中学生のパス、シュートの飛距離を伸ばすトレーニングは? ドライブの初速を上げるトレーニングは?

公開:2020/11/27

更新:2021/05/17

バスケットボール選手の体力強化 Q&A 第1回

2020年9~10月に行われたジャパンライムのオンライン講座「全てのカテゴリーに必要なトレーニングの考え方と実践」から、質疑応答の内容を抜粋して紹介します。本講座は、東海大学でトップレベルの選手たちのトレーニング指導に携わる小山孟志氏(東海大学スポーツ医科学研究所講師)を講師にお招きし、受講者の方々には、バスケットボール選手に必要な体力要素やその開発方法を全5回に分け、体系立てて学んでいただきました。

ここでは、受講者の方々から寄せられた質問に対し、小山氏が回答した内容をまとめたものを3回にわたってご紹介します。

■本コンテンツは、講師の小山氏と質問者の方から許可を得て掲載しています。


プロ選手のパスが、「鋭く遠く」飛ぶ理由──地面からの反力をしっかりボールに伝える

Q. 中学生を指導しています。パスやシュートの飛距離を効率的に伸ばすトレーニング方法を教えてください。

A. 事前に質問をいただいていたので、東海大学男子バスケットボール部の主要なガード陣にも聞いてみました。すると、複数の選手から返ってきた答えが、「どこを鍛えるかと言うより、どれだけ脚を使えるか」というものでした。これは私自身が持っていた見解にかなり近く、地面からの反力をいかに効率よくボールに伝えるか、がパスやシュートの飛距離に反映すると思います。最近、女子選手のボールの飛距離と筋力の関係について調べた論文が出ているのですが、それによると、スクワットやベンチプレスの記録と飛距離は相関がない、という結論が出されていました。つまり、筋力が高ければボールが遠くに飛ぶわけではないということです。膝と股関節を曲げて、下半身で受けた反力をいかに効率よくボールへ伝える能力が大切であると考えます。

私が見た中で印象的だったのは、現在Bリーグの宇都宮ブレックスでプレーしている鵤(いかるが)誠司選手で、彼は本気を出すとベースラインに立って反対側のベースラインまでストレートパスを投げることがでるそうです。彼はスナッチやクリーンの動作がとても上手で、全身の筋肉をスムーズに連動させることができます。鵤選手のトレーニングを見た時に、そうした筋肉の連動性といった能力が、パスやシュートの飛距離につながっているんだなあ、と強く思いました。

中学生が全身の連動性を高めるのであれば、メディシンボールを使ったエクササイズが一つおすすめできますしゃがみ込んだ状態から全身をバネのように使って真上に思い切りボールを投げる、または斜め前方できるだけ遠くへ飛ばす(いずれも両手で)。こうした運動を通じて、下半身から上半身にうまく力を伝達するような練習をすると良いのではないかと思います。

東海大学の選手から出てきた意見では、山なりのボールで遠くへ飛ばす練習よりも、できるだけ地面と平行なストレートパス投げ、その飛距離を伸ばしていったほうがよい、中高の指導者にもそのように教えられた、というものがありました。この考え方も、地面から得た反力の方向を、パスを出す相手の横行に合わせるという意味で理に適っていると思います。

メディシンボールの投げ方は、いろいろなバリエーションがあると良いでしょう。持ち手はアンダーハンド、チェストパス形式の両方使う。投げる方向は、真上、斜め前方、あるいは斜め後ろなど。最初はメディシンボールでなく、バスケットボールを天井に向けて全力で投げる、という試みでもよいと思います。地面の反力を効率よくボールに伝える動作を体感してもらうところから。


股関節の伸展力アップが、動き出しの爆発力につながる

Q. ドライブの初速を上げる、その反対にストップの能力を高めるためのトレーニングは?

A. バスケットボールの一つひとつの動作を意識して、それを高めるために、というアプローチは私達もしておりませんが、結果的に、そうした能力の強化につながるという観点で、いくつか紹介します。

最初は、股関節のヒンジ動作です。ルーマニアンデッドリフトとも呼ばれるもの。ヒンジというのはドアの接続金具として使われる蝶番(ちょうつがい)のことで、蝶番が開いたり閉じたりする動作が股関節を中心に行われることをイメージしてください(動画参照)。

動作のチェックポイントは、胴体の傾きに合わせて骨盤が前傾できているか。そして、背中から力が抜けずにしっかり固められているかどうか。お尻と大腿部の裏側(ハムストリングス)の柔軟性が、この動作をするためには重要です。最初は写真のように重たいバーベルを持つ必要はなく、バーだけで構いません。まずは両脚立ちの状態で動作を身に着けるところから始めます。バーを下げる目安としては、脛の真ん中あたりまで。ここまで下げられると、大腿部裏側の柔軟性があると言えるでしょう。つまり、このトレーニング自体が柔軟性改善にも役立つということです。最終目標としては、片脚でこの動作ができることを目指します。下半身の基本トレーニングであるスクワットは必須として、それにプラスして、このヒンジ動作強調のデッドリフトを行っていくことをおすすめします。

ドライブで爆発的な動きをするときに必要になるのは、まさしく片脚でのヒンジ動作です。この動きをしっかり学習して、なおかつ出力レベルを高めることができれば、初速を上げる、という目的に近づけると考えます。チューブを腰に取り付け、後ろから抵抗をかけて爆発的に走り始めるトレーニング方法もあります。この動作をすると、股関節の伸展を強調した動き出しの練習になります。

もっと手軽な方法としては、坂道ダッシュ。上り坂でのスタート姿勢は、自然とドライブの動き出しと同じような前傾姿勢になります。その姿勢で地面をしっかり押して前方への推進力を得ることを意識付けしながらやるとよいと思います。動き出しのスピードが重要なので距離は20~30m程度で十分です。神経系の改善を意図していますので回数をたくさんやるというよりは、10本程度を集中してやる形をおすすめします。

坂道ダッシュで競争性を高めるための方法を紹介しましょう。3人ずつ走らせます。ゴール地点にマネージャーが立って、1位2位3位の順位をつけます。スタート地点に戻ってきたら、1位の選手は1つ前の組に移動、3位の選手は1つ後ろの組に移動します。これを繰り返すと、各組のレベルが次第に均一化してくるので、選手は手を抜けない。スタートダッシュをしっかり意識してこれを行うと、臀筋とハムストリングスに強烈な刺激が入り、翌日も筋肉痛が起こってきます。選手にとってもわかりやすいスプリントドリルです。

次にストップに関して。ストップ動作は、急激な減速動作ですから、筋肉に加わる負荷がスタートダッシュとは全く異なります。特徴としては、筋肉が引き伸ばされながら収縮する、いわゆるエキセントリックな動きが起こります。筋肉痛の主な原因になるとも言われていて、筋肉にとってダメージの大きな負荷となります。ですからその負荷に耐えられる筋力をつけていかなければなりません。方法としては、先ほど挙げたスクワット+ヒンジ動作強調デッドリフトが基本になります。前提として、動作が正しく行なわれるための柔軟性が確保されていること、つま先や膝が向いている方向が間違っていないこと等、正しいフォームで行うことに留意してください。


>>> バスケットボール選手の体力強化 Q&A 第2回を読む

>>> バスケットボール選手の体力強化 Q&A 第3回を読

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