公開:2021/04/09
講師:鹿屋体育大学女子バスケットボール部 木葉一総監督、島川帆乃花さん(学生コーチ、アナリスト班班長)
全5回シリーズで行われたオンラインセミナー「実践例から学ぶ映像分析の活用法」の最終回「練習の精度を高める映像によるリアルタイムフィードバック」から、内容を抜粋して紹介します。この日の実例は、鹿屋体育大学女子バスケットボール部。映像活用によって日々の練習がどう変わったか、という話を中心に展開されました。
司会:本題から入ります。鹿屋体育大学ではSPLYZA TEAMS(スプライザ・チームス)による映像分析をどのように活用されていますか。
木葉:一昨年まで、映像分析はスポーツコードというアプリを使って、試合の分析を中心に行っていました。例えば対戦相手の試合映像を見て学生スタッフが戦術分析を行い、その後プレーヤーの含めてチーム全体で情報共有するという流れでした。しかし、作業に手間と時間がかかるという問題点がありました。
大学側が推進するTASS(Top Athlete Support System)というプロジェクトの一環で予算をいただけることになり、SPLYZA TEAMSを導入することになりました。本学の学生は教員志望者が多く、卒業後に指導者、また教員として現場に入っていく上で必要な観察力・分析力・表現力等を磨くためにSPLYZA TEAMSは有用であると考えたのです。
導入の第一目的としては、ゲーム分析をメインに行って、チームの競技成績につなげることでした。しかし昨年はコロナの影響で年間試合数がトータルで7試合しかなく、分析対象が極端に少なかった。なおかつ体育館の改修工事もあって本来のコートが使えず、練習環境もかなり制限された状況でした。そこで、練習の質を効率を向上させるためにSPLYZA TEAMSを活用できないものか、という発想が出てきました。それをどのような形で行ってきたかについて、実務を担当してきた学生コーチの島川から、説明させていただきます。
島川:練習前は撮影機材の準備をするとともに、練習中にLIVEタグ(※)をつけていく項目を選定します。そして練習が始まると、学生スタッフの1人が体育館の2階から俯瞰映像を撮影し、フロアにいる別のスタッフがリアルタイムでタグ付けをしました。LIVEタグをつけていくメリットは、練習後に動画をアップロードしたタイミングで、すぐにプレーヤーが見ることができるという点です。
アップロード後には、プレーの改善点等について、アナリスト班が細かく図形やコメントを書き込んでいきます。プレーヤーは4~5人のグループに分かれて、その日の担当グループがさらに書き込みを行います。担当以外のプレーヤーも、自分がいいなと思ったプレーには積極的に書き込むように促していました。プレーヤーの書き込みを読むのが、私たちアナリスト班としてはとても楽しかったです。最後に、監督からの書き込みが行われます。ここでは改善点を主に指摘していただきますが、練習中には言われなかったことも多々あり、新たな気付きにつながるので、このルーティンはとても有意義であったと思っています。
ここで、皆が書き込んでくれた動画を共有したいと思います。左肩に「ボールサイド④」というタグが入っています。これは、この練習を行っている時にボールサイドに4人が寄るように指摘を受けていたので、LIVEタグで「ボールサイド④」と入力したものです。それに呼応して、プレーヤーがたくさんの書き込みをしてくれた実例です。
※LIVEタグは、他のアプリにはないSPLYZA TEAMS特有の機能で、撮影しながら映像にタグ付けしていくことができる。
木葉:このような取り組みを通じて一番良かったのは、チーム内での共通理解が深まったことではないかと思います。先ほど例に出た「ボールサイド④」の場合でも、この用語が意味するところがチーム内で十分に共通理解されていたかと言うと、これまではやはり不十分なところがあった。SPLYZA TEAMSを使うようになって、個人技術・チーム戦術・動きのポイントなどすべての項目において、理解が深まったということがチーム内アンケートの結果からも明確に出ています(下図参照。メンバーの1人が卒論でアンケート調査を行った)。それともう一つ、チームメイトがどんなプレーをするのか各人の特徴がよくわかるようになってきた。「こういうタイミングでドライブをしたら、○○さんは必ず飛び込んでくる、あるいは外で待つ」といった特徴をお互いに把握することで、プレーの質が上がったということは言えると思います。
ただ、その効果には個人差も当然あります。このようなツールを使う際の温度差がどうしても発生する。今後、競技成績の向上につなげていくには、プレーヤー個人の取り組み方を改善させていくことが課題であると考えています。
島川:アナリスト班の立場で昨年の取り組みを振り返ると、プレーヤー同士で良いプレーや改善点を指摘し合っている姿がよく見られたことで、練習後のアップロード作業が日々ある中でも、私たちもやりがいを感じました。また、現在のチーム状況を客観的に観察することができたと思います。一昨年まで、分析は対戦相手のスカウティングが中心でした。今回SPLYZA TEAMSを使うことで自チームの状況をよく知ることができました。さらに、練習中のキーワードを書き込むために、誰よりも集中して監督の話を聞いていたりしたので、私たち自身の戦術理解度が向上したことを実感しています。
木葉:SPLYZAの動画を見て、翌日の練習前にプレーヤーから質問が出るようになりました。このようなコミュニケーションが増えたことは実感しています。選手は基本的に受け身であるわけですが、能動的な側面を引き出せていると感じています。
さらに私自身は、視点の違いによる新たな発見がありました。普段はフロアに立って練習を見て、気になったときに止めたりしています。映像は2階から撮影した俯瞰映像です。それを見ると、私が練習中に指摘していたことは間違っていたな、と気がつく場合もありました。翌日、「ごめんなさい、あれは違ってた」と言えるようになりました(笑)。
司会:このセミナーで過去に登壇した指導者の方々が共通して指摘していたのは、選手自身が映像に書き込みを行うことでチーム内のコミュニケーションが活発になったり、バスケットボールに対する理解度が高まったりという効果です。鹿屋体育大学の場合もそれはあったようですが、導入時のハードルとして選手側に「面倒だなあ」といった抵抗はありませんでしたか?
選手A:分析は難しそうというイメージで、当番制で練習後にタグ付けや書き込みを行うのは面倒だなあという思いは確かにありました。でもスマホを使って比較的簡単に操作できることがわかり、なおかつ実際に作業をやっていくうちに、練習中に言えなかったこと、例えばプレーを褒めたりとか、改善点を指摘したりとか。コミュニケーションツールとして活用できることが分かって、今では利用価値を感じています。
島川:導入時、皆から戸惑いの声はありました。始めてからしばらくの間、書き込み作業が途中で止まってしまう、ということもありました。でも書き込む楽しさと言いますか、褒めてもらえるとうれしいので、次は誰を褒めようかといった良い循環が生まれ、次第に慣れてくると、こちらから促さなくても作業が流れるようになりました。
司会:木葉監督にお聞きします。もし指導対象が高校生以下だったら、どんな映像分析の利用をしますか?
木葉:タグをどれだけ簡素化できるか、が一つのポイントではないでしょうか。初めはGoodだけにするとか。褒められた後であれば何か指摘をされたとしても聞ける。最初から細かいダメ出しが出ると、選手は参加したくなくなるでしょう。
司会:競技は異なるのですが、サッカーの某チームでは、タグ付けに気乗りしない子もたくさんいるので、Good Playだけのタグ付けに徹しているそうです。やはり、そこから入るのがよいのかもしれません。本日はありがとうございました。
▼「実践例から学ぶ映像分析の活用法」各回レポート
>>>【第1回】分析ツールを使った、選手による自チームの振り返りの実践と効果
>>>【第3回】 ウインターカップ中のリアルタイムフィードバック
>>>【第4回】高校年代における映像を活用したスカウティング