ゲームがすべてを教えてくれる~アルバルク東京ユースチームの取り組み 後編~

公開:2021/05/07

アルバルク東京・塩野アカデミーマネジャーへのインタビュー第2弾。ここからは、塩野氏ご自身のコーチング論についてお話を伺っていきます。

バスケットを理解すればスキルは自然と身につく

―ここからは、塩野さんご自身の指導者としてのお考えを伺いたいと思います。塩野さんが育成年代で、最低限身につけておくべきだと考えていることは何でしょうか?

塩野氏(以下:塩):ルールを理解することです。小学生1年生でも、プレーヤーの権利の概念を教えるとバスケットボールが上手になります。「みんな自由に動き回れて、それを邪魔したらファールなんだよ」「やりたいことがみんなできるんだよ。シュートしたい人のカラダを触ってそれを邪魔したらファールなんだよ」と教えると、自然とどうすればディフェンスができるかということを考えて、ボールだけを触るようになるんです。そうなると、スライドステップとか手を上にあげるということをやるようになるんです。
そうした、基本の動き、パスやシュートやドリブルやディフェンスの動きが起こるように、ゲームが自然に導いてくれるんです。なので、シュートやパス、ディフェンスのステップを教えることにあまり必要性を感じていなくて、ゲームの目的やルールを教えてあげたら、勝手にその動きが身につくように設計されているので、年代問わず「バスケットボールとそのルールに対する」理解が重要だと思います。また、指導者がそれを理解することが凄く大切で、コーチもルールに興味を持ち理解をすることがとても重要です。アルバルク東京ユースチームでは、選手にも1人1冊ルールブックを配っていて、選手達もしっかりとルールを理解しています。そうすると、正しいスキルが自然と出てくるので、まずはルールの理解が一番大切だと考えています。

↑選手自身がいろんなスキルに挑戦して身につけていく

―ファンダメンタルやスキルの指導についてはどのようにお考えでしょうか?

塩:いわゆるテクニック、ファンダメンタルは教えだすときりがないと思います。教えるという方法で身につけさせるには時間的に無理がある。そのくらい、バスケットボールは複雑な競技だと感じています。であれば、原則を教えて、あとは実体験から自分で学んでもらう。コーチが教えるというのは、あくまで手段の一つで、その手段を取らなくても、選手がスキルを身につけるのは可能だという考えで指導しています。

―そうした考えに至った理由はどこにあったのでしょうか?

塩:一番大きかったのは、プロチームでビデオコーディネーター、分析担当を務めさせていただいた経験です。強いチーム、良いチームというのがどういうチームかということを、観る、感じる機会を持たせていただいて、大事なのは最新の戦術を使うことではなく、もっと普遍的なところにあるということがわかりました。結局臨機応変にやれることが最強なんだと気づいたんです。それまでは、計画して緻密に技術や戦術を積み上げていくことが素晴らしいと考えていたのですが、「どうやらそうはいかないぞ」と。すごく精密に設計することで、逆に大切なことが抜けているな、ということを感じるようになりました。そこで、どうすれば良いのだろうかと考えるようになったのが、今の指導スタイルを築くきっかけですね。

サッカーの指導からヒントを得た練習メニュー

―そのほかに、ビデオコーディネーター時代の経験で指導に活きている部分はありますか?

塩:ある強豪チームと戦うときに、普通の戦術ではありえないスペーシングで、2人の選手の距離が狭いのに、その選手を止められない、守り切れないということがありました。理想とされているスペースはあるけれど、彼らのスキルからするとそのスペーシングで十分だったということです。むしろ、その選手達からすると、そのスペーシングがベストだったとも思います。そうした選手のスキルや力量によってチームの戦術を変える、つまり選手個人の組み合わせでチームができているということを痛感しました。そのあたりから、個人戦術というものがあるということに気付きました。テクニック、個人技ではなく、個人の戦術ですね。
そこで、どうやらサッカーには個人戦術という考え方が浸透しているということで、サッカーの指導法を勉強するようになりました。サッカーの指導を学ぶ中で、バスケットの指導に足りていないのはこれだな、という思いが出てきて。今の練習でも、サッカー的な要素を取り入れたものが多くなっています。

―サッカー的な練習のポイントとはどのあたりでしょうか?

塩:バスケットの指導は、どちらかというと分解してパーツを積み上げて全体を作り上げようという流れが多いです。サッカー的な指導では、全体から、チームの目的に応じて分解していきます。シンプルに言うと、分習法か全習法かということです。全習法では、しっかりゲームの要素を含んだまま分解していきます。私は、分習法には弱点があると思っていて、それは、コーチの理解の範囲では完璧なピラミッドができているように見えても、実は穴だらけという事態に陥ることです。バスケットは、下から積み上げて全部埋めることができるほど単純な競技ではないですし、全部を理解することが難しい複雑な競技だと思いますので。その代わり、ゲームはすべての要素を含んでいるので、ゲームから分解して指導していくことが理想だと考えています。

―これから先、目指すものは何かありますか?

塩:正直、将来のことは分かりません。先行きが分からないからこそ、やりながらその時々のベストを尽くすことだけを考えて指導をしています。2018年のユース立ち上げの時から、今の姿を明確に定めていたわけではないですし、目の前の選手達を見ながら、その時のベストを模索してきたからこそ、今があると感じています。大きなビジョンを持つ必要はあると思いますが、そのビジョンと現状を照らし合わせて、今何をするかということを一番に考えて行きたいと思います。
ひとつ言うなら、コーチも選手も幸せになれる指導環境を広めていきたいと感じています。現状、指導者や保護者からのプレッシャーに選手が苦しめられるケースがあります。勝つことが偉いという考えや、バスケットが進路に関係しているということで、内発的モチベーションで始めたバスケットを、外発的動機づけにすり替えられてしまっている選手が多くいることが、現代バスケの課題だと感じています。指導者として、選手のモチベーションを奪わないこと。選手がバスケットボールが楽しくて、好きで、自ら進んでバスケットボールに取り組める環境を、育成年代で広めていければという思いはあります。そのために、自分自身も勉強したことを発信していきたいと考えています。

疲労度を戦術に反映させる!?

インタビュー終了後、練習を見学している際に、塩野コーチより「プレータイムのシェア」についてもお話をいただきました。

↑5on5の練習も常に90秒で行われている

塩:アルバルク東京ユースチームでは、必ず全選手が試合に出場するようにしています。機会は全員に平等に与えられるべきという考えのもと、プレータイムも均等になるように、90秒ごとに選手を入れ替えるようにしています。やはり、プレーができないと当事者意識を持つことができないと思います。選手が成長するためには、当事者意識をもって練習に取り組む必要がありますが、「当事者意識を持てよ」というよりも、必ず試合に出てプレー出来れば、自ずと当事者意識を持てると考えています。もう一つ、モチベーションを高めるために、あえて「コーチは選手を評価しない」と決めていて、選手にも評価しないことを宣言しています。スタメンを決めたり、プレータイムの配分をしたり、コーチが采配すると、評価が必要なりにます。そうすると、選手達はコーチを見てプレーするようになってしまうと思います。システムとしてそういう環境になってしまいますよね。トップリーグでは、プレータイムを求めて移籍する例がありますよね。そう考えると、バスケットにおけるプレータイムは、お金と同等かそれ以上の価値があって、そういうことをコーチが認識しておかないといけないと思います。プレータイムを配分するということは、意識しているかどうかに関わらず、プレータイムという権力をツールとして選手を支配しているということになるのではないかと思います。それは、外発的動機づけになってしまうので、やはり選手の内発的動機づけを大切にするためにも、プレータイムを均等にして、選手を評価しないことがベストなのではないかと考えるようになりました。

―それを実践しようとすると、収拾がつかなくなるということはないのでしょうか?

塩:もちろんそういう危険性もあるかもしれませんが、選手には「バスケ選手ならチームのメンバーの力を高められることも競技力の一つだよ」と伝えています。一番考えられるのは、自分がもっとプレーしたいという不満が出ることだと思います。しかし、先ほど言った観点から、自分がいくらうまいと思っていても、チームとしての結果であり、チームを勝たせる選手になるために周りを高めることにも注力してほしいと指導しています。そういうメンタリティーが、ゆくゆくトップレベルに行ったときに必ず役立つと信じています。

―なるほど。ほかにプレータイムをシェアするメリットはありますか?

塩:私自身、いかに身体的に効率よく得点できるか、プレーできるかということを考えています。これは、今までのバスケットボールの指導では、ほとんど考えられてきていない部分だと思います。バスケットボールは、数少ない交代が無限にできるスポーツです。本来、息が上がるまでプレーさせなくても良い。長い時間続けてプレーできるということは、どこかで強度を調整して、長くプレーするために動いているのだと思います。その中で、90秒ごとにフレッシュな選手が出てきて、フルスプリントでプレーする。試合終盤でも、常にフレッシュにプレーできることで、戦略的に優位に立つことができます。そういうことができるように、スタメンを決めず全員が練習から試合に出るためにプレーしているので、誰が出ても相手にとっては脅威になるのではないかと考えています。疲労度を戦術に反映させるということが、これからは重要になるのではないかと思います。


2回にわたり、塩野氏のインタビューを紹介させていただきました。コーチが教えないで、選手の経験値を積ませること。サッカーからヒントを得た練習メニューを取り入れることなど、これまで正しいとされてきた指導観を覆し、新たなカタチを模索し続けている塩野氏。これから、更にその形を発展させて、アルバルク東京ユースが選手も指導者も育成、輩出する組織になる。それが、日本バスケットボール界の発展に大きく貢献する。そんな未来を目指す取り組みに、今後も注目していきたいと思います。

(取材担当:大野/取材日 2021年4月20日)

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