スペシャル対談 ワクワクで人生を豊かにするために【その1】

公開:2021/06/25

更新:2021/07/19

土井寛之(株式会社SPLYZA代表取締役) × 恩塚亨(東京医療保健大学女子バスケットボール部ヘッドコーチ)

「ワクワク」をキーワードとしてそれぞれの分野で実績を挙げ、注目を浴びているお二人の対談です。スポーツチームがパフォーマンスを挙げるために、そして、人生を豊かにするための思考法について、縦横無尽に語り合っていただきました。今回を含め、全3回の連載でお届けします。(対談はオンラインにて2021年5月31日に収録)

司会:ジャパンライムスペシャル対談企画「ワクワクで人生を豊かにするために」をお届けします。ご登壇いただくのは、株式会社SPLYZA代表取締役・土井寛之氏と、東京医療保健大学女子バスケットボール部ヘッドコーチ・恩塚亨氏です。さっそくお二人にご入場いただきます。

恩塚:楽しみにしておりました。よろしくお願いします。

土井:よろしくお願いします。

司会:お互いに、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。

土井:株式会社SPLYZA代表の土井と申します。2011年に起業しまして、SPLYZAという社名は、SPORTSとANALYZE(アナライズ)を合わせたものです。スポーツの中でも、特にアマチュアスポーツ界に貢献したいとの思いで起業して、4年前からSPLYZA Teamsというサービスを展開しています。

恩塚:今、土井さんの日焼けした素敵なお顔を見て、「もっと太陽を浴びないといけないな」と思いました(笑)。東京医療保健大学で女子バスケットボールをコーチしています。青春バスケで日本一を目標としながら、学生の成長を目指しています。あと、女子の日本代表チームでアシスタントコーチをしていて、オリンピックで金メダルを目指しています。日本バスケットボール協会ではテクニカルスーパーバイザーという役職で、分析によって日本代表チームのパフォーマンスを高める研究・サポートを行っています。この分析という要素で共通点があり、今回、声をかけていただいたのではないかな、と思っています。

私は高校生までシャイで人前で話をすることができませんでした。特に女子とは全く話をすることができず、卒業間近になって「あっ、恩塚君ってしゃべるんだね」と言われるようなキャラクターでした。その後、人見知りを克服するためにひたすら勉強しました。選手としての実績もなかったので勉強するしかなく、選手をうまくしたい、強くしたいという気持ちで勉強するうちに、いつしか攻め心が出てきてしまって、選手に対して「勝ちたかったらやれよ!」という態度で接してしまう時期もありました。そのような経験を経て、今は、選手とチームの命がどうしたら輝くか、を追求しながらコーチをしています。

↑和やかな雰囲気で対談がスタート

7分の7でワクワクする

司会:ありがとうございます。今お話にありました「分析」という点がお二人の一つの共通項。もう一つは、「ワクワク」という概念をキーワードにしてお仕事をなさっていて、この考え方を外部に向けても発信していること。本日は、後者の「ワクワク」を中心に、お二人のお考えをいろいろおうかがいできれば、と思っています。まずは、その「ワクワク」に辿り着いた過程をお聞かせください。土井社長は、「7分の7(1週間のうち7日間すべて)でワクワクする」ことを目標に掲げて今の会社を立ち上げた、とうかがいました。そのように考えるに至ったきっかけは何だったのでしょうか?

土井:もともとスポーツとは無縁で、学生時代もこれと言ってスポーツはやっていませんでした。社会人になって静岡県浜松市に来て、誘われるままにウインドサーフィンを始めたら、これにハマってしまった。気がついたら日本一になりたい、という思いで取り組むようになりました。社会人になってウインドサーフィンを始めて、しかも日本一を目指すと言っても、週末しか練習できません。しかも夜はできない。さらに、風が吹かないとできないスポーツですから、週末に必ず練習できるとも限りません。梅雨の時期や秋雨前線の影響を受ける時期は、丸1ヶ月間練習できない期間があったりします。月曜日から天気予報を見ながら、週末に練習ができるかどうかワクワク、ドキドキしながら過ごします。金曜日の時点で、明日練習ができることがわかると、もう、ワクワクしてしまって寝付けません。

練習ができること自体にワクワクしていたのですが、そこまでワクワクしてしまうと、土日以外の日が、相対的につまらなく感じてしまいます。社会人として普通に仕事をしていたのですが、7分の2と、残りの7分の5のギャップが大きくなり過ぎたんです。ワクワクしないほうの5日間が一生続くと思うと、耐えられないなあ、と。7分の7をワクワクするにはどうしたらよいのか、と考え始めたのがきっかけだったと思います。

恩塚:夢中になれる、というその感覚は素敵ですね。

土井:ウインドサーフィンに誘ってくれた、当時の同僚のおかげです。

恩塚:その時、ワクワク感の大切さをつかみ取ったわけですね。それを仕事にも活かして今も広げていらっしゃると思います。でも、つかめる人とつかめない人がいる。ワクワク感の大切さをつかみ取って、自分の人生を良くしたい、と考えるようなったきっかけは何かあったんでしょうか?

子どもの頃は毎日ワクワクしていた

土井:7分の2しかワクワクしてない、と気づいた時に、子どもの頃は毎日ワクワクしていたことを思い出しました。子どもの頃は「面白いかどうか」ですべてを選択しています。私の場合はスポーツではなく考えることが好きでしたから、パズルの本を読んだり数学の問題を解いたりして過ごしていた。その頃できていたことが今できなくなっている。会社勤めをしていると周りには冷静な奴もいて、「それが大人になるということだよ」という声も耳に入ってくる。しかし私自身は、このまま7分の5の時間を面白いと思えないまま過ごしていく人生は耐えられないな、と思うタイプです。パズルや数学で言うと初めから答えがわかっている問題です。答えがわかっている問題を解くのはとてもつまらないものです。できるかどうかわからないけれども、7分の7をワクワクして過ごすことができれば、確実に長続きするだろう、と。

それで最初にとった行動は、オーストラリアに行って1週間ずっとウインドサーフィンをするというものでした。部活動で毎日練習をする経験がなかったので、とにかく1週間すべて練習してみたかったのです。当時、結婚もしていて、そのような行動をとるのはかなりの思い切った選択だったわけですけれども、その時に、自分の人生の目標を「7分の7ワクワクして過ごすこと」に決めました。そのように一度決めてしまえば、いろいろな選択肢が出てきたときに、その価値観に基づいてシンプルに答えを出すことができます。

恩塚:「それが大人になるということだよ」という声を受け入れずに、自分で自分の生き方を決めたのはカッコいいな、と思います。

土井:ものすごく不安ではありましたけど。

インカレ三連覇しても「幸せ」ではなかった?

司会:ありがとうございます。では、次は恩塚先生の場合をおうかがいしたいと思います。どのようにして、「ワクワク」が最高だという価値観に辿り着いたのでしょうか?

恩塚:「幸せ」について考えるようになったんです。先ほどお話したように、私はコンプレックスを乗り越えるためにガンバリズムで生きていた時期が長く、過去10年間を振り返ってみても休日がないような生活をしてきました。昨年コロナの影響で読書をする時間が多く取れるようになって、改めて幸せってなんだろう、と考えるようになりました。バスケットで頑張り続けて勝利を手にしてきましたが、勝つことで幸せになったんだろうか、と。その段階でインカレ三連覇していたけれども、幸せになれているのだろうか? 選手にも聞いてみたんです。すると「はぁ、そうですね…」と不明瞭な返答でした。

この時、改めて自分の生き方を定義したいとの思いに駆られました。このようなバックグラウンドがありつつ、一方で攻め心もまだ存在していて、「勝ちたかったら、もっと頑張れよ」という気持ちも残りながらコートに立っていたのが昨年の前半。そして9月に行われたある試合で、選手たちが勝つためのプレーを一つこなす毎にふっと気が抜けてしまう、その瞬間に失敗する姿を見て、これは自分が思い描く未来ではない、幸せには結びつかないな、と感じたのと同時に、このやり方は生産的ではないと思いました。

どうすれば生産的にチームのパフォーマンスを高めることができるか。これを考えた時に、選手自身がやりたい、と思える状況、先ほどの土井さんのお話に投影すれば、明日の天気を調べろと言われる前に、自分から喜々として調べる。そんな気持ちになれたら、すばらしいパフォーマンスが出せるようになるのではないか。

「幸せ」になることと「生産性」がこの時点でつながって、この方向性が、おそらく選手たちの人間性を高め、競技のパフォーマンスを上げていく大きな鍵になるのではないだろうか、と考えました。これに気がついた時、激しい口調で「走れ!」などと言わなくなった。急に静かになったので、選手たちは逆に怖かったと言っていますが(笑)。

なりたい自分って、どんな自分?

土井:すると、指導に対する根本的な考え方を変えたのは、この1年の話なんですね。

恩塚:そうです、この1年です。新しい取り組みをしてみてわかったのは、選手たちの変わり方が予想以上だったことです。今までは、勝つための戦略を細かく積み上げて、その80~90%をやりこなして何とか勝つ、という形でした。けれども昨年末のインカレでは、想定を超えたプレーも見られるようになりました。

土井:とても興味深いです。スポーツに限らず、あらゆる組織に通じる話ではないかと思います。

恩塚:「どうやって変わったんですか?」とよく聞かれますが、苦しい思いをして善き人になろうと努力したわけではありません。シンプルに、変わったほうが幸せになれると考え、それを実行しただけです。今の自分を否定して変わる努力をするよりも、「なりたい自分」「目指すべき幸せ」を思い描いて行動したほうがうまくいくのではないか。ダイエットの成功者がよく語るようなロジックですが、今はそんな心境です。

土井:インカレで優勝するという競技成績上の目標があり、それを達成するための行動目標──何を、どのぐらいのクオリティでやっていくか、があると思います。それらにも変化があったのでしょうか?

↑土井社長からの質問に答える恩塚コーチ

恩塚:その行動目標に当たるものを私は「原則」と呼び、「こういう時にはこういう行動をとる」という約束事を設定し、チーム内の共通認識としています。これは言い方を変えると「規律」であり、集団で目標を達成するに必須のものです。けれども規律という認識で各人に受け止められていると、「やらなきゃいけない」義務感に支配されてしまいます。そうではなく、「私が引き受けます」という使命感で同じことができれば、全く質が変わってくるのです。

これを私たちは「スーパーヒーローになるマインド」と呼んでいます。スーパーヒーローになるマインドで取り組めばカッコいい。チームの原則自体は変えていませんが、それに取り組む視点を大きく変えたのが昨年の私たちでした。最初に手をつけたのは、「なりたい自分って、どんな自分?」という問いを発すること。スーパーヒーローになるマインドでプレーすることが、選手たちの潜在的な力を引き出すことになるだろう、と私自身が皆を信頼した、という点も大きな変化だったと思います。

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