末端の方法論より概念と経験を与える~アルバルク東京ユースチームの取り組み 前編~

公開:2021/04/30

更新:2021/05/07

Bリーグの強豪チームであるアルバルク東京のユースチームでは、いったいどのような指導が行われているのか。今回は、ジュニア・ユース年代の指導を統括する、塩野竜太アカデミーマネージャーにお話を伺いました。

↑インタビューに答える塩野竜太アカデミーマネジャー

―本日はよろしくお願いします。まずは、アルバルク東京ユースの育成方針を教えてください。

塩野氏(以下:塩):一番大切にしているのは、「好きこそものの上手なれ」という諺を信じること。とにかく、選手にバスケットを好きになってもらって、楽しくプレーしてもらうことを大切にしています。このチームの指導の基準としては、「選手の将来のため」を一番にすること。目の前の勝利よりも、選手の将来を優先して指導するようにしています。

とにかく選手の経験、体験を重要視する

―その中で、具体的に掲げられている理想のチーム像はありますか?

塩:理想のチーム像として、「ヘッドコーチがいらないチーム」というものを掲げています。選手が自分で考えて、自分の判断でプレーすることが一番うまくいくという考えのもとに指導をしています。ヘッドコーチがいらないというのは、コーチのリーダーシップの取り方、役割が変わるということで、今までのように、コーチが意思決定してプレーの指示をしてというようなリーダーシップの取り方ではなく、選手がリーダーシップを取って、選手主体でプレーを作っていく、そういうチームが理想だと思っています。

―選手の将来を優先するということでしたが、日々の指導においてどのような点に留意されていますか?

塩:プロになる年齢として22歳~23歳が多いですので、今指導している選手たちは約10年後にプロになるわけです。そう考えたときに、10年後のバスケットのゲームが今と同じであるはずがないと考えています。ですので、今の主流や今のベストが将来の時代遅れになってしまう可能性もあります。そのことを指導者は理解しておかないといけません。そう考えると、この年代で、特定のスキルや戦術を身につける必要はないと考えています。もちろん、知識の一つとして教えることは意味があると思いますが、もっとバスケットボールの概念とか物の考え方とか、もしくはもっと根本的なコーディネーションや体力的な要素の部分を強化するべきだと。コーチとして、末端の戦術やスキルよりも、上位概念を教えることが、育成年代の指導者に必要ではないかと思います。

―指導者として、10年先を見据えた指導が必要ということですね。その中で、選手にはどんなことを求めていますか?

塩:選手には、とにかく「生のプレー経験」をすることを大切にしてほしいと考えています。「こっちに進むとこうなるんだ」「このタイミングでこうするとこうなるんだ」という実体験、ゲーム経験をたくさん積んで、データを蓄積しないと、いくら指導者に「こうなんだよ」と言われても、腑に落ちないし、本当の意味では分からないと思うんです。今は情報が溢れている分、指導者は、表面的なテクニックや方法論を教えてしまいがちだと思うんです。例えば、人生の格言や教訓を、日本語に触れて間もない小学一年生に伝えても理解できないですよね。年齢を重ねて、自分なりに経験を積んでデータを蓄積するからこそ、その言葉の意味や背景を理解できると思います。バスケも同じで、実体験がないのに、洗練された末端のスキルや戦術を教えられたところで、うわべをなぞっているだけになってしまいます。それでは意味はないですし、我々は、めちゃくちゃでいいからとにかく選手に経験を積ませること、データを蓄積させることを大切にしています。

↑5on5の練習

『組織』としてコーチングする

―その他、アルバルク東京ユースチームとして大事にしていることはありますか?

塩:組織でコーチをしていくということを大事にしています。育成組織は長く続くものだと考えていますし、私のチームではなく、アルバルク東京のクラブとしての育成組織にしていく。そのために、クラブのメソッドにして、誰がヘッドコーチになっても受け継がれて、その後も発展繁栄していくことに注力してきました。2020年12月からは、ヘッドコーチを引き継いで、育成組織として、コーチ陣が共通理解のもとに指導できる環境をこれからも追い求めていきたいと考えています。

―クラブとして、トップチームのバスケットをユースでも意識されているのでしょうか?

塩:実は、「トップチームと全然違うバスケをするね」と言われることが多いんです。それには理由があって、1つは年代が違うということ。あとは、10年後のことを考えたときに、Bリーグのチャンピオンチームではあるけど、10年後のバスケットは変わっているし、今のトップだからといって、盲目的にそれを信じて真似してはいけないと思っています。育成年代の指導者として、10年後は今のバスケットは行われていないということを冷静に受け止めなければいけないと考えています。なので、ユースとトップチームのプレースタイル、見栄えが違います。引き継がれるものは、末端の方法論ではなく、バスケットの普遍的な考え方やアスリートとしての姿勢だと感じています。幸い、トップチームと同じ体育館で練習ができますし、身近にトップ選手を感じる環境にあるので、自ずとそうしたものが受け継がれていくものだと考えています。経営でイノベーションのジレンマという有名な理論があるんですが、バスケットでも同じことが起きると考えていて、今と同じことを繰り返していくことは将来の危機になるということを、コーチとして気を付けておかないといけないと思います。

―ユースのコーチ陣で、そうした指導理念について話をしたり、情報を共有したりする機会も設けておられるのでしょうか?

塩:そうですね。日々、体育館で集まったり、リモートでミーティングをしたりしています。2018年から、Facebookのワークプレースを導入して、組織内のSNSとして活用しています。そこで、各自が勉強してきたことや経験してきたことを情報共有するようにしています。各コーチの良いアイデアやノウハウをオープンにシェアすることを大切にしています。今は、定期的な勉強会も開催していて、毎回テーマを決めてそれをプレゼンしあう機会も設けています。これまでは、コーチは個人商店で、同じチーム内でさえ情報共有をすることが少なかった。それが、業界の発展を妨げているのではないかと感じていました。コーチ同士が一致団結して、コーチも互いに高め合うことに徹している組織ができたら、きっと勝てる組織になると考えて、こうした取り組みを進めています。本当は、チームを超えて、日本全体でそうなるべきだと思っています。育成年代で、誰のために指導をしているのかと考えたときに、まずは選手のためであって。まず組織の中でコーチ同士が助け合い、お互いに学び合うことを大切にしています。


ここまで、アルバルク東京ユースチームの指導の考え方を伺いました。今のバスケットは10年後時代遅れだという考えのもと、選手の将来を一番に考えて組織としての仕組みを作っているアルバルク東京ユースでの取り組みは、これからの育成年代の指導の目指すべき一つの姿ではないかと感じました。後半では、塩野氏ご本人の指導フィロソフィーや具体的な指導法についてお話を伺っていきます。

(取材担当:大野/取材日 2021年4月20日)

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アルバルク東京ユースチーム

アルバルク東京ユースHP:https://www.alvark-academy.jp/youth

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