公開:2021/05/07
更新:2021/05/10
株式会社SPLYZAアナリスト・鈴木元気
2021年2月末から全5回シリーズで行われたオンラインセミナー「実践例から学ぶ映像分析の活用法」では、全国から多数の指導者の方々にご参加いただきました。このセミナーで司会を務めた株式会社SPLYZAのアナリスト鈴木元気氏に、総括記事をご執筆いただきました。
今回のセミナーシリーズでは、豪華講師陣をお招きし、各回異なるテーマに沿って、たくさんのお話をいただきました。講師の方達にあった共通部分や、大事にしていたものなど、全5回を通して見えてきた育成年代における映像を活用するメリット、ポイントを4つの視点からまとめ、紹介していきたいと思います。
目次
全5回のセミナー講師
「映像を見る」ことによる最大のメリット
練習や試合を撮影し、映像を活用する上で最も大事なことは「映像を見るメリット」です。これがなくてはやる意味もありません。逆に言えば、これを知ると撮影したくなること間違いなしです。
まず全ての回で共通していたものは「映像を見ることによって、イメージが共有しやすい」でした。これが映像の大前提であり、最も大きなメリットです。講師の方々も実際に言及していました。
▼石川奈美先生
映像だからこそ理解できる内容がある。私が伝えたい「ボールを出すのが遅い」も、どのくらい遅いのか、を伝えられる。映像は証拠。(生徒は)やっていると思っていることがある。目で自覚、理解することはとても大事。
▼鈴木良和さん
映像を使って具体的に現象を確認していけるので、言葉で説明する以上に、どういう形で(チームとして)やろうとしているのか、というイメージを共有しやすかった。
▼遠香周平先生
スタッツだけでなく、実際に映像を見ることが大事。「このタイミングでリバウンドに来るなぁ」とか「1対1にこんな特徴があるなぁ」とかは(映像で確認したから)理解できていた。
▼稲葉弘法先生
(スカウティングに関して話されている場面で)視覚的に、映像として見るということで、学びをより深めていける。
▼原田裕作先生
映像を見ながら「こういうときは、こういうローテーションにしよう」と言うと反応が良い。練習中、試合中に「ここはこうだよ」と言われても、生徒は終わったら「あのとき何か言われたな」となってしまう。またそのシチュエーションが分かっていなくて、その場で伝わりきらないこともある。映像でフィードバックすることでそれを解消できる。
木葉先生も特別言及したわけではありませんが、それを前提とした大学生に対する指導をされていました。
ここで語られている映像活用のメリットは、いわば当たり前です。皆さん理解していると思います。しかし、試合を撮影していても、それを活用できていない方もたくさんいると思います。今回登壇した講師の方々は、実際にチームで活用しているからこそ、より「映像を見る」ことのメリットを感じているのだと思います。
SPLYZA Teamsを使う3つのメリット
講師の方々は映像をただ見るだけでなく、SPLYZA Teamsを導入し、一歩進んだ映像活用をしています。
SPLYZA Teamsは従来の映像分析ツールのように先生やコーチ、アナリストだけが利用するツールではありません。選手/生徒が各自の端末から、自分たちで映像を編集、活用するツールです。本に付箋紙を貼るように映像に「タグ」という目印をつけたり、各自が映像を見て考えたことを映像に直接書き込むことができます。
では、講師の方々から感じた「SPLYZA Teamsを使うことのメリット」を紹介いたします。SPLYZA Teamsを使わずとも参考になる考えがたくさんありました。
▼SPLYZA Teamsを使う3つのメリット
1) 映像の共有が何より簡単!
まずここに皆さんが良さを感じていました。これにより、「映像を見るメリット」を最大限に活かしていました。SPLYZA Teamsは共有が簡単です。一度映像をアップすれば、チーム全員がいつでも自分のスマホやタブレット、PCから見ることができます。
「今までは生徒が映像を触れもしないし、手元で見ることもできなかった。連戦で休まなきゃいけないときもさっとミーティングして、各自で映像を確認することができた」(遠香先生)
「体育館の使用時間も限られている中で、すきま時間や帰宅後に各自で映像を見ることができる」(石川先生)
「試合会場に着いてからも生徒は映像を確認している」(稲葉先生)
他にも、セミナーの事前打ち合わせでは、「SPLYZAの中だけだから外部に漏れる心配もない」という声もありました。講師の方々が今までのキャリアで抱えていた「映像共有の手間」「集まる時間が勿体無い」「動画共有サイトでの情報漏れの心配」をSPLYZA Teamsで解決していたようです。
2) イメージ、コンセプト、選手間の理解が深まる
「映像を見る」だけでなく、SPLYZA Teamsでのタグ付け、書き込みによって、共通理解が深まることを全員が感じていました。
浜松開誠館中学校女子バスケットボール部の石川先生の、とても印象的なお話を紹介します。
石川先生はSPLYZA Teamsで「とにかくストレスが減った!」そうです。このストレスとは全コーチが抱えているであろう「伝わる伝わらないのストレス」です。浜松開誠館中女子バスケットボール部では、部員全員がアップされた試合映像に対して、各自でその試合の自身の振り返りを映像に直接書き込んでいます。そして、石川先生も気がついた部分に対して書き込んでいます。その繰り返しでストレスがなくなっていったようです。
▼「伝わる伝わらないのストレス」が減る流れ
上記のような流れでストレスが減ったそうです。「これは映像のほうが伝わるかな?」など指導の選択肢も増え、映像活用を直接指導の補助とされていました。練習の質も向上し、結果として競技力向上にも繋がっているそうです!
また鈴木良和さんはタグを使ったことでコンセプトの理解が深まったそうです。チームで「2ウェイクローズアウトをせず、1ウェイクローズアウトをすること」を掲げました。そこで(2ウェイクローズアウト)というタグを、選手が自分たちの試合にタグ付けをしました。(2ウェイクローズアウト)というタグをつけるには、2ウェイクローズアウトを理解していなければつけられません。最初はコーチがサポートしながらタグ付けしていきましたが、徐々に自分たちでタグをつけられるようになりました。またそこに(イイね👍)というタグも用いて、1ウェイクローズアウトをできたときには(2ウェイクローズアウト)と(イイね👍)のタグをどちらもつけていました。何がいいのか悪いのかを理解していなければ(イイね👍)をつけられません。もし(イイね👍)がついていて、実際は良くなかった場合は選手が理解していない部分を理解することができ、指導に繋げていました。
鈴木良和さんは実際にこうおっしゃっていました。
子どもたちが(タグ付けを)やった方が良いと思う理由の一つは、タグを付けるにはそのプレーを理解しないといけないから。タグを付けることそのものがチームのコンセプトの理解を深めることに繋がったと思う。価値があった。
大学生でも同様にタグから共通理解を深めていました。鹿屋体育大学女子バスケットボール部も「ボールサイド4」という、チームの約束事や特定のプレーのタグを使っていました。プレーをタグにすることで選手が単語を理解するようになったそうです。バスケットボールは用語も多く、またチームによっても違います。タグのついた映像を見ることで「これが〇〇なのか!」と理解することができます。さらにここに書き込みもあれば理解しやすくなります。共通言語があることは非常に大事で、選手間、選手−指導者間で意思の疎通がスムーズになります。試合中、練習中の指導で、効率化が図れるはずです。
3) 選手、生徒の考える力、主体性の向上
これに関しては、現在学校教育でも「生きる力」として掲げられていますし、スポーツ界でも課題としている指導者は多いのではないでしょうか。
東京成徳大高校の遠香先生は、昨年のウインターカップ決勝の前日に「桜花にはプレスが効くんじゃないか」と生徒から提案されたそうです。高校生が超強豪である桜花学園との試合を前に監督に戦術的提案をするのは想像つきません。どちらかというと監督の指示をキッチリ遂行するような高校生の方が強豪校でも多いのではないでしょうか。
この主体的な発言は、日頃の積み重ねによるものでした。東京成徳大高では「週末の試合を選手がSPLYZA Teamsで振り返って編集し、今週取り組むべき課題をチームにプレゼンし、練習の方向性を決める」というのをウインターカップまでの半年間コツコツと続けていたそうです。これはコーチでなく、選手全員がいつでも映像にアクセスできるSPLYZA Teamsだからこそできた、と遠香先生もおっしゃっていました。
「振り返る→課題発見→解決方法を考える→周りに提案する(アウトプット)」は、バスケに限らず、全ての行動に通じます。彼女たちは卒業後もそれぞれのステージで活躍する姿が想像できます!
またアウトプットに関しては、つくば秀英の稲葉先生も実践を通して感じていました。
恥ずかしながら誰かが言われたことを自分のことのように聞けない子はうちにもいます。その子のためにも、練習中に言われたポイントを言われた子が映像に書き残し共有します。(その子のためでもありますが)そこにはアウトプットすることによる(書き込んだ子の)学びの深さもあります。
鹿屋体育大学は、監督に質問に来る学生が増えたりと、バスケットに対して受け身だったものが能動的になったという変化を感じられたそうです。最初は映像に振り返りを書くときに「何を書いていいかわからない」という声もあったそうです。そこで振り返りの例を見せ、繰り返し書き込んでいくことにより、バスケに対する理解も深まったそうです。
自分で見たことについて、考え、発信することによって、頭の整理が進みます。そして、より理解が深まり、自分の考えも生まれるようですね!
小中学生における映像活用のキーポイント
今回は中学生、高校生、大学生の指導者にお話を聞いてきましたが、必ずおうかがいしていた質問があります。それは「もし小中学生で映像を活用するとしたらどのようにしますか?」という質問です。
この質問でも多くの共通点が見られました。以下にまとめていきます。
この4つです。
1) 与える情報を少なくする→タグを簡素化
遠香先生、木葉先生から真っ先に出てきた言葉です。小中学生は処理できる情報が多くありません。こちらである程度整理し、シンプルにした方が伝わるようです。
2) グッドプレーをどんどん見せる
稲葉先生は”グッドプレーをどんどん見せることで、グッドプレーの再現も増え、バスケットへの楽しさ、とか「また明日頑張ろう!」と気持ちがワクワクしてくるのではないかと思う”とおっしゃっていました。
他にも原田先生は「自分の良いプレーはずっと見ていても飽きない。それが上達への道」と仰っていました。バスケットを好きになって自分からやることが幸せだし、上達するのではないかな、と講師の皆さんの言葉から感じました。
3) 自分自身にフォーカスさせてあげる
浜松開誠館中女子バスケットボール部では完全に自分自身にフォーカスを実践しています。1)や2)とも繋がっていそうです。原田先生は“自分、自チームにフォーカスするほうがいい。選手のファンダメンタル練習やシュートを撮影し、それに対してコーチがコメントしたら、それに対し小学生は熱中してやり込めると思う。自分や自チームにフォーカスすることでどんどん成長するのではないか”とおしゃっていました。
また「勝利よりも成長やその後のキャリアを優先」という考えを講師の皆さんから感じました。
4) 自分が何をしているかを理解する手助けとする
これは遠香先生と稲葉先生が言及していました。
スクリメージ、5対5を止めたときに「巻き戻して自分がいた位置に戻ってごらん」と言うと戻れない子が結構いると思う。自分が何をしていたかを理解しないと、そのときの課題を自分で分析できない。再現性のない行き当たりばったりなプレーになってしまう。(稲葉先生)
また遠香先生は違う視点から、
ボールを持っているときのプレーはよく見ると思う。オフボールの時に何をしているかをちゃんと見せてあげたほうが良いかな。ボールを持っていない時間の方が長いし、高校生でもリバウンド時に空白になっている子がいる。
とおっしゃっています。 小中学生は特に自分が何をしてたか覚えていないし、整理できていない子が多いと思います。自分が何をしてたか分からなければ反省しようがないです。そして、ボールを持っているときに注目しがちです。ボールを持っていないときの周りの動きがバスケットにおいて重要であることの理解にも繋がります。そして、空白の時間が小さくなればなるほど、オンボールもオフボールもより正しく反省できて、上達するのではないでしょうか。