そういうところからの積み重ねで今がありますから。
何もしないで、みんな平等に使わないといけないから仕方ないなと思うより、地道なことで環境を変えていく。若い指導者の方には、そういうことを求めて、目指してほしいなと思いますね。
BJ:大きなことに目を向ける前に、小さなことから地道に積み重ねていくことが大切なんですね。
BJ:最後に、井手口監督の今後の目標を教えていただけますか?
井:何年ここでやれるかわかりませんが、福岡第一でやらせてもらえるならここでやろうかなと。若い指導者も育成していかなければいけませんし。今、若い指導者が3名いるので、彼らを何とか育てながらと思ってます。
あと、体育館を作りたいですね。体育館というかバスケットコートだな。小学生からおじさん、おばさんまで使えるような。そこで、プロの練習も見れる場所を作りたいですね。宝くじでも当たらないかなと思っています(笑)
(取材:2020年6月)
日本体育大学卒業後中村学園女子高校へ赴任し、女子バスケットボールのACとして全国優勝を経験。1994年に福岡第一高校へ移り、同年に創部した男子バスケットボールの監督に就任。ゼロからチームを築き上げ、2004年にインターハイ初優勝。2019年のウィンターカップを含め夏冬計8回の全国優勝を達成している。大学、Bリーグで活躍する選手も多く輩出。日本高校バスケ界を代表する指導者のひとり。