スペシャル対談 ワクワクで人生を豊かにするために【その2】

公開:2021/07/02

更新:2021/07/19

土井寛之(株式会社SPLYZA代表取締役) × 恩塚亨(東京医療保健大学女子バスケットボール部ヘッドコーチ)

「ワクワク」をキーワードとしてそれぞれの分野で実績を挙げ、注目を浴びているお二人の対談です。スポーツチームがパフォーマンスを挙げるために、そして、人生を豊かにするための思考法について、縦横無尽に語り合っていただきました。今回連載第2回です。(対談はオンラインにて2021年5月31日に収録)

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ワクワクするかどうかは問題設定の仕方による

司会:(対談その1の最後のところで)恩塚先生ご自身が辿り着いた「ワクワクが最強だ」という価値観をチームの行動原理として落とし込んでいった過程を一部振り返っていただきました。土井社長はリーダーとして、組織内でご自身の考え方をどのように伝えていますか?

土井:人は本質的に誰でもワクワクしたがっている。ワクワクするかどうかは問題設定の仕方によって決まると思っています。私には今、小学生の子どもが3人いるのですが、学校の宿題は誰も面白がってやっていません。ある時、私が小学生の頃に夢中になっていたパズルの本を買ってきて1問目を見せたら、途端に前のめりになって、「答えを言わないで!」と。その時に、「問題設定の仕方によって、ワクワクするかどうかが決まる」ことを確信しました。人はワクワクしない、面白いと思わないわけではなく、面白いと思える問題を提供できていないんだな、と。会社の業務に置き換えると、その人のスキルとか経験にもよりますが、目標は決めた上で、手段はなるべく自身で考えてもらうようにしています。

コーチするよりインスパイアする

恩塚:きっと土井さん自身もワクワクしながら課題を提供しているんだろう、それによって社員の方々もやりがいを感じて仕事をしていらしゃるんだろう、と想像できます。

以前は、教える、やらせることが自分の仕事だと思っていました。けれども私は仕事の定義を変えました。選手、あるいはチームの命を輝かせる手伝いをすること、これが自分の仕事であると現在は定めています。コーチするというよりはインスパイアするという気持ちで接しています(インスパイア:Inspire=鼓舞する、活気を与える)。そのために心がけていることが2つあります。1つめは、「この現場はワクワクしてよい場所だ」とわかってもらうこと。スポーツの現場は、指導者に対して極端にへりくだった態度をとることが半ば常識になっていて、笑ったらいけない、みたいな雰囲気があり、選手たちもそのような環境に慣れています。そうではないことをわかってもらうように心がけるし、それをシンプルに伝えるようにしています。

もう1つは、選手をどう喜ばせようか、常にと考えています。練習の内容もミーティングの内容も、すべてがプレゼントだと。そう考えると自分自身もワクワクでき、そのワクワクの波動が伝わっていくのではないかと。以前は試合中の気になるプレーがあると、その非を指摘するようなビデオを編集して、しつこく見せたりもしていました。今振り返ると、なんと無駄なことをしていたんだろうか、と思います。

待つか、答えを言うか

土井:自分以外の人にワクワクしてもらうことを考えるのは、とても難しい。自分のほうが経験が豊富だったりすると、与えた課題に対する答えをすでに持っているわけで、そこをぐっとこらえて相手がワクワクしながら課題に取り組む姿勢を引き出さないといけない。社員だけでなく自分の子どもたちに対しても、常にその部分の難しさを感じながら接しています。

恩塚:ついつい、答えを言いたくなってしまいます。

土井:スポーツも会社の業務も、一定の期限内に答えを出さなければならないので、相手が変わるまで永遠と待つわけにはいきません。ですから一定の期限を決めて、その間は待つ、という取り決めを相手との間ですると良いのかもしれません。ハイブリッド的な考え方。

恩塚:その考え方はいいですね。スポーツの現場では、選手の成長を待つか、こちらから答えを言ってしまうかで葛藤しているコーチが非常に多いと思います。ハイブリッド的な思考は、救いになるのではないでしょうか。

「楽」を感じたら新しい挑戦課題を見つける

司会:ご自身が常にワクワクするために取り組んでいることは何かありますか?

土井:先ほど、毎日ウィンドサーフィンをするためにオーストリアへ行ったというお話をしました。毎日できればきっとワクワクするだろうと思っていたのですが、ワクワクしなかったのです。1人でウィンドサーフィンが上手くなって、何が面白いんだろう、という心境になった。世界中でウィンドサーフィンをしているのが私一人だとしたら、それはつまらない。日本にいた頃は、この競技で日本一になるという同じ目標を持った仲間たちと一緒に練習をし、お互いに映像を撮り合って、食事しながらあれこれ議論をして高め合っていた。そのプロセス全てが楽しいことであり、ワクワクの源泉であったことに気がつきました。

同じ目標を持った仲間と、その目標に向かっていくプロセス。これは、今現在できていないことに挑戦することであり、まずは目標設定することが大切です。長期間のトライアンドエラーを繰り返して、スポーツの上達や勝利、あるいは会社の成長を感じることができればいい。

「楽しい」と「楽」は同じ漢字を書きますが、楽なことはワクワクしない。楽は現状維持なのでつまらない。私自身、「最近ちょっと楽だなあ」と感じた時には読書をしたりして、新しい課題なり、挑戦できるテーマを見つけるようにしています。

恩塚:楽をしている部分に自分は気づけていないな、とハッとさせられました(笑)。

土井:ただし、効率を上げていくのは楽をすることとは違います。目標を達成するプロセスの中で、効率は上げていかなければならない。効率が上がった結果、自分自身が楽になれば、また次のワクワクを探せばよい、そういうことだと思います。

恩塚:そのようなサイクルに入れば、次々と新しいステージに行けますね。

ピンチはクイズである

司会:恩塚先生、ご自身のワクワクを継続するために心がけていることは?

恩塚:自分自身の状態が良い時に、ワクワクできると思っています。ですから自分のエネルギーを高くキープできるように心がけています。頑張りすぎると視野が狭くなってしまうので、幸せな状態でいる、そんな感覚。具体的な行動で言えば、まず朝早く起きる。遅くとも6時には起きて朝日を浴びる、あるいはトレーニングをすることで自分自身のエネルギーレベルを高くする。朝それをしておけば、感度が良い状態で一日をスタートできる、そう思って実践しています。それから、自然に触れること。長い間、体育館の中だけにいる生活を続けてきたので、太陽を浴びたり公園を散歩したりして、自然の気を感じながら状態を整えること。そしてもう一つは、一流の人と会うこと。今日もまさしくそういう機会をいただいたわけですが、自分にとっての新しい学びを通じてエネルギーレベルを上げるようにしています。

あと、もう少し付け加えさせてください。ワクワクしていると気持ちが高まると同時に、双曲的にネガティブな感情も出てきます。不安であったりとか。そのネガティブ感情とどう向き合えるか、も意識しています。不安、困難に出くわした時の考え方として、「ピンチはチャンス」とよく言われますが、本当にピンチの時は、そう簡単にポジティブになれないものです。そこで、あるコピーライターの素晴らしい言葉に出会いました。「ピンチはクイズだ」と。この言葉に出会って以来、「このピンチはどんなクイズなんだろう?」と考えて向き合うようになりました。ワクワクできなくなった時に、クイズに向き合う気持ちになることで、再度ベクトルを上向きにしていく。これを心がけることで、ワクワクできる時間を長くキープできるようにしています。

最近発見したのは、嫉妬心も使えるな、ということ。誰かに対して自分が嫉妬するのは、自分ができていないことをその人ができるからです。自分ができていないことを気付かせてくれた、そんなふうに嫉妬と向き合えると、自分のワクワクに結びつけることができる。

うまくいかない時のリセット

土井:私は何年か前、仕事が全然うまくいかない時期がありました。ひどく落ち込んで、「もっと仕事に集中しなきゃ」と、自分で自分を追い込んでいました。その時期はウィンドサーフィンもしませんでした。ウィンドサーフィンは夏だけでなく、1年中できるスポーツで、冬場のほうが風が安定するので真冬も海に出るのですが、その年は、初めて冬もやらずに、仕事に集中していた。けれどもその数ヶ月間は、全くワクワクしなかった。途中で、これはさすがにまずいと思って、仕事がうまくいっていなくても、やっぱりウィンドサーフィンは毎週やろう、と転換しました。ウィンドサーフィンは私にとって確実にワクワクすることなので、そこで精神をリセットできることに改めて気づきました。

恩塚:スポーツの指導者は、平日は朝から夕方までみっちり仕事をして、その後部活の指導をして、土日も部活にかかりっきりで、自分自身に余裕が持てない方々が多いと思います。今のお話は、まさしくそのような一人であった以前の私に贈りたいです。

土井:もし、何をやったらいいのかわからない、という方がいたらウィンドサーフィンをお勧めします(笑)。何か一つ趣味でもあれば、リセットすることができると思います。

少し脱線しますが、私は自分で考えて答えを出すことが好きすぎて、他人の理論をあまり採用しない傾向があるんです。私がやっているのはウィンドサーフィンの中でもフリースタイルといって、スノーボードやスケートボードのフリースタイルと同様にさまざまなトリック(技)を競う競技です。技の難度や数で得点が決まります。

自分にとって新しい技に取り組む時、それを完成させるプロセスを自分なりに考えていくのですが、その過程にハマりすぎてしまって、すでにその技ができている人の意見を聞かずに自己流を通して全然うまくいかない、という経験をしたことがあります。その技は、実はちょうど昨日、8年かけてできるようになりました。けれども最初の5~6年間は全く進歩しなかった。さすがにこのままでは人生が終わってしまうと思った(笑)。そこで方向転換して他人の意見を採り入れるとか、素直に真似をしてみるとかしてみて、ここまで辿り着きました。

その過程でもう一つ採用したのは、自分としては関心が低いけれど、比較的難易度が低い課題へのチャレンジも同時並行的に走らせることです。あまりにも難しい課題にだけ取り組んでいると、全体が進歩していないような感じになってしまうので。こうした取り組みによって、ここ2年ぐらいでまたウィンドサーフィンが面白くなってきたところです。

恩塚:自分で考えること、人の意見を聞いて参考にすること、どちらも大事なんでしょうね。

土井:私は本当にハマりやすいタイプなので。それが良い結果に結びつくこともあれば、悪い状況に陥ってしまうケースもあります。先ほど言った、時間制限の中で目標達成するプロセスに当てはめてみると、必ずしも賢いやり方ではないと思います。学生スポーツの場合は3年とか4年の中で一定の成果を出さなければならないので、適宜、他人のやり方を参考にする考え方は大事なのではないでしょうか。

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>> 対談記事第3弾も公開中


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